黒葛原深弥美:第一話 気になるあの子とお約束?
転校初日、早速遅刻しそうになった。
「遅刻だーっ」
食パンをかじりながら登校なんて、あまりにも非日常だ。
日本人ならやっぱり朝は味噌汁とご飯じゃないと力が出ないぞい……ゆっくり朝食を採っていたら時計が壊れていたのを忘れていたのだ。
中途半端に壊れていたからか、ちゃんと針は進むんだよ。しかし、ゆっくり動いていたからなぁ……いっそのこと爆発するぐらいの壊れ方ならよかったのに。
そんな事を考えていたからか、はたまた、結局口にくわえてきていた食パンが落ちそうだったので咥えなおしたからなのか、それとも『お約束』なのか…。
「っと……あわわっ。あぶっ……」
「きゃっ」
曲がり角からいきなり出てきた相手とぶつかってしまった。更に勢い余って押し倒してしまう。
「ったたた……大丈夫?」
自らぶつかっていって、押し倒す。気付けば、相手の胸を鷲掴みにしていた。
「……」
お、大きい……。
つい、我を忘れて二度三度と、押し倒した相手の胸を揉んでしまう。故意じゃないぞ? 事故なんだぞ。
「……ぁうっ」
「はっ……」
相手の切なげな声を聞いて俺はようやく、女子生徒と目を合わせた。
長い髪の間から見える大きな目は、潤んでいる。
「ご、ごめん。わざとじゃないんだ」
馬乗りになっていたので、慌てて立ち上がる。パンツもモロ全開だった。真っ白なパンツが朝日に眩しい……。
「……っと、ごめん。俺が不注意なばっかりに」
相手を助け起こそうとして気がついた。
あれ? 遅刻しそうな感じの割に人が多いな……ではなく、パンツ全開なのに男子生徒はこちらをみることなく素通りしていく。さらに、一匹の犬が俺のトーストを咥えて何処かに持っていった。
シャイボーイが多いのかと思えば、パンチラ相手の顔を見て慌てて逃げていくのだ。
「?」
目の前の少女の顔を確認してみることにした。
髪が長くて良くわからないものの、ちらりと見えたその髪の下は間違いなく可愛かった。
「っと、いかん。女の子の顔を見ている場合じゃねぇっ……。御免、俺急いでる。今日からこっちに転校してきた二年の白取冬治って言うんだ。君は?」
飛んでいった鞄を拾って、相手に渡す。俺も自分の分と思われる鞄を拾う。
「……黒葛原、深弥美」
つづらはらみやみ、さんか。つづらはらやみやみって言いそうになった。
言いづらいが、逆に覚えやすい名前かもしれないな。
「わかった、放課後辺り呼び出してもらって改めて詫びを入れるよ。じゃ、俺は急ぐから!」
名前さえ覚えていれば、教師の誰かが知っているだろう。
俺はそう考えてその場を後にしたのだった……自分でも酷い謝り方だと思っていたけどね、それだけ急いでいたのさ。
「……って、やべ。どうやら鞄を間違えちまったようだ」
鞄の中から『基本のクロマ』やらイモリの黒やきっぽい何か、何かの骨、日の当て方によって色が変わる小瓶が出てきた。
これは間違いなく、今朝ぶつかった少女の持ち物だろう。
「……しまったなぁ」
俺の鞄の中にはシェクシーグラビアの写真集が入っている。しかも、結構きわどいものだ。
先に言っておくけどさ、俺のじゃないぞ。この学園に通っている親戚が持ってきてほしいと言ったのだ。
あれを女子生徒……しかも、押し倒してあまつさえ胸を揉んだ相手にみられるのは如何なものか。わざとやったのではないかと思わないだろうか……いや、さすがにそれはないかな。
放課後まで待つのも手だ。でも、一刻も早くあの本を親戚に返さねば怒るだろうからな。
「やっぱり、探しに行くか」
必死こいて走ってきたおかげか、時間はたっぷりある。各教室に時計はあるし、生徒の動きを見ていればHRまでには戻ってくる事が出来るだろう。
まずはトイレにでも行くかと、曲がり角を曲がろうとしてまた誰かにぶつかった。
「いたた……すみません」
挙句、押し倒していたりする。
「……」
「おや?」
また、俺は胸を揉んでいた。
どんだけ好きなんだよ……いや、大好きだけどさ。
この胸、揉んだことあるぞ? わしづかみにしている胸への視線をそのまま上げていく。するとそこには今朝出会った少女がいるではないか。
「こほん、二度目だけど……わざとじゃないぜ?」
「……うん」
信じてもらえたようで、嬉しい。
さっさと胸から手を離して立ちあがる。勿論、彼女を……黒葛原深弥美さんを起こす事もわすれちゃいない。
其処らに転がっていた俺が持ってきた鞄を、俺は黒葛原さんへと渡した。
「……?」
「俺、どうやら間違えて黒葛原さんの鞄を持って行っちまったようなんだ」
「……中、みた?」
「ごめん、見ちゃったよ。俺の鞄の中は……みた?」
「……見てない」
左右に軽く首が振られた。
「よかったぁ…」
心底ほっとしたぜ。もし、みられて居たら間違い無く『転校生は巨乳好き』と言われたに違いない。
いや、好きだけどね?
「おっと、そろそろ始まる時間だ。黒葛原さん二年生?」
「……C」
そう言われて俺はつい、さっきまで揉んでいた胸へと視線を向ける。
Cカップ? それ以上あったと思ったけど……そんな事を言えるはずもない。
「……C組」
俺の邪念を読み取ったのか、目の前の少女は胸を隠すように鞄を抱いてそう言った。
「あ、C組か……それなら俺と一緒だ」
右手を差し出してみた。
「……」
全く、彼女からの反応は無い。多少、警戒しているようである。
「だよねぇ。よろしく……といっても、仲良くしてくれるかどうかわからないね。でもさ、朝のあれは違うんだよ! 本当だよ!」
押し倒して、二回もおっぱい揉んだ相手と仲良くしてくれるような……そんな優しそうな子には見えなかった。
むしろ、率先して恨みを辛みを俺の藁人形作ってたたき込みそうな人だ。
「よ、よろしく―……」
もう一度だけ、勇気を出し右手を差し出してみた。
「……こちらこそ、よろしく」
「よかったぁ……」
外見で人の判断しちゃ駄目だね。うん、これは何だか楽しい学園生活がおくれそうだ。




