黄金鈴:第十二話 ベル
目の前に居るのはたった一人の人間だ。
俺より年下で、女の子……更に身体が弱いときた。物理的に……。
そんなことは関係ないか。
「俺は鈴が好きだ」
「え、えっと……あ、ありがとうございます」
腕の取れたままの鈴は何度か口を開け閉めしてから顔を真っ赤にして、そういった。
「……夢じゃないですよね?」
そういって鈴は自分の頭を叩いた。
鈍い音が響き、頭が床に落ちる。
「こらこら、そういう乱暴な方法があるかよ。
床に転がった頭を拾い上げると、目があった。
「ん……」
鈴は目をつぶり、俺に何かを訴えてきている。
周りに当然、人はいない。ここは俺の部屋だしな。
「なぁ、鈴」
「は、はいっ」
「さすがに分離してキスするのはどうかと思うぜ。するんなら、ちゃんと身体をくっつけてからにしよう」
「え、えーっと……はい」
消え入りそうな声を出す頭を身体へとセットする。ついでに、ぶら下がり型の電灯に引っかかっていた腕も取ってくっつける。
「すー、はー……すー、はー……」
キスをするのに準備体操なんて要るのかどうか、知らないが……まぁ、好きにやらせておこう。
「と、冬治さん……あの」
「ん?」
「好きです」
「ああ、俺もだよ」
身体をくっつけ、鈴を強く抱きしめる。
「あぅ……恥ずかしい。と、冬治さんも恥ずかしいですか?」
「俺? 俺は……冷や冷やしてるよ」
「冷や冷や?」
「強く抱きしめたら鈴がバラバラになるんじゃないかってさ」
「そんな、なるわけないですよ。もっと、強く抱きしめてください」
鈴がいいと言ったのだ。俺は試しに強く抱きしめてみた。
「あふんっ」
「……やっぱりか」
せっかくのいい雰囲気が台無しである。
「ばらけちゃいましたね」
足元に転がった頭がまるで他人事のようだった。
「あの、申し訳ないんですけど……もう一度、戻してもらえますか?」
「やれやれ、俺らにはこっちの方がいいのかもな」
「え?」
転がる生首を抱きあげて、俺はその唇に自分のそれを押しあてた。
「落ちて怪我、してないか?」
「は、はひっ」
照れている頭を胴体に戻し、これまた転がっている他の部分も胴体へとくっついた。
「……あ、あの、もう一度だけ。ぎゅって、抱きしめてください」
「またバラバラになるだろ」
「それでも……好きな人には抱きしめられたいんです」
「わかったよ」
俺が気をつければいいだけだ。
その後、俺は何度か試行錯誤を繰り返し、鈴を抱きしめてもバラバラにならない力加減を覚えるのであった。




