黄金鈴:第六話 真っ二つヒップ
「それではっ、根性会をこれよりはじめまーすっ」
司会進行のバスケ部のマネージャーが告げる。
「……わーぱちぱち」
返事をしたのは野球部では鈴だけだった。
話を聞いているのも鈴だけだ。
こうやって盛り上がっているマネージャー達を除いて、根性会で発表する部員たちは熱心に段取りを確認し合っている。
ま、ぶっつけ本番だから念入りなのだろう。俺は叩かれるだけで、住良木先生は叩くだけだから事前の段取りは必要ない。
「楽しみですね!」
「……そうだな」
鈴の言葉についにこの日がやってきたのかと気持ちが沈むのを感じた。
俺の相棒となる住良木先生は剣士のごとく、精神統一をしている。
「では早速行ってみましょう! 私の所属しているバスケットボール部、お願いします!」
根性会は屋外でやっている為、それなりに大きなセットも準備されていたりする。
「しかし、これはアホだろ」
水が流され始めた滝を見てため息をつく。滝なんて一体何に使うんだ。
「ちなみに、今年の部費は殆どこれに使用されました」
それなりに大きなセットとは言わない、こんな大掛かりなセットいくらつぎ込んだんだろうか。
そこまでこの根性会とやらに賭けているのだろうか?
「一番、バスケ部主将……顕道、行きます!」
バスケ部なのに、けんどうって名前なのか。
名前はともかく、根性会に命かけているみたいだな。
「根性で落ちてくるものを避けるんですかねぇ」
鈴がそう言うので俺も考えてみた。
昔あった落ち物ゲーみたいだ。
「……普通に精神集中するんじゃねぇの? もしくは、サッカーボールで滝を割るかもよ」
バスケ部なのにサッカーボール何ですかという突っ込みを鈴に期待している。
「それ、根性ありますね!」
根性とは言わないだろうなぁ……どうやら、俺がボケちゃダメみたいだ。
俺らがくだらないやり取りをしているうちに十メートルほどの滝の上から『OK』の立て札がバスケ部主将へと向けられる。
「わかった! 見ていてくれ!」
そんなセリフを吐いて、前へと躍り出るバスケ部主将。精悍な顔つきである。
「うおおおー、優香! おれは、根性でこの滝を登りきってやるぞーっ。がばっ、ごばっ」
そういって滝つぼを泳ぎ、急斜面を昇り始めた。
「急斜面って言うよりありゃ、直角だな」
俺の言葉に他の部の連中も頷いている。
「……直角じゃ、無理だろ」
俺達の言葉をよそに静かに目を瞑っていたはずの先生が滝を見上げていた。
「直角じゃないみたいです。あれは……七十五度ですね。根性があればいけますよ。ましてや……想い人がみているならね」
冷静な感じで住良木先生が断定する。
「そんなもんですか?」
「そういうものです」
いくら想い人が見ていたとしても出来ない物は出来ないと思う。
「愛があれば、何でも出来ますよ!」
鈴はそういって真剣な目つきでバスケ部主将を見ていた。
「大丈夫、いけるよ!」
司会者も応援しながらバスケ部主将を熱っぽい視線で見つめている。
「うおおおおおおっ! 俺はやった!」
どういう人体構造をしているのか、はたまた視えない何かが働いているのか……どう考えても無理だと思われる滝を登りきった。
昇りきった時、周りから盛大な拍手が送られるも、滝の上で恋人と抱きしめあっていたのでブーイングに即変わった。
「……根性あるなぁ」
率直な意見である。これが根性かどうかはわからないが。
「いいえ、これは、間違いなく愛の力ですよ! 愛の力は根性より偉大なんです!」
変なスイッチが入ってしまった鈴は一生懸命、好きな女性のためなら男性はどんなことでも出来るんです! と説いてくる。
鈴のおかげで愛はとても凄いという事は良くわかった。が、しかし……これは根性会である。
その後もアホらしくも、学園生らしい根性(丸太が飛んでくるのでそれを蹴飛ばしたり、熱した鉄板でぴったんこの根性や……こほん、これは止められた)のある行動? の数々。
「ソフトテニス部副部長です。俺、三十路の数学教師、四季先生に『気があります』ってアピールしたよ!」
「根性ありすぎ!」
「お前、住所特定されてるぞ!」
「……そして、今日。これまで友人に預けていた携帯電話を返してもらった。早速確認してみまーす!」
ソフトテニス部副部長の動きが止まった。
「ど、どうしました?」
司会者が近づく……顔を上げたソフトテニス部の副部長の顔は恐怖に染まっている。
「ちゃ、着信履歴に登録した事の無い番号が……そ、それに未読メールがカンストしてる……」
それは根性あるわけじゃないと思うんだ。
その後、ソフトテニス部副部長は気絶して退場してしまった。
彼が退場すると、とうとう俺の出番だ。
「えー、では最後ですね。文化系野球部さんです」
「文化系野球部?」
名前、変わってるじゃないか。まぁ、いいや。
「内容はマネージャーが根性と言いながら、部員が教師にお尻を叩かれる……去年と同じ内容です」
「意味わからねぇ」
「それ根性あんまり関係なくね」
白けた感じが漂った。去年は三発で終わったろ? そもそも、野球部壊滅したろ? 等と感想が飛び交ったりする。
「このままやっても不評でしょうね」
「そのようです」
俺の言葉に住良木先生も頷いた。
「でも、安心してください。わたしに作戦があります」
住良木先生はそう言って、竹刀を握った。
「本当ですか?」
「ええ、ですので、根性、見せてくださいよ」
「は、はぁ……根性会ですから頑張ってみます」
「それと、お嬢様はこの目隠しをして根性と言ってくださいね」
「わかったわ、住良木」
目隠しをした鈴は俺の手を握っている。
それでは、お願いしまーすと言う視界の声に鈴が声をあげる。
「こ、根性-っ」
「一発目!」
「いっつぁあっ」
尻にミサイルが突っ込まれたのかと思ったら、竹刀が折れて飛んでいった。白けていた雰囲気が一気に無くなった。
え、今何が起こったの?
折れた竹刀が……コンクリに突き刺さってるよ?
「いたたた……手加減してくださいって!」
「教師と、生徒は心からぶつかるべきです」
新たな竹刀を住良木先生が準備していたりする。
その目はいっちまった人間のそれに似ている。やばい、これはマジだ。
「剣道部の竹刀を全部、折るつもりで行きますからね」
「にこやかに言う事じゃ……ないですよ」
不敵に笑う住良木先生に俺は聞いてみることにした。
「あのー、お尻いくつあれば足りますか」
「大丈夫です、貴方の立派なお尻が一つあれば十分ですよ」
にっこりと笑う住良木先生に他の部の女子部員が『……ああ、私も叩かれてみたい』とか他の男子生徒は『うほっ』等と言っている。
結果から言わせてみれば『実に古典的な根性でした』と見事優勝できたりする。
「来年は竹刀じゃなくて金属バットですね。無論、へし折るつもりで行かせてもらいますよ」
実に生き生きした住良木先生と、対照的に俺は魂が抜けていた。途中から耐えているんじゃなくて気絶していただけの気がする。
「では、優勝した文化系野球部さん、表彰台までお願いします!」
「ふぇ……」
「だ、大丈夫ですか?」
鈴に付き添われながら表彰台までやってくる。
頬を何発かぶたれて俺はようやく正気に戻った。
「本当に大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。いつつ……でも、お尻が二つに割れたかもな」
「ほ、本当ですか?!」
冗談言って安心させようとすると真っ青になった。嫌な予感がする。
天然ボケは鈴の担当だろう。
「た、大変です……すぐに見せてくださいっ」
「あ、う、嘘嘘、冗談だっ」
ズボンを掴んだ鈴を乱暴に離そうとして……出来なかった。そりゃそうだ、ちょっとでも俺が力を加えれば鈴は大変な事になってしまう。
尻に竹刀を受けると言う根性を見せつけた俺……そして、表彰台で尻も見せつける羽目になったのだった。




