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黄金鈴:第四話 恐ろしいティーチャー

 かったるい運動会がそろそろ始まる。

 開会式も終わって、競技の準備が始まっていた。

「ふあー……眠い」

 幸か不幸か、俺が出る競技はクラス対抗だけなので比較的暇な部類だと言えるだろう。

 女子の体操服姿を眺めていたら視界の端に黒髪がちらついた。

 俺にこうやって話しかけてくれる女子なんて殆どいない。

「鈴か」

 太陽の光を浴びて輝いた気のする後輩は穏やかな笑みを浮かべている。

「白取先輩、おはようございます」

 体操服姿も可愛いもんだ。

 まばゆいブルマ姿を脳内に保管し、立ちあがる。あちらこちらで俺たちみたいに話をしている生徒達がいて活気づいている。

 勿論、それらは全て同学年同士だろう。

「どうかしたのか?」

 会いに来るとしても、用事が無い時には基本的に来ない奥手な女の子だ。二日に一回ぐらいは出会っていると言うのに、いまだ、目を合わせようとすると頬を真っ赤にして逸らしちゃうくらいの初心なのだ。

「用事があるんだろ?」

「はい。白取先輩に会わせたい人がいるんです」

「会わせたい人?」

 一体誰だろう。

 さすがに身体がバラバラになってしま様な人間を新たに紹介されても困る気がする。鈴の場合は……そうだな、可愛かったのと、情に流されたから受け入れる事が出来たわけで、これが男なら蹴っ飛ばすかもしれないな。

「ついてきてください」

「ああ」

 鈴の後ろ姿を眺めてふと、思った事があった。

「……後ろ姿も完璧だな」

「え? なんですか?」

「気にしないでくれ」

 リボンを眺めながら付いて行くと其処には覆面を着けた男性が……男子生徒達を一撃でノックアウトしていた。

「……終わったな」

 覆面を外して俺達にさらした素顔は……この学園の教師だ。みた事があるので、間違いないだろう。

 一体、これはどういう事だ。教師が素顔を隠して生徒をぼこぼこにしているなんて……。

 しかも、みたことある先生は特殊部隊が身につけてそうなスーツを着ているではないか。物騒な事に、銃器までくっついている。

 俺達の前までやってきた若い男性教師は恭しく一礼する。

「お嬢様、不埒な輩の成敗が終わりました」

「住良木、ありがとう」

「勿体ないお言葉です」

 確か、目の前の先生は住良木晶先生だ。クールな眼差し、正確なチョークミサイル発射の腕前、それでいて気配り(チョークを自費で補充の方ね。女子生徒ならフォローするけれど相手が男子生徒なら放置されてる)も出来ると噂である。年下相手にだって敬語だ。女子生徒にモテモテ、一部男子生徒からもモテモテな先生でもある。

 俺を見た先生はにこやかに笑った。

「わたしは住良木晶と言います」

「知ってます。授業を受けてますから」

「良かった、二人は知り合いだったんですね」

 鈴の言葉に苦笑するしかない。

 そらぁ、先生と生徒だからなぁ。

 そう言った事をいちいち突っ込んでいたらきりがない。俺は今現在、起こっていたことについて聞きたかった。

「あのー、先生は何をしていたんですか」

 無残な肉塊に成り果てた男子生徒が二人、沈んでいる。

 この二人が何か、悪い事でもしたのだろうか。

「お嬢様の事情を白取君は知っていますね?」

 先生は鈴を見た後、俺を見た。

「はい」

「それなら話は早いですよ」

 にこやかに笑って先生は手を叩いた。すると、二人の女性が現れて倒れていた男子生徒を片付けさせる。

「たまに、本当にごくたまに、お嬢様に悪戯を仕掛けようとする方もいるのです。今回は噂を確かめようなどとしたのでお灸を据えただけですよ」

 お灸をすえて、ここまで酷いことになるとはな……看板に偽りありと言わざるを得ない。おそらく、いや、絶対にこの男子生徒達は記憶をなくしている事だろう。

「お嬢様の事がばれてしまえば、此処にいることは出来なくなるでしょう。ですので、危険な芽は早めに摘まねばなりません。多少の犠牲は……やむを得ない」

「そう、ですか……」

「白取君もお嬢様が転校してしまったら悲しいでしょう?」

「そらまぁ、そうですけどね」

「だったら、仕方のない事です」

 じゃあ、いいのかな。でも、暴力を嫌いそうな鈴が(これは全くの私見だ……もしかしたら三度の飯より血を見るのが好きなのかもしれない)この光景を見て何とも思わないのはちょっとなぁ……。

 俺が鈴を見たからだろう。鈴は少しだけ不安そうな顔になって住良木先生へと近づいた。

「住良木、これはやりすぎなのでは?」

 鈴の問いかけに住良木先生は微笑する。

「大丈夫です。手加減をしていますから」

「それなら大丈夫ですね」

 手加減してあれか……病院生活は免れないだろうな。

 しかし、手加減がなかったら……住良木先生の身体に装備されている銃器が文字通り火を拭くと思われる。

 住良木先生が只者ではない噂を聞いた事があったが……まさか、本当だったとは。

「お嬢様」

「何?」

「白取君と話がしたいのでお連れしてもよろしいですか」

「ええ、私は構いません」

「白取君、お時間頂いてよろしいでしょうか?」

 許可をとる順番を間違えてないだろうか。まぁ、でも住良木先生は鈴の従者? みたいなものだから仕方ないのか。

 それでもまずは俺、それから鈴だよな。絶対に、間違ってるよ。

 しかし、抗議しても話は始まらないし、言ったら血祭りにされそうだ。気付いたら背後に立ってそうな……忍者っぽい感じを受ける。

「はぁ、いいですよ」

 俺もちょっと聞きたい事があったので二人で場所を変える。鈴はグラウンドへと戻っていった。

 屋上まで連れて行かれ、二人でグラウンドを見下ろす。生徒達や、保護者、教師達が小さく見えた。

「最初に、ありがとうございますと言っておきましょう。お嬢様の友達第一号です」

 いきなり上からくす玉が降りてくる。それを引っ張ると、『祝! お友達!』と書かれた幕がファンファーレと共に垂れてきた。

 後方で二人の女性がファンファーレを奏でていた。

「これはご丁寧にどうも……」

「もうひとつは忠告です。もし、お嬢様を傷つけるような事があったら……」

「ハチの巣になるんですか?」

「違いますよ」

 ぱちんと指を鳴らす。きざっぽい態度ながら、見た目がいいから何をさせても様に成るようだ。

「こうなります」

「って、マジですか」

 気付けば、周りは完全に特殊部隊のスーツ達に囲まれていた。これが拳銃とかならまだ良かっただろう……連中は鈍器を手にしていた。

「ウホッ」

 一匹、ドン○―混じってた。

「そうなったら楽しみにしておいてください。泣かせたりしたら厳罰ですからね」

「は、はい」

 肝に銘じておこうと思う。

 まぁ、鈴相手なら余程デリカシー無い言葉を言わない限りは大丈夫だろうけどな。基本、視線で気付いてくれたりするし、こっちの意図も精一杯汲み取ろうと頑張ってくれるし。

「その油断ですよ」

「え?」

「今、鈴お嬢様なら察してくれるだろう……そんな事を考えませんでしたか?」

「……は、はは、そんな鈴任せはしないと……思います」

「お嬢様には優しく接してあげてください」

「……肝に銘じときます」

「では、この約束を守って、お嬢様の事をよろしくお願いします。もちろん、白取君にはこれらの事を断る権利があります」

「断る権利、あるんでしょうか」

「当然です。人間には選択肢があります。もっとも、選べるかどうかはわかりませんがね」

「俺もそう思います」

 差し出された右手を取る以外に、この危機的状況を脱出できるのか?

「もし仮に……仮にですよ? 断ったら……どうなるんでしょう」

 俺の周りを固める特殊部隊を警戒しながら聞いてみた。

「そうですね、今後のテストが難しくなるでしょう」

「何だ、その程度ですか」

 てっきり、お嬢様の気持ちをわかっていただく為、ばらばらにさせていただきます……なんて言われるのかと思ったよ。

 もしくは、お嬢様に関する記憶を全て消去させていただきます。ああ、心配しないで下さい。危ない薬などは使わずに、純粋な力で記憶を消去するだけですから……と言われるかもしれないと思ってたぜ。

「その程度、と言いますけどさすがに身体がばらばらではテストが受け辛いと思いますよ」

「やっぱり、そうなるんですね」

「はい」

「……もとより、断るつもりなんてありません。鈴は、俺の友達ですから」

 差し出された右手をとると、満足したのかチーム住良木が姿を消した。

 これから先、俺はどうなってしまうのだろうか。

「それでは、鈴お嬢様の元へ戻ってください」

「あの、住良木先生」

「何ですか?」

「鈴は何故……あんな……」

 本来なら、俺の言葉にかぶせるようにして話をするような教師じゃない。

 ただ、この時は俺が喋っているのに割って入ってきた。

「……それは今ここで話すべきことではありませんよ。ついでに言うのなら、わたしのような人間が喋ってしまっていい話でもないのです」

 時期尚早なのだろう。しかし、これで鈴はともかくとして……鈴の身内は彼女の体質について何かしら知っているようだな。

「わかりました。すみません、変な事を聞いてしまって」

「どうか鈴お嬢様と仲良くしてあげてください。寂しがり屋なところもありますからね」

 住良木先生はほほ笑みながらそう言うと静かに扉を開けた。

「あ」

「お嬢様、盗み聞きはいけませんよ」

「ごめんなさい」

 屋上から校舎内へと続く踊り場に、悪戯を見つかった子どものような表情の鈴が立っていた。

「どんな話をしていたのか、気になってしまって……」

「特にこれと言って珍しい話はしていませんよ。男の会話です。ですよね、白取君?」

 ウィンクを俺へとしてきた住良木先生に俺も調子を合せることにした。

「ああ、特に変な話はしてないぞ」

「そうなんですか? じゃあ、一体どういった話を?」

 今の話をしてもいいのか考えていたら住良木先生が口を開いた。

「胸の大きな女性の話です」

「え?」

「わたしは巨乳が好きでしてね……男が仲良くなるにはやはり、女性の胸の話から仲良くなるものですよ。まずはこちらの趣味を提示し、相手に訊ねるのです。いくら年齢が離れていようと必ず会話のキャッチボールが出来る話の種です」

 熱っぽく語る住良木先生はさらに続けた。

「はい、という答えなら更に詳しく語れます。いいえ、と言われた場合はそれならどういった胸が好きなんですか? もしくは男が趣味ですか? と、派生も可能なのです」

「な、なるほど……」

「幸い、白取君とも話が続けられましてね。実に有意義な時間でした」

 にこやかに住良木先生は笑って鈴を見た。

「す、鈴……俺は別に」

「も、もしかして白取先輩は……身体が目的で私に近づいたんじゃ……」

 鈴が変な事を言いだした。

 住良木先生が変に反応して俺を屋上から落とさないか不安になったりする。

「大丈夫ですよ、鈴お嬢様」

「住良木……」

 軽く肩に手を置いて慰めてくれている。

 俺は最悪な事態を回避できたことにほっと胸をなでおろしていた。

「お嬢様のような胸には興味が御座いませんからね、彼は」

「……小さな胸で、すみませんっ」

 そういって気になるあの子は涙を流しながら去っていった。

「……白取君」

「何でしょうか」

「泣かせましたね?」

「え、俺は何も……」

 気付けば特殊部隊に囲まれていた。

 運動会の記憶は無い……ぼろ雑巾のような感じで屋上に打ち捨てられていたと後で鈴が教えてくれたのだった。


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