群青藍:最終話 過去も未来も視る彼女
藍さんが卒業して、俺は三年になった。
変わった事と言えば、藍さんが学園に居ないと言うことか。
「……はぁ」
一歳しか歳が離れていないと言うのに、学園にはいない。たったそれだけで元気がなくなる。あまりに使い古したケータイのバッテリーのように七割程度しか充電できない気分だ。
藍さんは大学に行かず、俺の部屋に転がり込んできた。
「パパに追い出された。ここに住まわせてほしい」
そんな見え透いた嘘に俺が騙されるのも仕方がない。
何故なら、向かいの屋根の上に父親が愛娘にカンペを見せているからだ。どうやら、俺に気づかれているとは思ってもいないらしいな。
それを指摘したらものすごく強い狼男が俺に襲いかかってくる事だろう。
「駄目?」
「ウェルカムトゥーマイルーム」
娘が絡むと周りが見えない父親なのは知っている。もしも俺が藍先輩の同居を拒めば、レベル一で魔王と戦う羽目になる。
学園では藍さんがいない事を考えるだけで憂鬱になるものの、家に帰れば藍さんの誘惑に勝たねばならない。
「お帰り」
「只今……」
藍さんが『ご飯にする?お風呂にする?それとも、あ・た・し?』というわけじゃない。一度でいいからお願いしてもいいかもしれない。
選択肢を与えてくれるほど藍さんは優しくない。
既に風呂上がりだ。パンツ、上は素肌に俺のシャツを着ているだけ……表と裏が両方『YES』の枕を俺に見せている。
「お風呂先に入らせてもらったわ」
「いえいえ、どうぞどうぞ」
俺の部屋に(父さんと母さんは仕事が忙しくて前の家でずっと生活している)、藍さんの布団がある。そして、今ではまっピンクのライトが当てられてやばかった。
「くしゅんっ」
「……冬です。半裸じゃ風邪をひきます」
みないようにして上着を羽織らせる。
「冬治君、風邪をひくわ」
「俺はいいんですよ。藍さんを風邪引かせたら彼氏の名折れです」
どの道、寒い事に変わりはない。
藍さんにはいつものように着替えてもらって(藍さんのお父さんが頭にチラつかなければ俺は今頃……)、一緒にご飯を食べる。
「明日は合格発表ね」
「一緒に行きましょう」
「うん」
藍さんはどうやら俺と同じタイミングで入学したかったそうだ。
「今度は四年間一緒に通えるね」
「あの、別に先に行ってても良かったんですよ?」
「大学を受験しに行く日、冬治君の未来が見えたの。わたしがこのまま大学を受験して、合格したら……」
「合格したら……?」
「わたしが大学で寂しくなって死んでしまっていたわ」
「藍さんが嘘をつく時って一度右を見ますよね」
そう言うと舌をちらっと俺に見せてきた。
「よくわかったわね」
「そりゃあ、藍さんの事しか頭にありませんからね。これでも藍さんの事ならそれなりに知ってますよ」
あまり言い過ぎると変態と思われるから辞めておこう。
「私も冬治君の事、詳しいわ。意外な事に胸よりお尻に先に視線を注いだり、可愛い子がいると一度私を見てからそれとなく視線を向ける……とかね」
食事を進めながら藍さんがいじわるっぽく言ってきた。
試されている……そう思えて仕方がない。
「ま、まさか……俺は……」
「この家に私を招き入れた当日、部屋を散らかしていると言って部屋に入り、窓の外にエッチなDVDと本を捨てたのは見事ね」
「な……何故それを!?」
みられていたとは思えない。
不敵に笑って藍さんは口を開いた。
「未来も見えるけれど……過去もね、見る事が出来るの。勿論、これは冬治君限定。私が冬治君の事を知るだけじゃ嫌よ。冬治君にはもっと私の事を知ってほしい」
「……わかりました」
まさか過去を見る事が出来るとは思いもしなかったな。
俺には何の特殊能力もないけれど、藍さんを幸せには出来ると思う。
わざと胸元をちらつかせている藍さんに苦笑しながら俺は食事を続けるのであった。
作者の雨月です。はい、というわけで群青藍編終了しました。群青藍は気になるあの子と非日常……に、入っていたと思います。魔女か魔女かと思わせて実は違うという結果にいきましたね……うーん、実はあまりこの人に関しては話すことが無かったりします。それは何故か? 作者もよくわかりません。途中、四季萌子先生ルートがぶっこまれそうになったのもよくわかりません。そんなのでいいのかとおしかりをうけそうですね、はい。それでは次回は……黄色編だったかと。またお会いしましょう。




