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群青藍:第十二話 未来の視えない

 恐怖の学園祭を終えて(屋上にいけなくなったぜ)、俺と群青先輩の絆はより一層、強くなった……かな。

 その代償として毎晩上空から群青先輩と、ゴミ箱が落ちてきて俺に直撃するグロテスクな夢を見るようになったけどさ。

 夜中に目が覚めて汗で前進がびっしょりだ。

 思ったより精神的に弱い事にちょっとショックを受けたので、今後はメンタル面も強化していきたい。

「……滝行が一番か?」

 授業が終わり、休み時間になると女子生徒達が俺の所へやってきた。

 実に珍しい事である。

「ねぇ、白取君」

「ん?」

「最近さ、藍先輩が未来を見てくれないんだー。試験勉強が大変なのは知っているけど、みてくれるようにお願いしてくれない?」

「俺が? 何で?」

「だって、彼氏じゃん」

 そう言われると悪い気はしない。

 俺と先輩が付き合うようになって男子からはブーイング、女子も一部からブーイングがあったりする。しかし、そこはツルの一声……先輩が一言言ったらみんな黙って納得したのだ。

「わかった。でもさ、群青先輩にも都合があるから無理にとは言えないぜ?」

「はーい、マネージャーさんお願いね」

 誰がマネージャーだ。どうせならプロデューサーさんと呼べ。こういうときはプロデューサーじゃなくてPだよ! 白取Pだよ! と七色が言ってた気がする。何のネタなのかわからないから少しだけ損した気分になる。

 わからない事をそのまま放置しておくのは凡人である……まぁ、実際俺は凡人だからな。そんなことより、先輩に頼む方が先だろう。

 意外な事に群青先輩は電話が嫌いみたいだ。緊急時のみ通話に出てくれる。それ以外の事ならメールのやり取りで済ませる。しかも、『○○に来て』とか『待ち合わせ場所○○』と言った風に直接会うのが好きらしい。

 放課後、校門で待ってますと伝えると返信があった。

『了承しました』

 もうちょっと砕けた感じでもいいと思うんだよな。付き合う前より堅くなった気もする……群青先輩も緊張しているんだろうか。

 了承されなかったらどうなってたんだろうな。

 約束の時間は別に決めていなかったので放課後すぐに校門へ向かうと既に群青先輩が待ってくれていた。

「すみません、俺の方から呼び出したのに」

「私も話したい事があったからちょうど良かった。だから気にしないで」

 そういって先輩は歩き出した。

「あの……そこの喫茶店で話をしようと思ってたんですけど」

 もちろん、俺のおごりだ。俺と群青先輩の間では用事があったほうが奢ると決められている。

「わたしの部屋でしましょう」

「え?」

 言葉だけ聞くと青少年の心をたぶらかす年上のお姉さんだ。

 超わがままな生徒会長がこんなセリフを言ってもこき使われるのを覚悟するだけだ。

 まぁ、群青先輩の暗い顔を見るとハッとさせられるけどな。

 やっぱり、この前の学園祭の件が尾を引いているのだろうか。

 それから先、俺から話しかけてもいまいち群青先輩は反応してくれなかった。

「入って」

「お邪魔します」

 廊下の先に群青先輩の父親、宏さんがいた気がする。

「お前、挨拶に来たのか?」

「え?」

「早くないか? おれはお前達がそれでいいと言うのなら支援するつもりだ。ただ、やはりお互いの事をもっとよく知ってからだな……」

「パパ、今日は違う話だから」

「……そうか」

 もうちょっと食いついてくるかと思ったら引っ込んでしまった。

 群青先輩の後を追って、階段を上がり部屋に入る。

 あまり部屋の中を見渡していても迷惑だろう。借りてきた猫のように落ちついて座る。

「くんくん……」

 女の子のいい匂いがした。

 凄いな、男の部屋に行ったときは何やら臭いにおいが漂ってきたんだが……こっちは本当にいい匂いだぞ。

「……」

「物珍しいものは別にないわよ?」

「女の子の部屋に入るのは、あんまりないんで……ちょっと、緊張してます」

「そう、ちょっと嬉しいかな…早速本題から入ってもらえる?」

 こっちの話はその後でするから…群青先輩はそう言った。

「はい、えっと、俺のクラスメートが群青先輩に未来を見てもらいたいそうなんです」

「……そうなのね。でも、ごめんなさい。今のわたし、未来が視えないの」

「え?」

 信じられないような言葉だった。

「冬治君の未来はちゃんと見えるのよ……今日の晩御飯はうちで食べて行くわ」

 そういって何故だか先輩は自分の唇を舐めていた。

 その仕草を見て俺はつい、キスの事を思い出し顔が火照ってしまう。

「あれから……ね、他の人だと調子が悪くて」

「あれから? ……未来が見えないのはもしかして、キスしちゃったから?」

「言わないで」

 顔を真っ赤にして群青先輩は唇を抑えている。俺も、恥ずかしくなって顔をそむけた。

「おい、やっぱり挨拶に来たんじゃないのか」

「うわぁ」

 屋根裏から狼が一匹落ちてきた。

 その手にはお盆が置かれていて、『夫婦』と書かれた湯呑みが置かれている。

「お茶だ」

「あ……どうも」

「パパ……どういう事? 挨拶ってまだ早いわ。私のみた未来ではまだ先よ」

 あ、一応予定に入っているんですね。何だか嬉しいですよ。

 そんな言葉を言えるわけもなく、俺は腰をおろして俺を見てくる宏さんを見ていた。

「あの、挨拶って?」

 俺たち二人に相対するように腰を下ろす。

「説明が要るな。ちょっと前……藍が小学校低学年の時の事だ」

 きっと群青先輩は可愛かったのだろう。

「何と言うか……一人の女の子を助けた。そいつが『一つだけ願いを聞いてやる』と言った。だから、藍が未来を見据えて行動できるようにしてくれと頼んだんだ」

 俺と群青先輩は宏さんの話にただ驚いているだけだった。

 そんな俺達を不愉快に思ったのか鼻を鳴らす。

「あのな、こんなふざけた話は信じられないと思う。だけど、事実なんだよ。そいつとの約束で正体はばらせない。藍がきちんと自分の未来をみる事が出来るまで護ってやると約束もしてくれた。他の奴の未来が見えるのは偶然か、副産物みたいなもんなんだろう」

 一体、そんな出鱈目な存在は何なんだ……狼男も充分アウトな気もするけどさ、正体不明の存在よりもまだ幾分か許容できる。

 尻尾、もふもふだしな。

「でも、群青……藍、先輩は自分の未来をみる事出来ないんですよ?」

「お前、鈍いな。そこも説明してあげたいんだが……これ以上は藍の事を思って言わない。とりあえず、お前が藍に酷い事をしたら命は無いと思えよ」

 そういって凄まれた。獣というより、父親の顔だった。

 変に長く、詳しく説明されても理解なんて出来ないだろう。今わかった事と言えば、郡上先輩は自分の未来を見る事が出来るようになった……その程度だ。

「群青先輩は自分の未来が見えますか?」

「藍でいいわよ」

 一歳年上とは言え呼び捨ては難しい。

「藍さん……未来、見えるんですか」

「うん。冬治君を介して見る事は出来る。でも、ずっと先の未来をみる気はないわ。楽しみが減りそうだからね。未来が見える非日常な女の子なんてもうどこにもいないの」

 そういって藍さんは立ち上がる。

「これからは、わたしの未来をリアルタイムで見ていく。自分の目でね。一緒に見てくれる?」

「勿論です」

 その後、俺達はゲーセンで相性チェックをやってみた。

 結果はいまいちだったけど、藍さんは『このぐらいがちょうどいい』と笑っていたのだった。


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