群青藍:第六話 映像を編集する者
テストの結果はどれも平均以上、つまり、群青先輩が言っていた『凡ミスをする』未来は外れたことになる。
ん? いや、待てよ。凡ミスは一応したから先輩が言った事は正しかった……のか? 気付かないふりをしておこう。
「改めて、俺は未来を変えたって事でいいんだな、うん」
見事に未来を変えることが出来たら何かもらえるとか何とか言ってたよな。
「群青先輩にしてもらいたい事……か」
デートか?
膝枕か?
それとも、あ~んか?
静かで、大人っぽくて、幻想的だし、おっぱいでかいし……そんな先輩に何をしてもらおうかと考えるだけで幸せになれた。
「白取君」
「はい!」
待ち合わせ場所にやってきた群青先輩は俺の方を見ていて、笑っていた。
「その様子だと未来を変えることが出来たみたいね」
「多分、先輩に言われなければ凡ミスをしていました」
これは間違いなく先輩のおかげだ。
少しためらいがちにテスト用紙を渡す。人様に自慢できるような点数ではない物の、まるで群青先輩は自分の事のように満足していたようだった。
「よかった。未来を変えられる人がいてくれて」
やはり、点数については触れられていない。
「あの、ふと思ったんですけど……群青先輩は自分の未来をみた事が無いんですか?」
俺の質問に群青先輩は頷いた。
「無いわ。わたしが未来を見るとき……相手の顔を見ないといけないの」
「鏡では駄目なんですか?」
「鏡の未来が見えるわ」
物体の未来も見る事が出来るのか。
「もし、見る事が出来るのなら先輩は、自分の未来をみますか?」
「いいえ。わたしの能力はそれこそ、本気を出せば……一生を見通すことが出来るわ」
普通にすごい……そして、そう簡単には信じられなかった。
「未来を見てほしい相手はわたしにとっては他人……未来の話をするときは説明できていないところもあるはずだし、細部まで説明しようなら一日で収まりきれない。でも、わたしが自分の未来をみると言う事は映像のリプレイをするようなものよ」
「リプレイ?」
そう言うと先輩はポケットからDVDを一枚取り出した。
「……たとえば、この中に入っている物語を起承転結で表すわ」
「はい」
物語ならこれが一番わかりやすいだろう。マンガで言うと、四コマ漫画か。
「起承転結の二番目、承の時点でわたしが主人公に転結を教えたとしても結果は変わらないもの」
「それはまぁ、確かにそうでしょうね。それなら、俺は何で変える事が出来たんですか?」
「多分、編集したのよ」
「編集……」
どういう事だろう。
「起承転結……白取君はこの映像を編集できるの……結末がわからないかわりにね」
「結末がわからない?でも、未来が少し見えたんですよね?」
「ええ、今でも見えるわ。これから先の一週間……見るたびに違う一週間を送っている。日曜日にはわたしをデートに誘っていたり、わたしが貴方に膝枕をしていたり、料理を食べさせたりもしている」
「……」
未来の俺、羨ましい。
「ほ、他には? 他には一体どんな未来が?」
「わたしと冬治君が恋人同士になっているものもあるわ」
「すげぇ」
「……あと、冬治君を刺しているものもあるの」
「……未来なんて信じません」
「冗談だから安心して」
こうやって信頼関係って崩れると思うんだ。
「話を戻すけれど、おおざっぱにいうのなら起承転結……生まれて、成長し、老いて、死ぬ。ほとんどの人がこのパターンに当てはまる」
人類全員に当てはまると思う。
「もうちょっと詳しく説明してもらえてもいいですか。生憎、頭がそこまでよくないんで」
「……ABCDという場所があるとするわね?」
「はいはい」
「普通の人はたとえAとBの間にA-1等があっても最終的にはBに行きつく。でも、白取君の場合は、存在しない甲乙丙に辿り着くかもしれないの」
ちんぷんかんぷんだ。
「そ、そうなんですか」
それでも、見栄を張ってわかったふりをする。
「わからなくてもいいわ。わたしだってうまく説明できる自信はないし、わかっていない部分もおおいもの……他の人の未来は置いておくとして、とりあえず今度日曜日、わたしは白取君と会って、何かをするわ。この未来、変えてみる気はある?」
「いえ、全くないっす。俺的には嬉しい未来なので」
じっとこちらを見てくる群青先輩は首を振る。
「そう、残念ね」
遠まわしに嫌がっているように思える。
「……そんなに嫌ですかね」
「それは勘違いよ、白取君」
「え?」
「わたしは白取君の未来が見えるようになったわ…さっきも言った通り、今度の日曜日わたしは白取君と一緒に何かをして、楽しそうにしている。一度見た未来を変えることが出来るのなら、別の未来を……いいえ、現実を見せてほしいの」
相変わらず言っている事はよくわからなかった。
「わかりました。かなり、悔しいですけど……俺、今度の日曜日ぜーったいに群青先輩と会いません」
テスト凡ミスを回避したのは先輩のおかげだ。そのぐらいの恩返しで群青先輩の言う事を聞いても問題はないだろう。
「今度の日曜日は絶対に先輩とは会いません。だけど、いつか……デートしてください」
「勿論よ」
それでもまぁ、先輩とデートの約束が出来たのだ。いつになるかはわからないけれど、一歩前進できたと思いたい。




