群青藍:第四話 そして当日
運動会当日、人数に恵まれている保健室部隊は今のところ暇であった。
「白取君と群青先輩は本部担当をお願いしやす」
「わしらが現場をやりやすんで」
「お願いね」
角刈りがやたらと似合う面子がそう言って、出て行った。
「何だか……今の人達、青春じゃなくてヤァさんみたいでしたね」
「失礼よ」
「すみません」
「心に思ったとしても口に出してはいけないわ」
「え?」
さて、俺達の仕事は言われた通りに本部待機だ。
「まさか、当日までスカートとは……」
「忙しいから仕方ないわ」
結局、俺は最後までスカート姿だ。
保健室担当の人は慣れてしまい、その他生徒は競技や準備で忙しい為、俺がスカートだと気付く人はあまりいない。気付いても突っ込む暇がないようだ。
「思ったより、保健室部隊って楽なんですね」
「そうでもないわよ」
「これから忙しくなるんですか?」
「ええ、特に障害物競争が終わった後の騎馬戦ね」
「へー」
俺らは競技に出ない為(介抱する側が怪我したら大変だからな)、どれほど危険なのかわからなかった。
「障害物競走では火薬関係の仕掛けがあるの」
「火薬って……えーと、大丈夫なんですか、それ」
「大丈夫じゃないわね。一周目を担当した人たちが毎年運ばれてくるわ」
そんなばかげた競技に出なくてよかったと思う。
「あ、だからさっき群青先輩に障害物競走に出るって言う人たちが詰めかけていたんですね。怪我をしないかどうかを知りたかったんですか」
あれは必死そのものだった。
でも、群青先輩の言う未来は……変えられないんじゃないだろうか。
「怪我のことではないわ。あの人たちは自分の後続……二周目の女の子に告白されるのか、もしくはもっと仲良くなれるのか聞きに来ていたの」
「と、言うと?」
よくわからなかった。
「仕掛けの再配置は無いから、一週目で全部の仕掛けに引っ掛かると単なる障害物競走になるのよ……下手したらただのリレーね。もっとも、これはチームとしての頑張りというよりは告白したいんだけど、恥ずかしくて出来なかったり男を見せる競技ね」
「なるほど……確かに、二周目が好きな相手なら危険にさらしたくない。意地でもトラップに当たりに行きますね」
俺は障害物競走得意なので引っかからないかもしれないなぁ……。
「運動会が終わって告白するような人が基本的には参加する種目なのよ」
つまり、さっき聞きに来ていた人たちは今後自分がどうなるのか知りたかったのか。
「で、さっきの人たちはどうなるんですか。駄目な人は居ましたか」
「教えてあげないわ」
「ですよね」
他人のプライベートなので、未来は教えない事にしているらしい。
「デバガメ根性じゃなくて、やっぱり、いい結果が出るといいなぁと思っただけですよ」
「そう、それなら……心配する必要はないから安心して」
そりゃよかった。
のんびりしていると障害物競走が始まった。
「うわ、火柱があがってるよ…」
放送で火薬の量間違えたとか言ってたけど、やり過ぎだろう。
一周を終えたところで運び込まれてくる屈強な男達を運ぶのは勿論、マッチョな男達だ。
「やっぱり男は必要でしたね…」
白衣の天使と化した屈強な男たちが素早く行動し、負傷者を担ぎこんでくる。手当も迅速で、治療後も綺麗に並べられていった。
「俺達は何もしなくていいんですか?」
「余剰が出るくらいが、ちょうどいいの」
このまま暇なのだろうか……一応、薬の補充とかガーゼの替えとかを買いに行ったりしている。
最後まで俺が特別何かをすることもなかった。
さすがに最後の片づけには率先して手伝ったものの、せっかく包帯の巻き方とか習ったのだから実際にやってみたかった。
「っかれっしたー」
解散すると、屈強な男たちが足並みをそろえて帰っていく。あれは実に格好良かった。どうやら、去年もやっていたらしい。
群青先輩に俺もあんな風に前線に出て包帯を実際に巻きたかったと伝えると少し笑っていた。
「彼らはね、白取君のスカート姿を人目につかせるのは可哀想だと思ったのよ」
「ああ、そうでしたね。完全に忘れてました」
スカートに違和感を持たなかった俺は、ちょっとやばいかもしれない。




