群青藍:第三話 ○○だったんだぜ。HAHAHA!
クラスで運動会の競技について説明があった。
面白そうだったので俺も何かに参加しようとしたら、『保健室部隊』だと一方的に告げられて終わってしまった。
「……保健室部隊ってなぁに? 僕たんにおせーて」
「きもっ」
「おい、誰だ今きもいって言った奴は? ちょっとしたおふざけだろう」
説明してもらうと、どうやらこれは各クラスからランダムで選ばれるメンバーらしい。競技に参加できず、怪我をした生徒を運んだり、簡単な手当てをするそうだ。
消毒の仕方から人工呼吸まで一通り、教えてもらわなければならないらしい…。
その後は、基本的に運動会の会場設営だ。
俺の担当は群青先輩と一緒に保健室の薬品などを会場に設置されている小屋に持っていくことが担当の仕事らしい。
何でも、この運動会が行われている期間のうちに保健室の大掃除と薬の管理、ベッドの点検等が行われるとのこと。
「白取君はそれをお願い」
「はい」
保健室部隊なんてネーミングはともかく、こういうのは男子より女子が多いかと思えば男子の方が多かった。
「男子の方が多いんすね」
「力仕事も多いから」
「なるほど……しかし、異様な光景だ」
白いエプロンを男子全員が付け、ヘッドキャップに『白い天使』と書かれた腕章……何かの冗談に思えた。
これが全部女子生徒なら可愛いんだろうなぁ……俺とか、屈強な男子がやっても悪夢としか思えない。
しかも、歩くさまが照らし合わせてもいないのにきっちり揃えられている。どっかの兵隊さんかよ。
『患者の気持ちが一番! 二番は笑顔! 三番が治療!』
いや、二番と三番入れ変えろよ……とは言えなかった。あまりにも相手が怖いので心の中で突っ込んでおくにとどめよう。
きびきびと動き、見栄えの良い足並みの揃え方だ。
「結構徹底しているんですね」
「当然よ」
群青先輩は白衣の天使だ。目の保養にちょうどいい。見ているだけで作業の疲れが吹っ飛ぶぜ。
「その格好、似合いますねぇ」
「白取君も似合っているわ」
「嫌味にしか聞こえません」
俺だけ何故か、スカートだ。足りなかったとか何とか…。本番までにちゃんと準備しておくと言われたものの、こんな姿でクラスメートの前には出たくなかった。
仕事もひと段落つき、保健室で一休みする。
「ふー」
隣でため息をつく俺を群青先輩はじっと見ている。
先輩に見られるのも慣れてきたぜ。
「今日もダメ」
「見えませんか」
「見えないわ」
群青先輩はそういってやはり、ジュースを買ってきた。半分飲んで、俺に渡す。
喉が渇いていたから半分じゃなくてもよかったかなとも思う。
俺の金で買ったわけじゃないから文句は言わないけどさ。あと、敢えて言わせてもらえば『おしるこ』のチョイスは無いと思うんだ。
「ああ、そういえば群青先輩」
「何?」
「ここに白衣があるんで、着てみてください」
保健室の先生の白衣が置いてある。
「いいわよ」
そういって群青先輩は袖を通してくれた。
「……ヒールで踏まれたい」
「そういう趣味はいけないわ。変態的よ」
「冗談です」
でも、頼めばきっと踏んでくれるんだろう……そんな雰囲気がある。今度、試してみようかな。
そろそろ休憩もおしまいにした方がいいだろう。おしるこを飲み干し、また新たに箱を持つ。
「……あれ、この箱にカエルのホルマリン漬けが入っているんですけど」
一体、何の治療に使うんだろう。
「本当ね。新手の薬かしら?」
「何に使うか知ってますか」
「知らないわ」
魔女と呼ばれる先輩なら知ってそうだったけど、やっぱり先輩は普通の人のようだ。
「群青先輩は魔法を使うのにこういうのは使わないんですか」
「わたしは魔女ではないって知って居るでしょう?」
そういって先輩は先に歩きだしてしまう。
「あ、待ってくださいよっ」
後日、保健室の先生に聞いてみるとどうやら理科室から紛れ込んでいたものらしかった。誰かが悪戯のために仕掛けたらしい。
しかし、カエルのホルマリン漬けで一体どんな悪戯をするのやら。
カエルの解剖って最初男子の方が前に出るけど慣れてきたら女子の方がエグイ事やりだすんだよねぇ……。
「群青先輩もカエルの解剖したことあります?」
「あるわ。とても楽しかった。いつかあなたの事も解剖したいと思ってる」
ブラックジョークに違いない。




