群青藍:第二話 別名陰の支配者
群青先輩が魔女だと言われる理由……神秘的な見た目に加え、未来が視えるかららしい。
ここまで人心掌握できるのなら学園の詐欺師って名乗ったほうがいいんじゃないか……なーんて冗談で言ったら村八分を食らった。
信じられない事に経った一日で学園にきっちり拡散されているようだ。
教師も取り込まれているそうな。
群青先輩が悪者だったら、今頃学園は支配下に置かれていたはずだ。
「見えないわ」
「そうですか」
俺の未来だけが見えない……そう言うたびに先輩が悪いんじゃない! こいつが悪いんだと言ってくる生徒がいる為、場所を変えてもらった。
出会って二週間……二日に一回は俺の未来を見に来ていた。
「はい」
そして、見えなかったら俺にジュースを奢ってくれるのだ。
「別に要りませんよ」
「それなら半分飲むわ」
そういって言った通りぴったり飲むもんだから凄いぜ。未来が見えるよりも、こっちの方が凄いと思う。
「群青先輩が各家庭に出向いておやつの半分個を担当してくれたら……世界はちょっと平和になるかもしれません」
「言っている意味がわからないわ」
兄妹がいるところにはご理解いただけると思う。そして、基本的に『お兄ちゃん』が損をする。
「実妹なんて嫌いだばーか! うわーんっ」
そう言って泣いていた前の学園での友人を思い出す。
「二日に一回見に来るのに理由とかあるんですか」
あ、地味に間接キスだこれ……そう思う俺はいたって純情な少年。
「日によってこっちの調子も違うから」
一切気にしない群青先輩は変に男を勘違いさせるプロと見た。でも、じっと見てたから何かあるのかもしれない。変に意識しすぎか。
「そうなんですか」
「ええ」
「まだちょっと昼休みあるんで……色々聞いてみていいですか?」
「いいわよ」
落ちついた感じの群青先輩は我がままで、横暴で、傍若無人な事は言わないのだろう。
一緒に居るだけで、心の休まる人だ。
「未来を見る能力の精度ってどのくらいなんです?」
「今のところは全部当たっているわ」
「全部? 具体的な人数わかりますかね」
「この学園に居る約半数」
数百人当てているのか。
「凄いですね」
「悪い事も絶対に当たっちゃうの。それを伝えて変えようとしても……どうもね、うまくいかない」
対策をとっても、駄目だと言う事か。
「あ、あのー……寿命とか聞いちゃう人、やっぱり、いますか?」
「そういうのは見えないということにしているし、見ない事にしているの」
それを聞いてほっとする。
知ってみたいけれど、知ってみたら残りの人生損しそうだ。
「ところで群青先輩は魔女なんですか?」
「通り名ね。魔女じゃないただの人間よ」
本当だろうか。
「何でそんな事を聞くの?」
「実は、先輩に着けてもらいたい物を借りてきたんです」
鞄からそれを取り出して先輩に渡す。
「……三角帽子?」
珍しげに矯めつ眇めつしながら帽子を眺めていた。まぁ、普通に生活してたら珍しいよな。
「着用してください。あ、こっちのローブもお願いします」
頭を思い切り下げてお願いする。
「いいわよ」
「ありがとうございます!」
ぐっへっへ……一枚、千円で買うって言う物好きがいたからな。お願いされたのだ。
魔女衣装を纏ってポーズまで撮ってもらった。あとは黒猫がいれば完璧だったかな。
「どうかしら」
「似合ってます。ばっちりですよ」
青い三角帽子姿にローブをまとった姿は……成るほど、魔女と言われても違和感はない。
数枚写真を撮ってニヤニヤしていると先輩に腕を掴まれた。
「あ、写真は駄目でした?」
「駄目ではないわ。これはあなただからしてあげた事よ。あなた以外が見たらその時は……覚悟して頂戴」
「も、もちろんですとも」
「お金儲けなんて考えようものなら許さないわ」
「ですよねー。これは……あれです。お守り代わりに取っておきますね」
綺麗な人が凄むと下手なものより恐い事を初めて知った。
「ありがとう、約束してくれて嬉しいわ」
「い、いえいえ…」
「他にも何か着てもらいたいものがあったら持ってきなさい。着てあげるから」
残念ながら、俺が見たいのではなくて他の奴らがみたいのだ。
群青先輩はすんなりオーケーしてくれたと言うのに、お金は手に入らないジレンマ。
「そういえば、そろそろ運動会ね」
「あ、そうなんすか」
その後は変な話をするでもなく、どこの生徒でも会話にしてそうな話をして昼休みは終わったのだった。




