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赤井陽:第四話 事の始めの運動会

 ドッキリって本当にあるんだなぁ。

 いつの間にか、障害物競走の一週目と三週目に俺の名前が刻まれていた。

「え、なして」

「この前倉庫でいじめた罰だよーっ」

 べーっと舌を出してくる狼っ娘に俺は無言で中指を立てる。

 俺の名前が刻まれていた競技……そう、この障害物競走……実は相当過酷だそうだ。毎年、病院送りやら何やら出たりするらしい。

 それでも生徒たちからは人気のある競技で、男の子だったら立派に女の子を守って見せるもんだと男を……いいや、漢を見せる競技なのだとOBの先生が教えてくれた。

「お前の相棒は赤井だったな。相棒を助けてやるんだ」

「はぁ……」

 はっきり言おう、俺の相棒はどんな用心棒よりも腕がたつぞ。

 先生が居なくなって先ほどよりも赤井さんが近づいてきた。

「今年で最後だからよかったじゃん。来年からはないんだよ?」

「惜しかったなー」

「え? もっと楽しみたかったの?」

 いや、それなら来年に転校してくりゃ良かったぜ。

 今更参加しません、棄権します……なんて我がまま言うわけにもいかない。参加するようになったら頑張れるだけ頑張るさ。

「練習しようにも、当日教えるってどういうことだ」

「驚かせようと思って。サプライズ、好きだよね?」

「嫌いじゃー」

 計画的に生きたい俺としては、やっぱり事前情報が欲しいと思います、はい。

 ついでにいうのなら驚かすよりも脅かす方が大好きだ。

「練習しないとまずい類なんじゃないのか」

「大丈夫だよ、障害物だって単純なものばかりだから」

 指差す先にはやたら手の込んだ仕掛けが準備されていた。

「……えっと、最初は七メートルの網をくぐるのか。一メートルごとに棒高跳びの棒が高さ七十センチで設置されてるな? 当たったらどうなるんだ」

 しっかりと固定されており、何やらコードがついていた。コードはそのままトラックの端の方にある機械に直結されている。

「背中が当たったりすると電流が流れます。期待してるよ!」

 中止にしろよと思う。

「そして何に期待しているんだ……」

 体に異常はないとか今現在に影響は無いとか言うけどさ……あんまり人体に電気流すと子供作ろうって思った時に苦労しちゃうんだぞ!

 将来の子供計画を実行するために当たるわけにはいかない仕掛けだ。

「次は、段ボールのキャタピラか……一見すると仕掛けは何もなさそうだな」

 あれに入って歩くんだよな。前が見えないから他の人達に当たるぐらいか。

「コースを外れると、爆発します」

「え?」

 聞き違いじゃなければ爆発すると聞こえた気がする。

「大丈夫、爆発と言っても単なる花火だから」

 すっごくいい笑顔でそんな事を言いやがった。

 ここまで自信満々って事は大丈夫なのかな。

「何だ、驚かせやがって……」

 段ボールの下や後ろでパンパン鳴るくらいなら大丈夫だろう。なんて、甘い考えは通用しないと思う。

 お祭りだから、行事だからと絶対にあほなくらいの火力を出してくるはずだ。

「最後が大玉転がしか」

「うん」

「これの仕掛けは?」

「転がし始めて二十秒以内にクリアしないと……」

「ど、どうなるんだ」

 候補としては大玉大爆発、中から魔物が出てくる、電流が流れる……ぐらいか。

「うーん、毎年違うからなぁ……去年は足元が爆発したよ」

「……」

 爆発、好きだなぁ。見た目が派手だから好きなんだろうか。

「三週目走る人は最後に仕掛けがあるから、覚悟してね。あ、白取君よかったねー、一週目走るんだっけ? 大丈夫だね」

「あんたのせいで俺はアンカーも務めるんじゃい」

 くそ、今度変身したら尻尾を思いきりこねくり回してやる。

「期待してるよ、白取君!」

『準備が整いました。障害物競走の第一走者の生徒はスタートラインへ集まってください』

 誓いを新たに、俺は覚悟を決めた。実は、障害物競走得意だったりするんだ。

 足が速い人は当然有利だ。しかし、これは障害物競走。これらを当たらずにくぐりぬける自信はある。

 隣は屈強な男たちだ。ただ、足は遅そう……これはいける。

「位置について! よ~いドン!」

 ピストルから火が出るのではなく、花火が打ちあがった。

 それだけこのイベントが人気のある(見る方にとっては)種目だと言うのがわかるなぁ。生徒じゃなくて教師たちが叫んでいるのも気になるし、あの手に持っている馬券みたいなものは何だよ。

 これで賭けごととか……してないよな。

「男子―っ、女の子をちゃんと守ってよー」

「男を見せろ―っ」

 そして想像以上の声援。それに驚き、ちょっと出遅れる。

「やばっ…」

 既に白組と青組が先行してしまった。

 しかし、先行していた二人が一つ目の高跳びの棒に引っかかった。

「ぎゃあああああっ」

 つい右手で眼を覆い隠してしまう程の閃光が周囲を包む。

 重戦車みたいな屈強な男子生徒がその場に倒れた。

『おーっと、さっそく白組の選手、引っかかりました! 湯気が出てます。しゅーっていってます!』

「どう見ても人体に影響出るレベルじゃねぇかよっ」

「のわああああああっ」

 次に先行していた青組が棒に当たった。嫌な感じの叫び声がすぐ隣から聞こえてくる。

「くそっ」

 悪態をついたところでどうなるわけでもない。冷静にならねば。

「がんばー」

「びりっちゃえー」

 見ている側は楽しいんだろうな……隣を走っている白組の人に同情しながら網を抜けきる。青も何とか復活して追いかけてきた。こりゃあ、禁止になるわけだ。

『最後の障害物! 今年は火薬の量を間違えた、どうしようと担当者がぼやいていました!』

「嘘だろ、おい」

 冷静になるんだ、俺。もしかしたら……もしかしたら、火薬が足りなくなって思ったよりしょぼい爆発なのかもしれないぞ。

 二つ目、段ボールのキャタピラに入ったところで放送が聞こえてきた。隣で、爆発した音が聞こえてくる。

 何かが空高く舞い上がって、墜落した音が聞こえてくる。

「ぐっはああっ」

 一体何が起こったのか確認している暇はなかった。

 二回ほど爆発音が聞こえてきて、首をかしげる。あいつら、全部に引っかかってるんじゃねぇか?

「体躯がいいから引っかかるのか」

 連中に比べれば俺は幾分細い身体だ。

 こりゃ、余裕だと大玉も最後までミスすることなくやり終えた。

「ちょろいちょろい、ほらパス」

 気付けば一周してしまったのだ。俺、凄い!

 一着で戻ってきたので褒められるかと思えば俺を待っていたのは何やら怒り心頭の赤井さんだった。

「……白取君のあほーっ」

「え?」

 タスキを渡そうとして赤井さんが爆発した。何故怒られたのか、理解できなかった。

「おいおい、一着で来たんだぜ? しかも、仕掛けに引っ掛かって無いし」

「だからだよ! あたしが引っかかるじゃん。いつもは一週目の人が全部、引っかかるの! 女の子が怪我しちゃわないようにね。だから、一週目は男子生徒がやるのっ」

「はぁ? 聞いてないって」

「そのぐらいは察してよっ」

「無理だろっ」

 競技中だと言う事も忘れて俺と赤井さんはヒートアップして行く。

『おおっと、一着でやってきた紅組、何やら揉めております! 作戦ミスか、それとも単なる痴話喧嘩かっ』

「ちゃんと教えておいてくれよ……やばっ、追いついてきた」

「し、仕掛け全部残ってるよね」

 不安そうな目で俺を見てくる。

 狼っ娘じゃない赤井さんを危険な目にあわせるわけにはいかない。

「はぁ、タスキ、貸して」

「え?」

「俺がもう一周行って来る」

 こうなったら、俺が行くしかない。

 タスキをひっかけて二周目を行う。もちろん、電気を流してもらったし、足元も爆発したし、花火も直撃したとも、ええしましたよ。大玉の中からおっさんが出ていたのには驚いたよ。

 それでも、何とか二周してタスキを渡す。

 電池が切れそうで切れないような、そんな状況だ。

「後は……頼んだ」

「う、うんっ!」

『みましたか!素晴らしい愛です!彼女のために、彼は連続で二周しました!一週目スル―したのにはこう言った事情があったんですね!』

 倒れ込んだ俺に保健室部隊が寄ってくるのを見て、俺はやりきった感じで目を閉じたのだった。

「う……ん?」

 俺が目を覚ました時には既に運動会が終わっていた。

「おや、起きたのかい」

「はい」

「君は紅組か……よかったね、優勝だそうだよ」

 紅組は見事、優勝できたようだ。

 頑張ったかいがあると言える。

 問題があるとすれば、みんなそのまま打ち上げに直行……赤井さんも、俺の事なんて忘れて行ってしまったらしい。

「……くそーっ」

 ただ、むなしく俺の叫び声だけが夕暮れ時に響き渡った。今から打ち上げ会場に行こうとも思えない程、身体は疲れて切っていたので俺はそのまま直帰、不貞寝するかのようにベッドで眠るのであった。

 ああ、ぽんぽんがぴーぴーだから競技でるの嫌でしゅって言って休めば良かったぜ。


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