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四季美也子:第二話 後輩の薄っぺらいプライドとちっぽけな見栄

 映画館の後に美也子先輩とやってきた場所は百貨店だ。

「卒業記念に何か買うんですね?」

 何と無く想像して聞いてみるときょとんとした顔をされる。

「違いました?」

「え? あ、う、うん。そうといえば、そうなのかな?」

 何だか微妙に焦っているようだ。

 中に入って先輩が立ち止まった。

「まぁ、私は時間があるからね。それより冬治君は普段どんなものを買うのかなーって」

「へ?」

「あ、ほら。統也や和也がいるからあの子たちの誕生日プレゼントを考えていてそれを参考にね。あの二人にこの歳になって面と向かって誕生日プレゼントは何が欲しい? なんて聞きづらいからさっ」

 鼻がもう少しで触れ合いそうなところで力説された。

「そ、そうなんですね」

「うん、そうなの。だから普段通り私は居ないと思ってね?」

「わかりました。参考になるかどうかはわかりませんけど、頑張ってみます」

 なるほど、プレゼントを探したかったから一度映画でワンクッション挟んでいたのか。挟む必要性は無いと思ったけれど、チケットを渡して事前にお礼をしてくれたって事か?

「俺としては一緒に見て回りたいなと思ったのですが」

「……え? そうなの?」

「はい。美也子先輩が普段どんなものを買うのかなとか、今日は卒業式ですし、卒業記念を送ってもいいなぁと……」

「やっぱり、今日はあの二人のプレゼントは考えるの辞める。そうだよね、うん。せっかく冬治君と来たんだし見るだけでも楽しめそう」

 ばっさりと切り捨てられた俺の友達二人の事は今回悲しんであげる余裕は無いな。

 二人きりだし、何だかデートしている気分だ。だから、今は他の事なんてどうでもいいっちゃいいな。

 今日が終われば美也子先輩とこうして一緒に歩くことはないだろうから。

「じゃ、こっち」

「はい」

 美也子先輩に手を引かれ、そこそこ人の多いタイルを歩き出す。

「まずは雑貨屋でも見に行こうよ」

「了解っす」

 そういえばマグカップが割れてたっけな。

 ついでに買って帰る事にしよう。

 男が使っていても別におかしくないカップを置いた雑貨屋が入って居たよなーと思っていたら美也子先輩が意外と(と言ったら失礼か)ファンシーな雑貨屋に入った。

「どうかした?」

「あ、いや……晩冬先輩も堅いイメージ……あっちは我がままですけど、美也子先輩は優秀な生徒会長のイメージがあったんですよ」

「優秀な生徒会長か……」

 人差し指でこめかみを掻きながらため息をついた。

「私も一応、生徒会長に立候補したのだけれど」

「……すみません、生徒会選挙のときは休んでいたので覚えてないんですよ」

「なるほどね。ま、僅差で負けて少し悔いはあったけれどもう卒業だからね」

 晩冬先輩との間にも何かしらあるのだろう。

「それより、私がこんな可愛いお店に来ちゃおかしい?」

「あ、えーっと……意外性があっていいと思います」

 変に取り繕うより正直に言ったほうが尾を引かなさそうだ。

 俺の目をじっと見て、美也子先輩は頷いた。

「正直でよろしい。じゃあ、行こう」

「ラジャーっす」

 まぁ、ここのほうが美也子先輩の卒業記念を買うのにふさわしい代物があるはずだ。

 女の人に喜んでもらえるプレゼント……なんて、男の俺には想像もつかない。女子の知り合いは多いけれど、そんなに送ったりするもんじゃないしなぁ。

「お……」

 難儀していたら俺が使ってもおかしくないような水色のマグカップを発見した。

 少し大きめなところを見ると男性向けのようだな。

「どうしたの?」

「このマグカップを買おうと思いまして」

 手に握っている水色のマグカップを見せると美也子先輩は少しポカンと口を開いた。何かおかしなことでも言ってしまったかと考えるが会話に不自然さは無かったと思われる。

 見た目も特におかしいところは無いはずで、デザインも水色に犬のシルエットが描かれているだけだ。

「それ、ペアだけど?」

「ペア?」

 つい素っ頓狂な声を出してしまった。

 改めて商品名の所を見ると確かにペアだと書かれていた。近くの女性客が俺を見て笑った気がする。

「あ、ああ……えーと、ペアだって事は知ってましたよ」

 見栄を張るほど悲しい事は無いけれど、つい、俺は見栄を張ってしまった。

「美也子先輩にこっちのピンク色を贈ろうと考えていたんです」

「え? いいの?」

「はい」

「ちょっと高いよ?」

 そこで初めて値段を確認する。

 俺の想像していたマグカップに出せる値段より三割高かった。勿論、二で割った金額なのでセットだと六割高いんだがね……。

「……物がいいですから。それに、卒業記念品ってやつですよ」

「そっか、ありがとう」

 レジに持って行くと一連のやり取りを見ていたらしい店員さんが俺の事を見て笑っていた。

 その目がまるで『カップルで来て似たようなやり取りをするお客さんをたまに見ますよ』と言っているようで少し悔しかった。

 財布に手をつけて、お金を出そうとすると美也子先輩も何故だか財布を出していた。

「私も半分だすよ」

「え?」

 いいんですかと言おうとして言葉を飲み込む。

「記念だからね。冬治君から私へ、私から冬治君へ……いい記念になるよ」

 全て見透かした視線に俺はため息をついて笑うしかない。

「……ありがとうございます」

「ううん、お礼を言うのはこっちだよ」

 お金を出して品物を受け取る。

「末長くお幸せにー」

「えっと……」

 店員さんの声が聞こえて気恥ずかしくなった。

「こういう場合はどうすればいいんでしょう」

「嫌じゃないのならありがとうございますって言っておけばいいよ」

「そうですね」

 店員さんにありがとうございますと言って、その場を離れる。

 離れた後は二人でフードコートへとやってきた。お昼御飯をする―して映画を見ていたのでかなりお腹が減っていた。

「何食べます?」

「実はもう決めてるんだよね」

 そういって俺の手を引いて向かった先には大食いでテレビにも取り上げられた店があった。

「ここね。それと、これ頼むよ?」

「……『アツアツカップル丼ぶり』ですか」

「うん」

「がっちゃん先輩と来たほうがいいんじゃないんですかね」

 俺の言葉を無視して美也子先輩は商品を指差していた。

「……時間内に食べ終えれば五千円を進呈……」

「駄目だったら私が払うからね。一度はやってみたいじゃん?」

 俺は一度美也子先輩の頭からつま先までを見てみる。

 顔は綺麗で、スタイルもいい。あまり食べなさそうな雰囲気がしている。

 じゃあ、俺はどうかと言われれば確かに入るときは入るし、食べろと言われれば食べるかもしれない。

 でも、ポスターに写っている揚げ物の面々を見ると(カツ、海老フライ、串カツ、その他)胃袋さんがノーセンキューと何だか色々とリヴァースしそうだ。

「卒業記念にどう?」

 まるで俺が卒業するかのような口ぶりじゃないですか。

「やります」

「うん、格好いいよ」

「ありがとうございますっ」

 こうして、俺と先輩は戦地に赴くのであった。


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