一之瀬百合:最終話 彼の戦いはこれからだ
「はぁー……心臓が止まるかと思った」
俺は今、百合先輩の部屋のこたつに入り、ため息をついている。顎を載せてため息をつく、なかなかこれもオツなもんだね。
「おつかれですの」
「百合先輩、あのぅ、こういうのもなんですが……もう少し別の紹介の仕方はなかったんでしょうかね?」
「何か問題がありましたの?」
首をかしげる百合先輩に俺は先ほどの事を思い出すのであった。
「こちらがわたくしの一番大切な男性ですの」
「夢川冬治です」
「パパ、冬治ちゃんに料理を教えてほしいんですの。将来はパパと一緒に喫茶店をやりたいんですの。ね、冬治ちゃん」
「……ぴょー」
「冬治ちゃん?」
「そ、そうですね」
途中、俺自身がフリーズした気がしないでもないな。
「冬治ちゃんに聞きたい事がありますの」
「何ですか」
「もし、わたくしに好きだと言った事が……冗談、もしくは間違いだと言うのならここで言ってくれると嬉しいですの」
まさか、百合先輩の方から言ってくるとは思いもしなかった。
しかし、これは渡りに船だ。
「実はですね、百合先輩っ」
「百合ちゃん、おやつをもってきたぞ」
ジョニーさんがノックして扉を開けてきた。
たとえ、ジョニーさんがいたとしても誤解はちゃんと解かなくちゃいけない。
あれから俺も、百合先輩に引っ張られながら真剣に考えたのだ。
ああいった誤解で仲良くなるのだって悪くないかもしれない。でも、それはそれ、これはこれだ。
「屋上で言った好きって言葉は……友達として、好きだと言ったんです」
「……」
ジョニーさんが近くの机にコーヒーとドーナツを置いてシャドーボクシングを始めた。
「やっぱり、そうですの?」
じわっと涙が溜まり始める。
「……だから、ちゃんと女性として好きだと言わせてください。俺は百合先輩と一緒にいるのが楽しいんです。ジョニーさんに挨拶出来たのはやっぱり俺が百合先輩の事を好きだからですよ……あれだけ娘の事を考えている立派な父親に冗談で自己紹介は出来ません」
ジョニーさんは肩幅開いて何かを溜め始めた。
「はぁああああああああっ」
おそらく、この後俺は必殺技の餌食になる事だろう。
そんな事より、俺は百合さんに言わなくちゃいけない事がある。
「百合さん、俺と付き合って下さい」
俺がそう告げると廊下の方から再び声がした。
「あらら、ちょうどいいところに立ち合っちゃったみたいね。冬治君。百合の事を頼むわよ」
「はい」
「おい、利理。ちょっと待て。一度百合ちゃんの事を振って、おれの目の前で告白しようなんざあのガキ、生かしちゃおけんっ」
「立派な父親と言われて嬉しかったんでしょ? ジョニー、顔が真っ赤よ。ほら、お客が来たんだから降りるわよ」
「べ、別に照れてなんか……ぐはっ」
「降りるわよっ」
「……はい」
鳩尾に一撃が決まった。
ああ、てっきりジョニーさんの娘だから力が強いかと思ったら利理さん側だったのね。
利理さん達がいなくなって、百合さんと俺だけが残った。
「……それで、答えはどうですか?」
「もちろん、イエスですわ。本当はあれからがっちゃんと美也子ちゃんから教えてもらいましたの」
百合さんはそういって笑った。
「それを聞いてあやうく理事長室に駆け込むところでしたわ」
あ、やっぱり本気でやるつもりだったんですね。
「でも……がっちゃんと美也子ちゃんはちゃんと冬治ちゃんがわたくしに告白してくれると言ってくれましたわ。だから、待っていたんですの。パパとママの前でまた自己紹介をさせたのも冬治ちゃんが冗談だったと言いだせるよう工夫して見せたんですの」
どうですの、そう胸を反らされても今一つ工夫が伝わって来なかった。
「ま、何にせよこのこたつは冬治ちゃんが遠慮なく使っていいですの」
「そうですね。それじゃあお言葉に甘えて……」
ふーっと息を吐く。そういえばここに俺のどてらが置いてあったなぁ。
「お揃いですの」
「そうっすね」
どてらを羽織った俺に赤色のどてらを見せて……着なかった。
「あれ、着ないんですか?」
「冬治ちゃんの上に座りますの」
そういって俺とこたつの間に割り込んで座る。
うわ、すっげー背徳感があるな。
「ぎゅっとして欲しいですの」
「えーと……はい」
力を入れたところで視線を感じた。
恐る恐る振り返ると、頭にバンダナを巻いたジョニーさんがこちらを睨んでいた……首だけ出して。
「……もっと、ぎゅっとして欲しいんですの」
「わかりましたっ」
ええいっ、ままよっ。
さらに力を込めると百合先輩が変な声を出すものだから、視線で射ぬかれると思ったぜ。
それから三十分ぐらいずっとぎゅっとしていたらジョニーさんが居なくなっていた。
「そろそろ帰りますの?」
「はい」
「じゃあ、また明日ですの」
「また明日っす」
一階に降りるとジョニーさんがいた。
「……お、お邪魔しましたー」
「待て」
「……」
逃げ出したくなる感情を殺して、俺は振り返る。
「な、何でしょう?」
「足が逃げ出してるわよ」
「気のせいです」
利理さんがにやっと笑い、逃げ出していた俺にくぎを刺した。
「お前、料理はできるんだな?」
「はぁ、少しは……」
「そうか、なら明日の放課後からここで働かせてやる」
「え?」
「嫌だと言うのなら、おれは徹底的に戦うぞ」
じろっと睨まれた。ジョニーさん……一体、何と闘うつもりなんですか。
「わたくしからもお願いしますの」
「えーと、はい。わかりました」
これはそう言う事なんだろうな。
利理さんも親指を立ててよくやったと言う視線を向けてくれている。
「じゃ、今度こそお邪魔しました」
「またね、冬治君」
「すこし見送りますの」
ジョニーさんは返事をしてくれなかったが、どうせ明日も会えるから言わなかったのだろう。
外に出ると既に暗くなっていた。
「寒いですね」
「そうですの。でも、さっきまでぎゅっとしてもらっていたから大丈夫ですのっ」
元気な百合さんを見て俺もさっきの事を思い出して熱くなった。
「あの、冬治ちゃん」
「はい」
「座ってほしいんですの」
「ここでですか? わかりました」
しゃがむとさすがに百合さんの方が高い。
「……年上だからリードしてあげますの」
「え」
ちゅっと、軽く百合さんの唇が俺の唇に当たった。
「明日からがんばってほしいんですの」
「……わかりました。任せてくださいっ」
意気込む俺の視線の先に、憤怒の形相のジョニーさんとほほ笑む利理さんが立っていた。
明日から、頑張ろうと思う……本当に色々と。
以前投稿した時は百合編、一話で終わってました。そっちもこっちにいれようかなぁとは思いますが……うーん、どうだろうか。ダニエルぐらいしか登場してないですし、勘違いされそうなのでやめておきましょう。ただでさえ、この百合編はややこしい感じがするのに。ま、短編という認識でお願い致します。次はおそらくがっちゃん先輩でしょうか。人気あるのか、がっちゃん先輩……。




