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晩冬六花:第九話 彼氏として

 なし崩し的に……自分が六花先輩を好きだった事に改めて気づいて告白してしまった。

 挙句の果てに、唇まで奪ってしまった……。

「うっひょーっ!」

 その日は悶々とし過ぎて部屋で布団を蹴りまくった。

 おかげで、ちょっと寝不足だ。デートプランまで考えたもんだから更に寝るのが遅くなった。

「……とりあえず、もう行かないとな」

 余裕を持って三十分前についておいた方がいいだろう。

 どうせ、六花先輩はいつものように遅れてくるはず……と思ったのが間違いだった。

「嘘……」

 六花先輩がせわしなく時計を見たり、身だしなみを気にしていた。

 時間にルーズで、身だしなみにもあまり気を使わない人なのに……それほど俺とのデートを楽しみにしていてくれたのか。

 慌てて走り、息を整えつつ先輩の前に立つ。

「す、すみません、六花先輩っ。遅くなりましたっ」

 潔く頭を下げる。

 君から誘っておいて、この体たらく……体で払ってもらおうかしら。そう言われると思っていると頭を軽くはたかれる。

「あいたっ」

「まだ約束の三十分前よ。気にしてないわ」

「り、六花先輩……成長されたんですね」

「失礼よっ」

「いてっ……成長に対して感じる痛み、成長痛ってやつですか」

 何が先輩を成長させたのだろう…もしかして、六花先輩の本質がこれだったのではないかとも考えてみる。

「でも、女の子を待たせるなんていい度胸してるじゃない」

 にやーっと笑う六花先輩を見てため息をつく。

「やっぱり、そうなるんですね」

「やっぱり? ……冬治、あんた失礼な事も考えていたようねぇ」

「……すみません」

 何処かほっとしている自分が情けなかった。

「さ、反省したらわたしに面と向かって好きだと言ってもらえるよう頑張りなさい」

 面と向かって、か。

 告白して帰ってたら廊下に放送がダダ漏れだったからなぁ……。

 気付いてないふりをしなくてはいけないだろう。

「えーっと、放送じゃなくて面と向かって好きだと言ってもらえるよう頑張ります」

「は?」

「いえ、頑張りますと言っただけです」

 六花先輩の事は好きだ。

 だから、六花先輩も堂々と俺の事を好きになってほしい。そうしないと、俺は六花先輩の事をさらに好きになれないだろう。

 そう思うのはちょっと危ない考えかもしれない。

「やれやれ、君がストーカーになったらどうしようかしら」

「まさしくミイラ取りがミイラになるってやつですね」

 思えばストーカーをどうにか出来たんだよな。まさか、女子生徒がストーカーしてたとは思いもしなかったよ。そして、こうやってまだ一緒に居られるとかね……幸せだな。

「先に聞いておくけど、君ってどういう事に興奮するの?」

 真面目に考えてみるとしよう。

「…うーん。わかんないです」

「うそでしょ? 前、私に抱きしめられた事あったじゃないの…あれで興奮しなかったの?」

「あの時は……少ししましたけど、そもそも女子生徒に抱きしめられることに驚いたりしただけです。その後にがっちゃん先輩に抱きしめられまくりましたから。どうでもないです」

 がっちゃん先輩のおかげで頑丈な身体になったと思う。

 六花先輩には悪いけど、がっちゃん先輩の熱い抱擁には敵わないかな。柔らかさと堅さを両立した素晴らしい人である。

「……じゃ、じゃあ、生徒会室での口づけはどう? 興奮したでしょ? 背徳感もあったわよね?」

「背徳感ですか?えっと、百合先輩が…その、あーんをねだるほうが背徳感あります」

 見た目がロリぃなのだ。

 六花先輩には悪いとは思う……でも、背徳感で言うと、そっちの方が半端ない。

 いつ捕まるのかと思ってしまうほどのやばさがあるのだ。

「……じゃあ、一体何に興奮するって言うの? 何されたら悦ぶのよ?」

「俺はまだ先輩の事を好きだって気付いたばっかりですからわかりません」

 こればっかりは先輩が見つけてほしい。

 じーっと六花先輩を見ていたからか、意地悪そうな顔になった。

 ああ、ろくでもないことを考えているに違いない。

「君、もしかしてわたしの体が目的で好きだなんて言ったんじゃ……」

「六花先輩には重ねて申し訳ないですけどスタイルだけで言うなら美也子先輩のほうが、凄いですよ?」

 普通に胸も大きいしな。

「うぐっ…」

「だから安心してください! 俺は身体で選ぶような人間じゃないんですっ。六花先輩の身体が目的じゃないですよっ。がっちゃん先輩に劣っていたり、百合先輩よりも我がままで、スタイルじゃ美也子先輩にまけてますけどそんな駄目な六花先輩が好きですっ」

「き、君ねぇ……」

 六花先輩が崩れ落ちてしまった。

「み、美也子の奴……それで、一体、自慢のボディとやらをいつ知ったのよ」

「六花先輩が俺の事を捨てた後すぐにです。夏祭り以降ですね」

「……はぁ、こんな事になるのならあんな事を言わなければよかったわ」

 ため息をつく先輩を俺はフォローしてみることにした。

「でも、先輩が一度捨ててくれて自分の気持ちを知ったんです。それに、美也子先輩達がいなければこうやって一緒にいる事も出来ませんでした。俺、拗ねてたんですよ」

「ふぅ、最初は名前どころかわたしの存在も知らなかった男子生徒に半年ぐらいで告白されるなんてね……」

「好きになったから仕方ないです」

 そう言うと先輩はほんの少しだけ苦虫をかみつぶしたような顔になった。

「好きって軽々しく言わないで。何だか、ありがたみが薄れる」

「そうですかね」

「そうよ、付き合ってあげてるんだから私のちょっとした我儘にも付き合ってもらうからね」

「はい」

 我儘なら、もう慣れた。

「ほーら、行くわよ」

「了解っす」

 多分、これから先ももっと我儘を言われて俺は喜んで従うんだろうなぁ……。

 意外と、マゾなのかもしれない。


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