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晩冬六花:第七話 友として

 がっちゃん先輩たちの教室にも放送が伝わっていたのを知ったのはそれから数日後、彼女達の教室に行った時のことだ。

 その時ついでに美也子先輩から聞いた話。

「六花、血眼になって冬治君を探してるわよ」

「六花先輩が? 何ででしょう」

「それは冬治君が一番わかっているんじゃないの?」

「さぁ、全然わかりません」

 同じ学園だ。

 会おうと思えばすぐに会えるはず。

「でも、自分で会いに行くのが嫌みたいでね。大嫌いって言われたのが相当堪えたらしいのよ。友達として心配だわ」

「その割には滅茶苦茶いい笑顔で話してますね」

 女の子の友情は男のそれと違うとか聞いた話があった。

 美也子先輩と晩冬先輩はそれなりに仲良くやっているはずだ。俺が口を出すような話でもない。

「冬治、お前……六花に新しい電話番号とか教えてないんだろ?」

「通話できない、メールも送れないと愚痴ってましたわ」

 がっちゃん先輩と百合先輩も俺に聞いてくる。先輩たちと一緒に昼ごはんを食べるようになって、俺は食堂には行かなくなっていた。

「教えてませんよ」

「そんな意地悪しなくてもいいだろ? 何で携帯電話を変えたんだ」

「ケータイ壊したのがっちゃん先輩ですけど……」

「それはがっちゃんが悪いですわ」

「むー……でもよぉ、お前六花と仲がいいんだよなぁ。おれは友達にそうされるとへこむよ」

 がっちゃん先輩の言葉も正しいもんだった。

「晩冬さんが悪いですわ。わたくしでしたら冬治ちゃんを二度と離しませんもの」

 百合先輩が嬉しい事を言ってくれた……でも、手を出すと警察のお世話になりそうで怖い。

「それは……おれもそうだけどよぉ」

「掘られそうで怖いっす」

 軽口をたたける中だけど、こんな感じで言うとそれはもう、恐ろしい。

「何かいったか?」

 取りを射落とすような鋭い視線が向けられる。

「ちょっとしたジョークを……とりあえず、先輩から『もう連絡しないでくれ』って言われてますし、番号もアドレスもケータイが死にましたから。そもそも、俺のケータイに勝手に登録したの晩冬先輩ですもん」

 俺と晩冬先輩の繋がりなんて、そんなもんだ。

 どっちも会おうと言う気が無いのなら会えるわけもないし、俺はわざわざ会いに行こうなんて考えていない。

 これまでは俺の方から積極的に晩冬先輩と一緒に居るわけではなく、引っ張られていただけだ。

 考え事をしていたら百合先輩が俺の顔を覗き込んでくる。

「冬治ちゃんは晩冬さんと一緒に居たくないんですの?」

「……晩冬先輩にとって俺は、所有物みたいなものなんですよ。百合先輩もおもちゃが『捨てないで』って言っても要らなくなったら捨てるでしょう?」

「おもちゃが喋ったら怖いですわ」

 そういって百合先輩は自分の肩を抱き、がっちゃん先輩は笑っていた。

「そりゃそうだ。おれだったら一発でゴミ箱……いや、神社にもってくわ。百合ならこわすもしれないけどさ」

「え? 百合先輩って意外と怖い先輩だったりします?」

「それについては何とも……とりあえず、私だって神社にもっていくわ」

 全員でその通りだと頷いて、俺は顎に手を置く。

「たとえを間違えました……そうですね。うーん、ペット、はさすがに違うか」

「ペットだって聞いたがなぁ」

「要は冬治ちゃんが拗ねているだけですわ」

 ぐさっと百合先輩の言葉が胸に刺さった。

「あ、図星ね」

 美也子先輩がいやらしい笑みを浮かべている。

「これからいじりまくってやりたいが……残念、昼休みがもう終わる。またこいよ」

「はい、また来ます」

「待っていますわ」

 教室を出ると、晩冬先輩がこっちを見ていた。

「……っと」

 黙って腕を組み、俺の事を見ているだけだった。

 一番近いほうの階段の前に陣取っている。他の生徒達は関わり合いにならないほうがよさそうだと避けて歩いていた。

 俺は回れ右してちょっと遠い階段から降りることにする。

 先輩は追って来ず、俺はちょっとぎりぎりの時間で教室に滑り込んだ。

 放課後、さて、帰ろうとすると校門に誰かいた。

「晩冬先輩……」

 これまた、腕を組んで待っていた

 俺は何も見ていない事にして裏門から逃げようとする

「うわ、こっちにもいたよ」

 姿を見られていないのが幸いか……晩冬先輩は怖い顔で待っていた。

 どうやら、俺の行動がよまれていたらしい。

 捕まるのも癪だったので、今度は正門から走って逃げだした。

「おおい、どこに行くんだ?」

 残念ながら、網が敷かれていたようだ。

「が、がっちゃん先輩……」

「私もいますわ」

「ごめんね、冬治君」

「百合先輩、美也子先輩まで……」

 あっさり捕まった俺はどういう事か説明してほしいと美也子先輩の方を見る。

「美人先輩三人組に囲まれて嬉しそうね。わたしも嬉しいわ」

「嬉しいですけども、説明していただけるともっと嬉しいです」

「おいおい、そんなふざけた事言ってるとおれは遠慮しないぞー」

「がっちゃん先輩も美人ですよ。頼りがいありますし、一緒に居ると安心しますから」

「冬治……お前ってやつは……」

「ぎゃああああっ」

 がっちゃん先輩は俺をひしっと抱きしめる。ぐえぇと口から出そうになるのをこらえていると(悲鳴は抑えきれない)、百合先輩によって解放された。

「惜しかったですわね。でも、持ち上げたって駄目ですわ」

「……むー、た、確かにそうだな。こういうのは駄目だよな」

「じゃ、じゃあ説明してくれませんかね」

 美也子先輩が手を挙げて(外なのに恥ずかしくないのだろうか)、喋りはじめる。

「今回は、今回は……六花の方に手を貸すわ」

「つまり?」

「晩冬さんの話を聞いてほしいんですの」

「……冬治、駄目か?」

「あのー、笑顔で頭を掴むのはやめてほしいのですが……」

 この三人とは仲良くしている。一緒に帰ったりすると必ず奢ってくれる人たちだし、夏祭り以降、一緒に居ると楽しい人たちだ。先輩達には可愛がってもらっている。恩返しなんて他で出来るとは思えない。

 つまり、俺は折れるしかないのだ。そもそも、嫌って言ったら物理的に折られそうだ。

「……先輩達の頼みを断れるはず無いじゃないですか」

「心の底からお願いすれば冬治はわかってくれ奴だと思っていたよ」

「そうですわね」

「ぎゃああっ」

 ひしっとがっちゃん先輩に抱きしめられてお尻をぺしぺしと百合先輩から叩かれる。帰路についた生徒からは好奇の視線を向けられていた。中には羨ましがる奴もいるが……これはただ苦しいだけだぞ。ちょっと嬉しくなったりなんてしてないからなっ。

「……六花。後はあんたがどうにかしなさい」

「……あんたに言われなくてもわかってるわよ。ほら、さっさと冬治を渡しなさい」

「っと悪い」

「満足しましたわ」

 不機嫌な六花先輩は俺の手を引いて、学園へと戻って行った。

 二人とも無言なまま、生徒会室へとやってくる。先輩は生徒会室の鍵を閉めた。

「……一体、何なんですか」

 抑えようとは思っても、声が尖ってしまうのを感じる。言っておいて何だけど、六花先輩が更に不機嫌にならないか心配でならなかった。

「早く言ってくださいよ」

 それでも俺は、不機嫌な声をあげてしまう。

 拗ねている……か。あながち間違ってないと思う。


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