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晩冬六花:第二話 駒として

 晩冬六花先輩と知り合いになった。とはいっても、今のところ接点は食堂以外に無かったりする。俺は生徒会の役員でもないからな。

 放課後、何かしら接点があれば……たとえば、部活が一緒とかなら会う機会も増えるだろう。帰宅部である俺は(以前所属していた部活はつぶれました)帰るしかない。道草くってもいいけれど、今月はちょっとピンチなので出費は却下なのだ。

 今日も終わった―とため息交じりの水曜日、放送機材を使用した時の独特の音が耳へと入ってくる。

『二年……何組だったかしら……二年の夢川冬治君。今すぐ生徒会室に来なさい』

「え……」

 何この怒った声は……俺何かしたか?

 今日も食堂で会ったけれど、特に起こった感じもしてなかったぞ。うん? 一体何が……。

「夢川…お前、生徒会長と知り合いだったのか」

「え、あ、ああ……この前ちょっとな」

 友人である四季達也がため息をついている。

「お前は茨の道を進むつもりか。おれは、いいや、クラスメート全員がお前を応援しているよ」

 どういう事だとクラスを見回すとサムズアップしまくりの男子生徒がこっちを見ていた。

「どういうことだってばよっ」

「君のあだ名はトイだ。頑張れ」

「もしくは、玩具だ。おもちゃでもいいぜ?」

 なんだ、トイって……どうせならトムの方がよかったぞ。

 あと、玩具ってどういう意味だよっ。

「それはどういう……」

 講義を兼ねた疑問を口にしようとすると、再び放送器具の電源が入った。

『こらー呼び出ししたんだからクラスメートと話していないでさっさと来なさい』

「何でばれてんだ……」

 晩冬先輩はエスパーか…そう思っていたら後日クラスメートが『全クラスに盗聴器が仕込まれてる』と教えてくれた。本当かどうかはわからない。それならまだエスパーのほうが良かったかもしれないな。

 慌てて廊下を走りまくって(これも放送で怒られた)、俺は生徒会室まで辿り着いた。

「き、来ましたよ」

 まぁ、生徒会室なんて滅多に来ない(教室二つ分ある広さ)のでちょっと迷ってしまったけどさ。でも、プレートに『生徒会室』って書かれているし、間違いはないよな。生徒会役員の人も場所を教えてくれた。それにしても、この部屋ロッカー多すぎ。

 椅子と机はあるけれどまるでどこかの更衣室みたいだ。

「遅い。謝罪して」

 きらりと光る眼鏡、それから向けられる眼光に思わず縮みあがってしまった。

 そこまで遅かっただろうか……走ってきたから其処までかかってない気がするんだけど。

「早くっ」

「す、すんません」

「よろしい……早速本題に入るわ」

 座りなさいと言われて大人しく椅子に腰かける。

 生徒会室とは言え、椅子がふっかふかだった。リクライニングモードもついているらしい高級な皮の質感、座り心地に違和感を覚えてしまう。

 こんないい物を生徒会は使用しているのか? 予算いくらだ。

「えー、えと、それで俺は何で呼び出されたんでしょうか」

「手伝ってほしい事があるの」

「あ、生徒会の手伝いですか。いいですよ」

 どうせやる事が無いから構わない。お人よしと言う性格じゃないけれどもわざわざ放送してまで俺を呼んだのだ……きっと、他の人には頼めない事なのだろう。

「女子更衣室から私の下着をもって来て頂戴」

「そのお願いは確実に人選ミス!」

 気付くのが遅かったのかもしれない。この人は……異常な人だ。小説とか、アニメとかの創作ものじゃ良くある展開だろう。でも、現実にやるとアウトだろ。

 友達無くすぞ。

 俺の心の中なんてわかるわけもない。沸点が低い生徒会長はいらいらし始めた。

「早く行って。場所は慣れてそうだからわかるわよね?」

「い、いや、慣れてないっす。そんな女子更衣室に忍び込むなんて出来ません」

「そう、じゃあ私も協力するわ」

「無理っす。先輩が行けばいいじゃないですか」

「……ほんとーに無理なの? ただ面倒なだけなんじゃないの?」

 俺の話を聞いていないようだった。しかも何だよ、面倒だから聞きたくないって! 面倒なら俺この生徒会室まで来てないよ。

「いくらお金積まれても無理ですよ」

 目の前には威圧感出しまくりの生徒会長……後ろには窓ガラス。こうなったら、飛ぶしかないのか。

「じゃあ、内申点を挙げてくれるように先生にお願いしてあげる」

 餌を変えてきた。

「……駄目です」

 ばれたらどの道内申点さがるじゃねぇか。それに、やっている事が下衆い。生徒会はもしかしてこんな人がいっぱいなんだろうか……。

 俺とは対照的に冷静な顔になった晩冬先輩は顎を撫でてこっちを見ている。

「何を出されても行きません」

「……ふむ、まぁまぁいい目をしているから少しは信頼できそうね」

「は?」

 いまいち話が掴めていない俺に晩冬先輩は紙を一枚出してきた。

「これはなんですか」

「読めばわかるわ」

 それはそうだと紙に目を落とす。

「どれどれ……晩冬六花の彼氏(仮)になろう。目的は晩冬六花生徒会長にストーカー行為を行う男子生徒を諦めさせる事……これに協力しろってこと、ですか」

「その通りよ」

「うぇえー嫌ですよ。何でそんな事を……」

「理由はここに書いているわ。ただ単純に助けてほしいと言う理由なのに無碍にするなんてクズで最低最悪の糞みたいな男子生徒ね……だけど、決めるのは個人の自由だもの。仕方ないわ。ほら、クズ、どうする? 断るの?」

 其処まで俺をこきおろしますか、生徒会長。

 どうせ、断っても酷い目に遭いそうだ。それに、困っているのは間違いないみたいだし……うーん、やっぱり手伝ってあげたほうがいいかな。

 さんざん悩んだ末、俺は手伝う事にした。

「わかりましたよ。手伝います」

「優柔不断な男。手伝うんなら最初っから言えばいいのに」

「酷い」

「ちなみに、手伝わなかったら下着を取りに行かせるつもり。女子更衣室に侵入したところを今度の学園朝礼で発表する所だったわ」

 俺はここで自分がどこに入りこんだのか知る羽目になったのだった。


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