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晩冬六花:第一話 食堂の隣席の気になるあの人

 気になる子がいる。

 食堂で必ず隣に座る人だ。気になる子じゃねぇな、年上みたいだし……正確に言うのなら気になる人か。

 カレーを持って、いつものポジション……というわけでもないな。

 適当な席に座って数分後、件の彼女が現れた。

「お邪魔するわね」

「あ、はい」

 誰だろう、誰だろうと一生懸命考えて既に一週間。

 どこかで見た事がある。何かのポスターで見たような気もする人だ。

 政治家ってわけじゃないだろう。じゃあ、他にポスターは何のために使うか。

 うーん、アイドルって顔でもない。

「そうか、生徒会長だ」

「呼んだ?」

 豪快にうどんを食べている生徒会長がこっちを見てきた。口からはみ出てる! うら若い女性が口からうどんを束で出していいのかよっ。

 初対面……というわけでもないものの、知り合いじゃな……くはないか。

 俺は冷静な顔で首を振った。

「あ、いや…呼んではいないです。先輩の事を何処かでみた事あるなぁと考えていたんですよ。生徒会長だったんですね」

 曰く、この学園の生徒数をはっきり知っている奴なんて生徒会長ぐらいだと言う奴がいる。

 曰く、この学園の生徒の中で一番偉いのが生徒会長だという奴がいる。

 曰く、この学園の生徒会長は人使いが荒いと定評があるという生徒会役員がいる。

「貴方、自分の学園の生徒会長も知らないの?」

 あきれた……そんな顔をしないで下さい。というか、口からうどん出したままの人に言われたくないです。

 微妙に聞き取り辛い言葉に俺は反論する事にした。

「知らないって言うか、何と言うか……知らなくてもここの生徒で居られますから」

「それはいいわけだと思うわ」

 先輩がうどんをすする隣でカレーを口へと運ぶ。

「あの、ついでに聞いておきますけど……何で最近俺の隣に座っているんですか」

 混んでいるときも空いているときも、俺の隣で昼食を摂っている。

 俺に気があるのか? と言う自惚れた気持ちはさらっさらなく、こうやって近づいてくる相手には警戒してしまう我ながら少し勿体ない性格をしていると思う。

 うっひょー美人の生徒会長さんと仲良く慣れちまったぜ。ひゃっはー……そう言えたら人生楽しいに違いないね。

「そうねぇ。特に理由は無いけれど強いて言うなら……友達がいなさそうな君と友達になろうと思ったからかしら」

 うどんの汁を啜り終えて先輩はふーっと息を吐いた。

「は」

 俺だって友達の一人や二人、一人や……二人ぐらいはいるさっ。すぐに出てこない顔とか名前の友人もいるけれど二回以上話した人は俺の友達とみなさせてもらう。

 隣人は友達、いや、世界の人達みんな、友達なのだ。

「お言葉ですが友達ぐらい居ますよ。……友達には困っていません」

「あら、じゃあ私と友達になりたくないと?」

 意外な言葉にちょっとびっくりして相手の顔をまじまじ眺めてしまう。

「……別にそう言うわけじゃ在りませんけど」

「じゃあ今日から私と君は、友達ね」

 差し出された右手を何となく掴んでシェイクハンド。

 握手から始まる友達関係は何だか後で問題が起きそうなんだよなぁ。

「私は晩冬六花」

「俺は夢川冬治です」

「夢川? 変わった苗字ね」

 晩冬の方が稀だと思います。如何でしょう……とは言えなかった。

「ところで貴方、こんな格言を知ってる?」

「どういったものですか」

「私は、自分の為に……みんなは私の為にという素晴らしいジャイアニズムよ」

 一切冗談を言っているつもりは無い、晩冬先輩の目が真摯に語っている。

 もしかしたら友達にならないほうが良かった部類の人かもしれないな。

「そ、そうですか。ちょっと聞いたことありません」

「わがまま、自己中心的、唯我独尊、俺様最強……どれもいい響きよね」

「それは……どうなんでしょうか」

 それからは特におかしな話もせずに先輩の食べる口調(さらにおにぎりを頼んだ)に合わせて昼食を続ける。主に生徒会での愚痴や、先生の愚痴、学園生活の愚痴やらストーカーっぽい学生の愚痴っぽいものを聞いた。

「って、俺聞いてばっかりやん」

「ありがと、あなたに聞いてもらえたおかげで塵も積もれば山とナルシーな気分だわ」

 明日もまた来るからと先輩は食器を置いたまま去って行った。

「……これ、俺がやらないと駄目なのか」

「駄ぁ目よ。ほら、さっさと生徒会長の食器を持って来て頂戴」

 おばちゃんにせっつかれ、俺はため息をひとつだけ吐いた。

 食堂の入口に『自分の食器は自分で持って行きましょう』って書いてあるポスターが貼ってある。その右端に、『羽津学園生徒会』って書いてあるぞ、おいっ。


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