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秋口紅葉:第十話 紅葉狩り(前編)

 秋である。

 食欲の秋、読書の秋、勉強の秋、運動の秋、秋のネタ飽き飽き……。

 とりあえず、秋だ。

「秋と言えばもみじ狩りだね」

 和也の一言で決定したもみじ狩り……メンバーはいつもの三人。

 俺と和也、そして紅葉さんである。

 わたくしの意見としてはねぇ……もみじ狩りというものは歳を経て景色を楽しめる年齢になってから楽しむものだと思うわけです、はい。

 案の定、俺たち三人はただ話しているだけだ。

 これでは単なるハイキングである。

「しかし、この歳になってハイキングか」

「じゃあ、遠足」

「……何でもいいけどさ」

 ふーとため息をつく。

「呼び名はともかくたまに見ると紅葉って綺麗だな」

 俺だけでも紅葉を楽しもうと紅葉を見る。

「……今一つ、色づいてない」

 まだ暑いもんなぁ……。色付けって言っても簡単に色づかないだろう。

「冬治がそう言うと思ってちゃんと準備してる」

 おれに任せろと胸を叩く首謀者。

「そりゃいったいどうすりゃいいんだ」

 絵具でもぶちまける気か?

「紅葉ちゃんをじっと見てくれ」

「……よくわからんがいいだろう」

 じっと紅葉さんを見続ける。

「え、えっと……」

 真っ赤になった。

「色づいてまさしく紅葉だね。そしてそのまま押し倒して……これが本当の紅葉狩り」

 親指を立てる和也に中指を立ててやった。

「お前山○さんに座布団全部持っていってもらうぞ」

「へへーん、おれにそんな事を言っていいのかなー?」

「やたら強気だな」

「まぁね」

 一体、こいつのやる気がどこから出るのか非常にテンションが高い。すれ違う人々に挨拶までしていた。

「……紅葉さん、一体和也の奴はどうしちまったんだ」

「う、うーん、何でかな」

 目をそらされた。

「何か企んでるね?」

「ごめん、教えてあげられない」

「いいよ、当てて見せる。どうせ、今回の目的はもみじ狩りなんかじゃないんだろ?」

 そう言うと図星だったらしい。紅葉さんの顔が青くなった。

「どう? ここまでは当たりでしょ? 本気出せばこんなもんよ」

「う、うん……ちょっと凄い……。てっきり、鈍いと思ってたから」

 鈍いって酷い言われようである。

「調子がいいからこのまま当てちゃおうっと」

「和也君、どうしよう……冬治君の感が冴えてきたよ」

「世界が滅亡するまで在り得ないよ」

 すっぱり断言された。

「おいおい、そんな事言うと本当に当てちゃうぞ? こら」

「鈍い冬治が当てるとは思えないなぁ……へい、かもーん」

「紅葉さんが重大発表をするとか……どうだ」

「……」

「……」

 二人とも黙り込んでしまった。

「嘘、当たった?」

「……な、内容まで当てないと駄目だよ。まさか、冬治に覚悟してもらうつもりがこっちが覚悟しないといけないとはね…」

「うんっ……頑張って、冬治君っ」

 和也はともかく、紅葉さんの方は俺に期待してくれているようだ。

「その前にお腹すいた」

 腰をおろし、食事にする。続きはご飯を食べながらにしよう。

「お弁当作ってきたんだ」

「へー……紅葉さんのお弁当か。もしかして、これが答えか」

「花より団子が答えではありません」

 和也が目の前でばってんしてくる。

「紅葉さんの料理の腕前やいかに……」

 リュックからタッパをとりだす紅葉さんに隠れて、和也が俺の肩をたたく。

「期待していいよ」

「そうか、料理の腕は凄いのか」

 別に女が料理を作るべきだ、なんて思っちゃいない。それでもまぁ、男女ともに人前の腕は持っていていいと思う。俺だってちゃんと料理の勉強はしてる。

「うん、目玉焼きがいきなり爆発したのには驚いたよ」

「そっちの方面で期待か…」

 その腕、ミラクル級……。

 和也の期待通り、料理にはてなマークがくっついた代物が出てきた。

「う、うっわぁ……とてもおいしそうな何かだね。冬治、これ何に見える?」

 四角の固形物である。

 黒い、炭っぽい、歯ごたえはしゃりしゃりしてそうだ。

 おそらく、大人の味。

「……卵焼き……に見せかけてのオムレツ?」

「そうだよー。はい、お箸」

 当たったよ。俺が知っているオムレツって四角じゃない気がするんだけど…。

「四角じゃなくて、刺客だよっ……これを食べる資格はおれには……ないっ。だから、冬治にお願いがあるんだ」

 和也の目の前にもオムレツ(?)が置かれる。まさか、もみじ狩りでオムレツ(?)を食べる羽目になるとは思わなかったぜ。

「悪いけど今日はお腹がいっぱいで自分の分しか食べられそうにないぜ」

「違う違う、ちょっと紅葉の写真を撮ってこようかなって思うんだ。だから、先に二人で食べててよ」

 逃げるつもりか……だが、甘いぜ。

 紅葉さんがそうそう逃がすわけもないはずだ。

「そうだな、紅葉さんがいいっていうなら別にいいぞ」

 そういうと和也はにやっと笑った。

「紅葉ちゃん」

「何?」

「こっちきて……」

 何やら耳打ちしている。俺の方をたまに見ながら少しの間話をしている。

 俺がようやく一口食べてみると同時に和也が何処かへ行った。どうやら、許可がおりたらしい。

「オ、オムレツ……どうかな」

「率直に言ったほうがいい?」

「うん」

「形容しがたい何か。それはわたしの口の中を蹂躙し、舌を突き刺し、明日の不安を増幅する。……消し炭を口にしていると思わせつつ、どろっとした白身にどろどろの何かをブレンドした味覚。かといってカリカリ、というよりサクサク感が半端ない」

 要約すると、超まずい。

「ふんふん、なるほど」

 一生懸命メモを取っていた。

 お茶をもらって、オムレツを平らげる。ほぼ呑み込んでやった。

「すごいね、あれを食べきるなんて」

 コンビニで買ってきたと思われるサンドイッチを紅葉さんは食べていた。それに関しては何もコメントしておかないでおこう。

「なるほどね、これが重大発表だったのか…」

 料理を始めたいと言う事だろうか、それとも……毒見係を任せたいと言う発表か?

 うー、まだ口の中がじゃりじゃりするぅ……べとべともするし、こみあげてくる何かを感じる。

 真剣な表情でメモを取りながら紅葉さんは答える。俺の話は半分しか聞こえていないようで返事もおざなり。

「ううん、違うよ。私がね、冬治君に告白するつもり」

「うん?」

 えっと、何だか凄い事を言われた気がする。

 紅葉さんの手も止まっていた。

「あの、冬治君、今……私なんて言ったっけ。集中していてなんだか凄い事を口走った気がする」

 正直に言ったほうがいいのだろうか。

 しょうがない、俺は覚悟を決めて言ったのだった。

「私がね、冬治君に告白するつもりって…いったよ」

 冬に近づくちょっと冷たい風が俺達の間を通って行った。

 もみじなんて色づいていないのに…もう、冬か。


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