秋口紅葉:第七話 夕立
秋口さんと、和也、そして俺が一緒に居るのは二学期になっても変わらない……はずだった。最近は三人で一緒に居る事が少なくなったと思う。
和也が秋口さんに告白して玉砕されたからではない。
「四季、こっちにこい」
「……はい」
どうやら悲しい事にまだ夏休みの宿題を終わらせていないらしい。停学中で、俺達とは別メニューの授業を受けているとの事。
「可哀想になぁ」
「同情するなら変わってほしい」
「おっと、空耳が…」
「自業自得だよね」
「酷い……そうだけどさ」
連行されて行く和也にできる事は優しい目つきで送ることだけである。
ついでに、手を合わせておいた。
二学期の開始時に何とか宿題を提出した俺と秋口さんは帰路につく。
「今日私の家に来ない?」
「わかった」
意外や意外、秋口さんはゲームがうまい。
パーティー、アクション、シューティングにパズル系……格ゲーもうまかった。
そして、運動神経も抜群でふざけてやりだした鬼ごっこ、和也と二人で追いかけても捕まえる事が出来なかったぐらいだ。
この前、熱血の流れ(?)に流されて拳で語り合おうなんて言わなくてよかった。ふるぼっこにされて捨てられていた事だろう。
「曇ってきたな……」
「夕立来るかも」
そんな話をしてすぐに、雨が降り出した。お互い、傘なんて持ってないので全力で走る。
何とか秋口さんの家についたものの、パンツまでぐっしょりだった。
「へっくしょい」
「ちょっと待っててね」
秋口さんが何処かに行って玄関で待っていると、またくしゃみが出た。
「へっくち」
「ちょっと可愛いかも」
「うう、夏なのにちょっと寒くなってきた」
この前風邪をひいたばっかりだ。俺の体の抗体がきっと頑張ってくれるはず。
「……体のいたるところにLEDみたいな光る部分が生えてくるかもしれん」
X抗○的な奴。進化しちゃうかもしれない。
「はい、タオル」
「ありがとう」
俺が馬鹿な事をしている間に秋口さんはタオルを準備してくれて、手渡してくれた。それを有り難く頂戴し、体を拭く。
「着替えてくるね」
「わかった」
体をある程度拭いただけで大分マシになったものの、やっぱりべったり体についているのは気持ち悪い。一応、体操服が鞄の中に入っていたけど、ちょっと湿っている。
「…ドライヤー貸してもらうか」
濡れているので勝手に家の中へ上がるわけにもいかない。大人しく出てくるのを待とうとしたら叫び声が聞こえてきた。
「きゃーっ」
「秋口さんっ!?」
血相を変えて秋口さんが出てきた。
下着姿だ! ラッキー……じゃない。
廊下を突っ走ってきた秋口さんは俺に抱きついてくる。
「一体どうしたのっ」
「ご、ゴキブリがっ……」
なんだ、ゴキブリか……。
「ゴキブリが、袋の中にわしゃわしゃって」
俺の胸に顔を埋めてがくがくふるえている。一体、どういう事だろうか……。
下着姿の秋口さんを抱きしめながら(超重要な事である。ボリュームある胸をこれでもかと押し付けられている為、理性が吹き飛びそうで大ピンチ!)、あがらせてもらった。
「……袋の中って、どういう事?」
「……思い出したくない」
余程トラウマなのか、本当におびえていた。
虫に対しての免疫は多少なりともあるけれど、部屋の中にびっちりいたら俺は逃げだすだろう。
「どこ?」
「わ、私の部屋……」
びびりまくりの秋口さんが伝染して、俺もちょい腰が引けてきた。
ええい、へたれの名をほしいままにしてきた俺と言えど、一応男だ。チャンスがあれば女の子に告白できると自負しているつもりなのだ。ごきぶり程度で俺の心はくだけやしないっ。
来た事がある秋口さんの部屋に一応、許可をもらって入る。当然、秋口さんは俺の首に手を回して震えていた。
「…あ、あそこ」
指差す先には箪笥があった。
「開けていいの?」
「う、うん。下着を取ろうとしたら……それが、あって」
下着か……うっひょー……いや、待て、下着でちょっと心が躍ってしまった。俺は変態ではないはず。
ともかく、Gの存在が怪しまれる個所の引き出しを引っ張ってみる。
「ど、どう?」
目をつぶって俺を抱きしめてくるので『おほぉ』とか思いつつ、返答する。
俺は変態じゃない、俺は変態じゃない、俺は変態じゃ……うおっ。
確かにこれは驚く類の代物だった。
「もう、目を開けても……」
「待った、まだ目を開けちゃいけない」
成るほど、これは……きもひ。
ビニールの中にゴキが……正確には、ゴキブリのおもちゃが大量に詰められていた。どのくらいかって?近くにあるビニール袋を息でパンパンにしてみるといいさ……その中にいっぱいいるって思ってもらえばいい。しかも、どういうしかけかショックを与えると手足が動くのだ。
ショックを与えなければ当然動かない。しかし、薄暗い所でこんなことされたら誰だって間違えるだろう。
「どうやらおもちゃみたいだよ」
「おも……ちゃ?」
本物じゃなくてよかった。いや、マジで。
トップコートのつやありでフィニッシュしているようで、嫌な光沢感が出てる。リアルだ。
「うん、おもちゃ…にしたって、一体だれが…。心当たりある?」
「多分、お母さん」
「ん?」
ごきのおもちゃの間に白い紙が挟まっていた。
「……『紅葉へ、部屋でお菓子を食べたらちゃんと片付けないとこんな風になりますよ』だってさ」
「……お、お母さん」
怒りに震えているようだった
「秋口さん、怒る前に服を着たほうがいいよ」
「へ?」
自分が下着姿と言うのに気がついたようだった。そんな秋口さんにバスタオルをかける。
「はい、雨もやんだみたいだから俺は帰るよ」
「えと、う、うん」
叫ばれなくてよかった。
ちょっと放心状態の秋口さんを残して帰るのも気になったけれど、これ以上いてもどうしろと言うのだろうか。きっと、気まずくなるだけだ。
しかし、あのゴキブリが本物じゃなくて良かったなぁ……。
「しかし、あのおっぱいは超良かったなぁ……」
ぼそっと呟いた俺の上ではお天道様が再び輝いていた。




