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秋口紅葉:第四話 秋口の心

 秋口紅葉が夢川冬治の事を知ったのは一年前の事だ。

 その時、紅葉は二年で、冬治は一年生であった。

 ちょっとした病気になりそのせいで紅葉は留年したのだ。病気の時に紅葉は自分の人生がつまらない物だと考えたりもした。

「…あの頃はまだ、元気だったっけ」

 元気だったころに街を歩いていたら夢川冬治に出会った。その時、冬治は四季和也と一緒に遊んでいた。目があった気もする、相手はすぐにいなくなった。

 四季和也は紅葉にとって幼馴染である。和也は一年年下なのだが、お調子者の和也は彼女の事を敬ったりしていない。

 最初はあの子はどう言った子なのか四季の話を聞いてそれだけだった。ただの下級生と言う扱いだ。

 夏前には病気にかかり、それから結構な月日をベッドで過ごした。奇跡的に……というわけでもなく、紅葉は学園に復帰したのだ。

 結局、出席日数が足りずに留年となってしまったが。

 留年して少し経ち、他のクラスメートたちは『一歳年上』という条件のためか、話しかけてくれる人がいなかった。事務的な要件さえ放されることは無く、その一端を担ってしまったのが先生の気遣いである。先生が直接教えてくれたからだ。

 ある程度は覚悟していたので紅葉は勉強に打ち込む予定だった。

 そんな折、あの少年と再会したのである。運命を感じたこともあった。

「まさか友達になりたいとか言ってくるなんてなぁ…」

 からかうような口調で和也がやってきたときはほんの少しだけ驚いた。しかも、友達になりたいとか言って来る変わった人物を連れてきたのだ。

 その時、友達の居なかった(一つ上の同年代には居た)彼女はその願いでに心から感謝し、冬治と友達になったのである。

 以前の彼女は周りが見えない性分の人間だった。

 幼い頃はガキ大将みたいな存在であり、嫌がる友人等をどんどん引っ張るタイプだ。

 気付いたら彼女の近くには四季和也が残っていただけだったりする。

 ある日気がつくと二人きり……改めて友達を作るのが下手だと言う事に気がついた。

 もちろん、そんな過ちを二度と繰り返したくはない。紅葉は以前のような事をしたいとはもう思わない。

 冬治からしてみれば『見た目とは裏腹に積極的なタイプ』として映っている。まだ彼女はその事を知らない。

 これから冬治と和也が家にやってくる。部屋はしっかりと片付けており、お菓子の準備もしている。

 最近は、多分友人として見る事が出来ていないのかもしれない。もっと仲良くなりたい相手なんじゃないかとたまに思ったりもする。

 一緒に居すぎたのか、それとも寝顔に悪戯をした為か。

 この前の林間学校は和也の手引きで眠っている冬治たちの部屋に入り込んだ。そして、鼻にティッシュをつめて写真を撮ったり、ズボンをずり下げたりとちょっと行きすぎた事をしたものだ。

 問題は全く冬治が目を覚まさなかった事だった。二人で粘っても一切起きる様子も無く根をあげた和也の言葉でお開きとなった。

 帰ろうとした矢先、男子生徒達が先生に追い立てられて戻ってきたのだ。慌てて冬治の布団にもぐりこんで和也が素早く電気を消した。

 先生はなかなか部屋から離れてくれず、出て行ったのは三十分後だった。男子生徒はすっかりと寝入ってしまい、ベランダに行けば縄梯子で帰る事が出来たものの……彼女はそのままそこにいて、寝がえりをうった時に冬治に当たった。

「あ」

 そんな声が漏れてしまった。慌てて冬治の上にタオルケットをかけてその中に入り込む。眠っていたと思っていた男子生徒達は一斉に起き上がり、冬治と紅葉のタオルケットをはぐろうとした。

 どうなるか全く想像できなかったそのまま冬治に抱きついて目をつぶっていた。

 そんな時、幼馴染の声が聞こえてきた。

「ちょっとまてぇい。お前ら、お楽しみしているところを邪魔するなんて悪いだろう」

「……それもそうだな」

「……眠いし」

「どうせ、俺ら彼女いるし……あーあ、いちゃつきゃよかった」

 はやし立てることも無く、各々布団の中に戻って行ったのだ。

「ん~」

「……!」

 今度は声を押さえつけた。ただ、冬治が肩から脇にかけてがっちりとホールドしてきたのだ。

 冷房の音が聞こえるよりも、冬治の鼓動のほうが聞こえている。

 気にはなっていたものの異性として意識していたわけではない。もっと友達として仲良くなりたいと純粋に思っていた紅葉にとってこれはある意味酷い裏切りのようなものであった。

 もちろん、冬治の意思でやったことではないだろう。

 それからずっと冬治の寝顔を見続けた。

 冬治に彼女が出来れば、異性の友人と一緒にはあまり居られなくなる。友人を続けられる人もいるだろう、でも、紅葉には出来そうになかった。

「だったら……」

 これは私の物だとその印をつけておきたかった。今のところはそういった関係になるつもりはない、何かあった時のための…保険だ。

 それがどれだけ卑怯な事であろうと、これから先…紅葉の事を見てくれる人は現れないような気がしたのだ。

 ただそっと、唇に自分のそれを当てるだけのものだった。

 それでも、感覚なんて残っていないぐらいに心臓が暴れまわっていた。

 これほど幸福に成った事は無く、そのまま一気に眠りについてしまったのだった。

「普通だったら朝まで寝顔見てそうだけどなぁ……」

 疲れていたのだろう。

 自分の心が決まった今、友達以上ではなく、それより上の関係を目指さねばならない。

 こういう時に頼りになるのは四季和也である。でも、彼の力はあまり借りたくなかった。迷惑をかけたくないのもある。

 こうして、彼女の一人の戦いが始まろうとしていた。

 しかし、紅葉一人の頑張りでは到底攻略できない代物であったりもする。


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