秋口紅葉:第一話 隣のクラスの気になるあの子
気になる子がいる。
隣のクラスの子だ。
「……」
読書少女。髪は綺麗で黒くて長かった。しかし、第一印象は鬼火が飛んでそうな暗い雰囲気の子だったりする。
「あの子、友達いないんじゃないかな」
「え?どれ」
「どれとか言うなよ。あの子だ、あの子」
指差すのは失礼なので顎でしゃくってやった…これも大分失礼だな。そもそも、友達いないって言っちゃうのも失礼だ。
「ああ、あれね。チャラいだけの女だろ」
口を思い切り開けて笑っている女子生徒がいる。リンゴも入るんじゃないかなって言う大きさでギャル女だ。しかしながら、うちの学年の学力トップだりするから人は見た目に騙されてはいけない。
「だから、あれって言うな。間違ってる。そいつの後ろだ」
「相変わらずうまい具合にステルスしてるなぁ……忍者?」
「現代に忍者はいないだろ」
「じゃあサイバー忍者」
結局忍者なんだな。
「……相変わらず?」
「ああ、相変わらず。昔から今もってことね」
まぁ、だからと言ってどうするわけでもない。凝視している和也を引っ張って教室に戻ろうとすると虚無を掴んだ。
「あれ消えた……あいつ、何してんだ?」
四季は教室に入っていくと件の女子生徒と何やら話しているようだった。しかも、必死だ。告白でもしているんだろうか……。しかし、他のクラスメートたちは本当に気付いてなさそうだな。
「……あいつのあんな必死な顔、久しぶりに見た」
辺りを、正確にはこっちを見ながら二言、三言交わした。そして、二人とも立ち上がる。
「お、戻ってきた……か」
来たのはいいが、後ろに連れてきやがった。
背後霊みたい……。
「はい、連れてきたよ」
「誰が連れて来いって言ったんだ。俺は別に……」
「わかってる。おれに全部任せてくれ…じゃあ秋口紅葉ちゃんお願いします」
え、何これ。
混乱し始める脳を落ちつけと言い聞かせて、相手を改めてみる。
赤い眼鏡に、大人しそうな風貌、髪は肩まで、結構胸はでかそうだ。
「……秋口、紅葉です。あの、友達になって欲しいって言われて凄く、嬉しいです」
質問したい事が、その他いろいろ友人に聞きたいタイムが欲しかった。今は空気を読むのが先決だろう。別に友達になるくらいわけないってもんだ。
「俺は夢川冬治だ……えーっと、その、よろしくお願いします……でいいのか」
「いいのかって、うん、いいんじゃない。さ、これでめでたく友達が完成だ。秋口さん、敬語は要らないよ?」
「う、うん」
「じゃあ放課後は親睦を深めるために校門前へ集合ね」
「え、ああ…」
和也がウィンクをしてこっちを見てきた。やれやれ、この男は……。
「じゃ、私はもう行くから……」
「うん」
良くわからないまま別れ、自分のクラスへ。さて、早速友人に詰め寄ろうじゃないか。
「これは一体どういう事だ」
「どういう事って……こっちが聞きたい。そんな真剣そうな顔でみるなよ。男の面を拝みたいとは思わないからさ」
「同感だ……秋口さんの事を説明してくれ」
「おっと、これはいい傾向ですね。ぐへへへ」
ぺらぺらと何故か生徒手帳をめくり、読み始める。
「秋口紅葉。こうよう、ね。もみじって呼ばれる事が多いけどあの子はそれを嫌っているから気をつけてね。刺されるかも」
「そうか、気をつけよう…じゃなくて、だ。ちゃうねん。そんな事は後から自分で知るわい」
「うん、グッジョブだ」
「何であんな事をしたんだと聞いたんだ」
しばらく考えて和也は手を叩いた。
「オーケーオーケー。あんたは秋口さんが気になった。気になったら行動したほうがいい。別にやましい事をしたわけじゃあない。友達を一人作っただけさ。おれはただ手伝っただけ……そうだろう? 別に余計なことはしてないよ?」
「…まぁ、そう言われればそうだがな」
それ以上追及できる事も無く、俺は黙り込んでしまった。




