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東未奈美:第二話 運命の生徒会長選挙

 再びやってきた生徒会室、今度は迷子でやってきたわけではない。

 自分の意思でやってきたのだ。既に頭の中で着々と学園の地図は作られているからな。この学園、ふざけたことに蒼の鍵、紅の鍵、魔王城の地下倉庫の鍵を使わないと入れない部屋があるという噂と、間取り図のコピーを新聞部の人間に見せてもらった。仰々しいもので、一体何が部屋の中にあるのかは想像もしたくなかった。

「しかし、緊張するなぁ」

 俺は教室内に人が半分以上いる状態で中に入ろうというのが苦手だ。みんなの視線が嫌なんだよ。

 悩み始めて二十秒、体感的に三分間の時間が過ぎたところで肩を叩かれる。

 振り返るとそこには見た顔があった。

「また、迷子ですか?」

「違います」

「あの、恥ずかしがらなくてもいいんですよ。迷子は誰だって、経験があるものですから」

 背伸びする男の子に対して優しく話しかけるようにされても俺が困るだけだ。

「いや、本当に違いますから」

「じゃあどんな理由で来たのですか?」

 言外にはやっぱり迷子なのでしょうと含まれている気がした。

「えーっと、お礼を言いに来たんです」

「お礼ですか? 誰にでしょう」

「あなたに、です。俺、先輩以外の生徒会メンバーには感謝する理由がないと思います」

 東未奈美さんって若干天然はいってるよな。天然の人間扱いに困るから苦手なんだよなぁ。人間関係が嫌だいやだと言っていたら後に酷い目にあうのはお約束か。

 お前、何様だよって突っ込まれるかもしれないが。

「ああ、立候補を代行した事でお礼を言いに来てくれたんですね?」

「ほわい?」

 首をかしげるしかなかった。なんだい、それは。

「どういう事でしょうか、先輩」

「この前生徒会長が不在だと言う話をしましたね?」

「しました、聞きました」

 それはちゃんと覚えている。何せ、目の前の人物に出会った時の事だからなぁ。

「出たいと言っていましたよね?」

「……言いましたっけ」

 立候補代行って一体、どういうこったい。

「生徒会書記推薦候補、です。どうですか?」

「どうですかって」

「基本的には生徒会メンバーによる推薦または経験者の立候補でなければ当選しませんよ。冬治君は私の中で筆頭候補です」

 意外と、言うよりもやっぱり黒い裏面があるんだな。いやらしく笑う姿もさまになっているからこの人は手ごわそうだ。

「この書類に目を通してくださいね」

「えっ、っと…」

 手渡された書類とは言い難い冊子だった。

 五センチの厚みを感じられる冊子を軽く開けると『特権』と書かれたページのようだ。

「特権その一、食堂を二割で頂ける……だと」

「はいー」

 お金関係を絡めてくるとは思わなんだ。いいのかよ、学園。

「あとは資金流用を率先して行えます」

「ふむ、ふむふむ……あれ? でも会計係ってかっこしてある。何で?」

「それは会計がお金を支払いますし、握っていますから。経費担当も当然ここですよ」

 羽津学園生徒会、思ったよりもかなり、暗い所なんじゃないのか? てっきり、クリーンな場所かと思ったけれどそんなことはないのか。

「生徒会長選挙はすぐに始まりますよ」

「すぐにっていつですか」

「今日の放課後、わたしが代行として手をあげます。冬治君にはそこで挨拶をしてもらいます」

 俺は軽くうんざりした。そんな俺の状態に気づいた風も無く、うっとりとした表情で虚空を見ていた。

「最初に出会った時にピンと来たのです。あなたのようなひとを生徒会、そして生徒たちは欲しがっているのだと」

「はぁ、その、良ければそう思った理由を教えてくれると嬉しいんですけど」

「何でも言う事を聞いてくれそうですからね」

 にこりと微笑まれてふと思う。ああ、この人も黒い人なのだ、と。

「今の状況で敵となりうる相手は副生徒会長ですね。副生徒会長は副生徒会長として、あくまで独立した存在ですので生徒会長にはなれないのです」

「そうなんですか」

 それじゃ意外とうまくいかないんじゃないだろうか。

「ええ、不安に思う気持ちも当然ですね」

 逆境だろうが、彼女はいたって落ち着いていた。

「でも安心してください。副生徒会長が立候補させた相手に刺客を向かわせていますから」

「えーと、刺客?」

「はい。わたしたちと同程度まで力をそぎ落とすことが出来るでしょう」

 この人は俺が生徒会長に立候補しないと言ったらどんな顔をするのだろうか。

「あのー、俺には立候補する気なんてさらっさらないのですが」

 後頭部をがしがし書いて申し訳なさそうに言ってみた。

「ありがとうございます、この前のお礼が立候補という事なんですよね?」

「……えーと」

 人の良心を突いてくるとは酷い人もいたものだ。

「ここで俺が『それでも、それでも俺は出たくないっ』と言ったらどうなるのでしょう」

「どうもなりませんよ。ただ、ほんのちょっとだけ今後の学園生活に支障をきたすだけです」

「ほんのちょっと?」

「はいー。明日から学園に来たく無くなるような事が、起きます」

 起こすの間違いなんじゃないのか?占い師が『貴方は大吉です』と言った後、全力でサポートすれば百発百中に成るはずだ。

「どうでしょう、悪い事は言いませんからちょっとやってみませんか? 生徒のために、誰かのために生徒会で働いてみませんか?」

 その言葉には嘘が無いようだ。やり方はともかく、こうやって熱心に誘ってくれているのだからむげに断るのも悪い気がする。

「ふむー…」

「生徒会長、楽しいですよ」

「あの、以前の生徒会長は何で居ないんでしたっけ」

「過労による転校です」

 生徒会長という役職は過労で転校するほど過酷で険しい道なのだろうか。甚だ疑問が残るような話だ。

「二人で頑張りましょうね」

「……まぁ、東先輩がそうまでいうのなら頑張ってみますけどね。駄目でも、怒らないで下さい」

「怒りませんから」

 だよな。最近会ったばかりの人だけど、東先輩が怒っているところはいまいち想像できないな。

「ちょっと痛い目にあってもらうだけです」

 前言撤回。憂さ晴らししてくるのは間違いない。

 まぁ、あれだ。恩を受けたのは間違いないのだから、立候補する程度でお礼が出来るのならそれでいいだろう。

 確実に勝てるなんて要素があるわけではないのだ。ダメならダメで諦めるしかない。


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