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左野 初:第五話 彼女は相方!

「ぐ、偶然ね。部活今日休みだから一緒に帰ってあげてもいいわよ」

 夏休み開けてそんなことを左野初に言われた。

「偶然ってお前……ここ、二年の教室だぜ?」

 しかも、俺の教室だし。俺以外に知り合いがいるとは思えない。

「二年の教室に来る用事があったのよ」

「ほぉ、その用事ってなんだ」

「ま、真白先輩と一緒に帰るって用事よっ」

 そう言われたらどう答えていいか分からなくなるな。周りの生徒たちはさっきまで騒いでいたのに左野の発言で静まり返った。

「ああっ、あたしってば何言ってるんだろっ。偶然を装ったって事にしないとダメなのにっ」

 そして、言った本人も一度首をかしげて黙りこくった。心の声、だだもれすぎだろ。

「左野、お前さんがいつもそんな感じだったら超可愛い……かもしれないな」

 あざとい奴だと言おうとして辞めた。最近、変な連中に目をつけられたからな。あざといなんて言葉使ったら闇討ちされるかもしれない。

 いや、実際にラグビー部の近くを通ったらアーモンド形の何かがすさまじい勢いで俺の目の前を通過していったことがある。しかも、部員の連中はにこやかにすみませーんとか言っているし。

「それで、一緒に帰ってくれるの?」

「別にいいぜ? ところで、リッキーはどうした」

 セット販売みたいな相棒、リッキーはどこに行ったのだろうか。左野をフォロー、管理を担当している彼女がいなくてこいつはうまくやっていけるのか。

「リッキーは今日、部活だから」

 なるほど、水泳部は体育会系だからそう頻繁に休めそうにはないだろうな。

「おいおい、それならお前も部活だろ」

「ううん、大会があってる。リッキー、それに出てるの」

「友達なら応援しに行くのが友情ってもんだろ」

 そう言うと首を振られた。

「いや、無理。そもそも選ばれた人たちは学校休んでるし、それ以外はこなくていい、練習は必要ないって切り捨てられているからね」

 ここの学園の水泳部はすごいな。いつか落ちこぼれ組でチームを組んでぜひ上の連中に打ち勝ってもらいたい。

「そうか、大会なら大会だって最初から言えばいいのに。回りくどい」

「ま、回り道や寄り道が好きなのよっ。人生なんて死ぬまでの寄り道でしょっ」

 ほほぅ、小難しい話ではぐらかすつもりだな。そんな哲学じみた話は相手に気をつけないと下手すると怪しい宗教に入信させられちまうぜ?

「まずそもそも、人間はなぜ生きているのか」

「え」

「学校なら学校、仕事なら仕事で人間はなぜ生きているのかと言う大切な事を考えないようにしている。その日一日が忙しくなるから仕方のない話だ。それよりも勉強とか、成績とかに眼がいくからな。動物は生きることについて考えたりはしない……食べるために、そして子孫を残すために生きているだろう?」

「それは……そうでしょうよ」

 一生懸命俺の話を理解しようとしているところは可愛いな。

「人間にももちろん、食べる、子供を産むといったことが出来る」

「そうね」

「神様がいるかどうかはともかくとして、子を成すため、次の世代にバトンを移すために生きていると言う事にもなる。現在でも確率は低いながら子供を産み落とした母親が死ぬことだってあるんだ。命を生むのは命がけなんだよ」

「……」

 黙りこんだ左野に俺は続ける。

「神様がいるって言うのなら母親を助けてあげてもいいのかもしれない。人としての本質が子を成す事ならそれをクリアしているんだからな。神が完全無欠だと言うのならこの世に残した神に関係する本に人間が矛盾をつけるような内容は乗って居ないはずだし、人を作りだせるような存在お金を必要とするわけないだろう?」

「気持ちが大事なんじゃないの? それに、お金は人間が必要だし。あんた、宗教家なの?」

 その質問に俺は首を振った。

「いや、小難しい話で返そうとした左野に対してちょっと意地悪してやろうって思っただけだ。話を戻すが、群れる動物って言うのは支えが必要なものさ」

「支え?」

「そう、支えだ。困ったときにすがったり、ふと心の中に憧れのあの人が浮かんだりする時があるだろう?」

 心当たりがあるのか、左野の顔が心なしか赤くなった。

「あ、あんたはどうなのよ」

「俺? 俺は……そうだな、隣の席の優等生、妹みたいな幼馴染、隣のクラスの地味子、我儘な生徒会長、他多数が浮かぶなぁ」

 他多数に入るのは何だろう。とりあえず、全部女子だ。女の子はいい、俺の疲れた心を癒してくれる。

「浮かびすぎでしょ」

「でも、真っ先に浮かぶのは目の前に居る左野だな。ああ、またドジってそうだなぁって……ってな感じで心の支えになっているよ」

「あ、あんたねぇ」

「リッキーはまずお前の事が頭に浮かぶんじゃないのか」

「そう、かな。でも、リッキーあたし以外にも友達多いから」

 ちょっとへこんでいるようなので励ましてやろうと思った。知り合いがへこんでいたら慰めたくなるもんだ。

「俺だって、俺の事を一番先に思い浮かべてくれそうな人間なんていないだろうよ」

「それは違うわよ。少なくともあたしは、真っ先に頭に浮かべる」

 宣言してあたふたしている左野を見てため息をついた。

「お前さんがそんな風にいつも素直だったら、この世界はきっと平和だな」

「そ、そうとも思えないんだけど」

「いんや、人間信じる気持ちが大切だ。イワシの頭も拝めば魔王ぐらいになってくれる」

 タイミングが良かったのか、左野のケータイにメールが来たようだ。

「あっ、リッキーからだ」

 嬉しそうにケータイ電話をとりだして確認する左野。その顔が一気に明るくなった。

「リッキー、三位に入ったんだって!」

「そうか。すごいじゃないか」

「うんっ。やる気ないわーとか言いつついったから心配だったんだ」

 何その、テスト前で全然勉強してないわーってやつ。志の低い生徒に多そうだけど、体育会系だとあまり見ない気がするんだけど。

「これから打ち上げがあるから来るようにって書いてた!」

 嬉しそうにそう言って画面を見せてくれる左野に俺は苦笑するしかない。

「行ってこいよ」

「うんっ。真白先輩またねっ」

 機嫌が良くなると途端に可愛くなるもんだから女の子ってずるいよなぁ。本当は俺と一緒に帰ってくれるはずだったんだけど、あんな表情されたら一緒に帰ろうとはもう言えない。

「……男も機嫌が良くなると可愛くなるのか?」

 気持ちわりぃ話だな。


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