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気になるあの子の旗を立てろ:プロローグ

 一通の手紙が、下駄箱に入っていた。一人の学園生が不機嫌そうに掴む。封を開けた後、入口から冷たい風が入り込んでくるが、手紙が飛んでいく事もない。

「ふん」

 ピンクの皮を乱暴に破り、中から二つ折りの紙を取り出す。おちょくりか、幸せか……しかし、もらった事が無い人なら心が躍っていた事だろう。

 便せんにつづられている丁寧な文字は好意を匂わせる。それらを面白くなさそうに眺め、青年は唇の端をちょっとだけ動かした。

 後生、大事そうに懐に入れることはなく、興味を失った事を隠す事もなく丸めてゴミ箱へと放り投げた。

 だが、想いを無碍にされた手紙は最後の抵抗を見せる。お前の思惑通りにはいかないと言わんばかりに壁に当たり、ゴミ箱に入ることはなかった。

「ちっ」

 ゴミ屑に興味を持つ人間は居ないだろう。しかし、奇特な奴が居て、拾って読まれるのも癪である。青年は拾って手紙を破り捨てる。

 判別できないほどに千切り、叩きつけるようにしてゴミ袋へ入れると次は旧校舎へと向かう。



『放課後、旧校舎三階で待っています』



 書かれていた文面はたったそれだけ。

 丸っこい感じの字でいかにも女の子が書いた物のようだ。勿論、ちょっとした戯れの可能性もあるだろう。

 問題があるとすれば、受け取った青年がそのような悪戯を許すような人間ではないということぐらいか。身元を特定された場合、鉄拳制裁が待ち受けている事間違いなし。

「旧校舎か……」

 旧校舎は今のところ部活棟として機能しており、来年には取り壊される予定だ。

 校舎一階から旧校舎一階へ続く渡り廊下は風が吹きすさんでおり、聞こえてくる音は悲鳴のようだった。

 雪が降るかもしれない、青年は不機嫌そうな表情を崩す事もなく、マフラーをもうひと巻き首に巻いて歩き出す。

 今の時期、旧校舎を部活棟として使っているところは殆どない。

 火事を防ぐためと言う理由でストーブを設置していいのは一階だけなのだ。そのため、二階以上の教室は殆ど物置として使用されている。今では別の場所にちゃんとした部室が作られている事も重なって旧校舎を使用するのは物好きな部活だけと言われているのだ。

 青年も一時期使用していたものの、移動が面倒なのと別の理由があって来るのをやめた。旧校舎へやってくるのは約一年ぶりなのだ。

 だからと言って、道に迷う筈もない。隙間風のせいで外と温度が変わらない階段を上っていく。

「ん?」

 階段踊り場までやってきて、二階に物音がしたので誰かが残っているのかもしれない。

 指定された旧校舎三階へとやってきても、特に誰もいなかった。長い廊下は寒さで別世界に通じるように見え、窓の外には雪が降り始めている。

「…寒い」

 単なる紙吹雪になり果てたラブレターを誰が出したものか青年にはわからない。どの道、出てくれば辛辣な言葉をぶつけるつもりなのだ。

 自分を呼び出した事を後悔させるためだけに、彼はこの場へとやってきた。

「ちっ、窓が開いてやがる」

 開いている窓の淵に手をかけ、外を見やる。閉めなかったのはグラウンドから運動部の声が聞こえてきたのもあるし、雪を見ようとも思ったのだ。

 それは彼にとって致命的な選択となった。

 誰かが廊下を駆ける音がした。

「?」

 最初は衝撃だった。

 右腰に何かがぶつかり、鈍痛は次に熱を生み出した。



 刃物で刺された。



 そう気付いたのは振り向いた際に鳩尾に刃物が刺さった時だ。反撃しようとして、身体を構えようとすると刺された場所に痛みが走る。

「ぐっ」

 再度、同じ場所に刃が付きたてられてそのままよろけ、倒される。

 彼にとっては運が悪い事に、襲撃者にとっては運の良い事に後頭部を強打した。視界が上下に激しく揺れた。

「くそっ」

 相手の身体に伸ばした筈の手は空しく空を切った。

 新たな痛みとは別に今度は喉に刃物を突き立てられる。

「あ…くっ、げごっ…」

 言葉を発しようとして液体が飛び出た。

 流れ出した液体が地である事に気づくより早く、様々な場所を刺された。立つ事も動く事も、もはや彼に出来そうになかった。指先を動かそうとするだけで、痛み、きしみ、それより先にぬるい液体が肌を滑っていく。

 視界がゆっくりと右へと倒されて行く。

 赤の液体から湯気が出ているように見えた…そして、その向こうには女子生徒が履いているスリッパが見えた。

 身体はもう動かせそうにない。

 意識的に行えたのか、それとも反射か…視線だけがすらりと伸びた足から太股へ、スカートへと移動させていくところで、目が見えなくなった。

 まだ、生きてはいるのだろう。

 でも、助からないのは明白だ。

 誰にとっても望まないような結末だ。彼はこの学び屋へ入学してきたときには、それなりに希望を持っていたような気がする。願わくば、次があるのなら、回避したい事柄には違い無い。



――――――



「これじゃ、駄目だなぁ」

 少女はコーヒーに口をつけた。自室ならともかく、そこは自習中の教室だった。


ここから気になるあの子のフラグを立てろです。以前投稿した時はメイン以外はサブヒロインが必ず登場していて、実は分かれておらず一本道となっておりました。秋山実乃里が他の話にも登場して最後には冬治をさらっていくというそんなオチ。

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