闇雲八枝:気になるあの子は黒い人?
商店街でタイムセールが秘密裏に行われる。まるで主婦みたいな女子生徒の話を聞いた俺は暇だったアホを一人ひきつれて商店街へと向かっていた。
「ほら、行くぞ」
「え、梅雨じゃん。雨降るかもよ」
「今日は一日晴天だろ」
六月とはいえ、毎日雨が降っているわけでもない。
「何でおれが……」
「んだよ、この前相合傘をしたいから傘貸してくれーって言ったから貸してやったんだ。これで貸し借り無しにしてやるよ」
「男の荷物持ちは嫌だ」
「たまにはいいだろ、相棒」
「……相棒、悪くない響きだ」
全く、単純で扱いやすい奴だな。
「でもよ、傘の……」
「あー、うるさい、ほら行くぞ」
傘と見合わないだろうとぼやく友人と一緒に、日持ちしそうな食材を買っていく。うむ、噂に違わぬ安さだな。四十個限定の品物のためか、人が多い。
「家事ってそんなに大変なのかね」
おばちゃん達に揉まれながら、友人は呟いていた。
「まぁな。慣れればお前でも大丈夫だよ。意外と友人は器用だからな。夢ちゃんに習えばいい線行くと思うぜ」
おばちゃん達を押しのけて、俺も品物に手を伸ばす。横からかっさらおうとする人もいるから注意しないとな。
「ようは慣れだよ、慣れ」
「そうか? それじゃ、ちょっと挑戦してみようかな」
ぶたもおだてりゃ何とやら。
軽く友達を馬鹿にしてから商店街を抜ける。
「一人暮らしは楽ってわけじゃないんだな」
「まぁな。金があれば毎日外食とかカップラーメンとかでしのげるんじゃないのか?」
「うーん、おれには無理そうだ。夢の料理はうまいからな。あ、でも、彼女がいれば毎日作ってもらえるんじゃね?」
「おお、マジだ。そんでもって一人暮らしって事は彼女を連れ込んでも一切問題ないな。そうすりゃ、寂しくもないし」
「そうか、一人暮らしって意外と寂しいんだな。でも、寂しさを埋めるにはやっぱり彼女だ。しかし問題は……」
「……彼女が居ないって事だ」
男二人で寂しく肩を並べて歩く。
何という無駄な会話なのだろう。かもしれない、なんて実際に怒る可能性があるだけの話だ。
空想の話よりも、実際に起こった事を話題にあげたほうがまだ楽しい。
「この前相合傘して帰った女子生徒はあれからどうしたよ」
頭は悪いが、顔は結構いい方だと思う。だから、頭の悪さもフェイスでカバーできるはずだ。
「裸エプロンしてくれと頼んだら逃げられた」
しかし、頭の悪さは顔からにじみ出て……というよりは口から出てしまうらしい。
「何で逃げられたんだろうな。水玉が駄目だった……?」
「そりゃ逃げるわ」
こいつは本当に馬鹿だと思った。思っただけさ、言っちゃうと傷つくから心の中で思ってるだけ。
「あれ?」
もう少しでアパート、そう思っていると急に友人が辺りを見渡し始める。
それと同時に、サイレンが鳴り響いた。
「火事の匂いがする。こっちだ」
「あ、おい。野次馬して何になるんだ……家事の匂いって何だよ。将来は消防士にでも鳴るつもりかよ」
友人は荷物を持ったまま走っていく。仕方が無いのでその背中を追いかけ、俺はため息をついた。近所の犬が吠えはじめている。
俺の住んでいるアパートからほど近い場所で、ものすごくぼろいアパートが良く燃えていた。夕焼けも重なって、非常に赤い。俺と友人はその赤さに魅入られていた。
火がついて間もないためか、あまり野次馬はいなかった。しかし、一人髪の長い女性が地べたにお尻を着けて燃え盛るアパート見上げている。
「あれ、もしかして闇雲先生じゃね?」
「あ、本当だ」
友人と一緒に気づき、俺たち二人は先生へと近づく。消防隊が必死の消火活動を行っているので邪魔になるのは間違いない。
サイドテールの先生に近づいたが、何だか違う人のように見えた。
「あの、もしかして此処に住んでいたんですか?」
「え?」
俺たち二人を見て首をかしげ……俺をもう一度見た。
それまで目に力が入っていなかったが、彼女は眼の色を変えた。何というか、地獄で仏を見たような感じだった。
「そうよ。よく燃えてるわ」
さっきまでの抜け殻感は無くなっている。
「ここから冬治君の家って近いわよね?」
「あ、はい」
「ちょっと、そこで話をさせてもらえないかしら? 御覧の通り、家が燃えてしまったからね」
「はぁ、別にいいですけど」
火事に遭った事が無いので、詳しい事はわからない。しかし、この場所にいなくていいのだろうか?
その場所から離れる頃になってようやく野次馬が増え始めていた。
「先生、こっちですよ」
「あ、おい友人……ったく」
勝手に俺の住居であるおんぼろアパートに案内を始めた友人を追いかけ、先生達の後へと続くのであった。
俺の部屋へと二人を案内し、コーヒーを出す。
「あのー、何と言ったらいいか……」
「先生、災難でしたね」
俺の気遣いなんて考えもせず、友人は他人事のようにそんな事を言った。
「そうね、災難だったわ」
そして、思ったよりも明るい感じで先生も返した。それが少し、意外だった。
住む場所が燃えてしまって、人間というものはここまで平常心でいられるのだろうか? いや、まて、待つんだ、冬治。さっき俺達が現場に到着した時、先生はお尻をアスファルトにつけて見上げていたではないか。
きっと心の中では凄く、すごーく、ショックを受けているに違いないのだ。
「……というわけで、冬治君の協力が不可欠なの。どう?」
「え、あ、はい?」
話を全く聞いていなかった。
「おお、よかったですね、先生!」
「そうね。ありがとう」
「ん? あの、一体何の話を?」
ぼーっとしていたからか、先生達の話を聞き流してしまって曖昧に頷いたのが何だかまずかった気がする。。
「そこまで重要な話じゃないぜ。次の住居が住むまで先生、困るだろ?」
右手の人差し指をくるくる回し、友人は何やら自慢げだった。
「まぁ、困るだろうな」
「だから冬治の部屋に泊めてもらえばって提案した」
「ああ、そりゃ人のいい話だ……あ? 俺の部屋だって?」
俺の部屋は只今絶賛一人暮らしだ。
そこに女教師が住んじまうだと?
倫理的に大丈夫なのかよ。
「先生はそれでいいんですか?」
「別にいいけど? この場合、私の事じゃなくて冬治君の許可が必要じゃない?」
それは確かにそうだけどさ。もうちょっと恥じらうとか、ためらうとか、胸元を隠すような素振りとかをしてくれてもいいんじゃないのか?
「で、どうなの?」
「俺も別にいいですよ」
素性がわかっていない美少女というわけじゃない。宇宙とか、異次元とか、未来とか、異世界とか……ま、あってもこの程度だろうよ。
「そう、じゃあ交渉成立ね。短い間だけど、よろしく頼むわ」
いつもの闇雲先生っぽくないなぁと思いつつ、俺も頭を下げた。
「はぁ、お願いします」
友人もどこか抜けているところがあるからな。人のよさそうな顔で良かったよかったと呟いていた。
やれやれ、こんな感じで大丈夫なのかね。
先生は離れた場所に置いてある車の中から荷物を取ってくると言って出ていく。
「何か考えてるのかよ?」
友人に聞いてみるが、首をかしげている。
「は? 何の事だよ。困っている人が居たら助けてあげる、それが人の道ってもんだろう?」
「……友人の口からそんな言葉が出てくるとは全く思わなかったな」
頭の中が腐っているんじゃないだろうか。
「ほら、さっき商店街で似たような話してたろ?」
「何の話だ」
「彼女じゃないが、先生も一応女だ。そう言う事の期待は零だとしても、悪くはないし、冬治一人暮らしが寂しいって言ってたろ」
「……そうだったか?」
まだ始めて間もないからか、やっぱりお帰りと言ってくれる人がいると違うのはおもったけどな。
そんな情けない事を言っただろうかと自分で信じられなくなる。
ま、んなことはどうでもいいや。
それから先生は必要な物を買ってきて戻ってきた。俺が夕食の準備を始めていると、先生と友人は一緒にテレビを見て笑っている。
「……寂しいねぇ。確かに、言ったかもしれない」
友人と先生と一緒に晩御飯を食べ終え、友人を玄関まで見送る。先生は風呂に入ると言ってもういない。
「んじゃ、また明日な」
「ああ」
何か冷やかされるとか茶化されるとかも起こらず、友人は行ってしまった。いくら知っている相手とはいえ、プライベートは全くの未知数だ。
「ふー、お先―」
「……あ、はい?」
いつものかっちりとしたイメージが消えていた。
真面目そうな感じの先生が、何だか腹黒そうな人になった気がした。
「あの、先生?」
「あ、先生じゃないから」
「え?」
んじゃ、誰だ。
もしかしてこの人、先生のドッペルゲンガー? ドッペルゲンガーは本人が見たらやばいんだよな。俺が見ても大丈夫だよな?
「あの、闇雲先生のドッペルゲンガーですかね? 出身は異次元?」
「はぁ? んなわけないでしょ。双子よ双子、闇雲紗枝の双子の片割れよ」
あ、なるほどー……双子か。
普通に考えればドッペルゲンガーなんて言葉、出てこないよな。俺って普通の人間だと思っていたけれど、ちょっとおかしいのかもしれない。
「何、いきなり黙りこんでどうしたの?」
「何でもないです。あのー、それでさっきは何故、先生のふりをしたんですか」
当初から違和感を覚えていたので双子という言葉をすんなり受け入れることは出来た。
「円滑なコミュニケーションの一環」
「意味がわかりません」
「混乱を防ぐためよ。同じ人が二人も出てきたら誰だってびっくりするでしょ?」
「そらまぁ……でも双子って説明すればよかったんじゃないんですかね? 何も問題ない気がしますけど」
自分、ドッペルゲンガーですと言うよりはかなりの説得力を持っている。
「問題はあるわ」
自信たっぷりにそう言った。彼女は冷蔵庫からビールを取りだしてくる。
「ビール、飲んでる暇じゃないでしょ?」
「これはビールじゃないわ」
「は?」
「ったく、これだからガキは……いい、これはね……」
そういってビールとその他の違いを教え込まれた。
「わかった?」
「は、はぁ、まぁまぁ」
何だかそれだけで三十分ぐらい針が進んだ気がするぞ。
「じゃあ、次はビールの歴史を……」
「待ってください。双子である事の問題をですね……」
「ああ、そうだったわね」
忘れてたわと闇雲先生……ではなく、闇雲さんは頷いていた。
「まず、名前を教えてください」
「闇雲八枝」
「八枝さんですね」
「そーね。それで、問題があるって話だけど……端的に言うと冬治君の事を騙そうとしてたのね」
「はぁ? 騙されたと言えば、そうですけど」
名前を黙っていて、そのまま闇雲先生と思っていたので見事に騙されたわけだ。これが詐欺なら今頃お金を取られている。
「違う違う。そんな稚拙なものじゃないから」
「と、言うと?」
「冬治君を騙して赤ちゃん出来たとか言って億単位の金をせしめる計画」
それを詐欺だと人は言う。
「あの……本気で?」
相手の目を見やった。逸らす事のない瞳は、俺の視線を離さない。
「ええ」
悪びれもなくそう宣言された。しかし、疑問が当然生まれてくる。
「それ、本人に言っちゃったら駄目な類ではないですかね」
「そうなんだけどね……どうせ信用してくれないでしょ」
私が君ら二人の名前を知っていたのはその計画のためだけどねと言われた。まぁ、そこら辺はどうせ闇雲先生の方に聞いたんだろうと思うが。
「ま、確かに信じませんね」
「でしょ、それに冬治君にはこうやって部屋を貸してもらっているわけだし……面倒だけれど、友人君の方に他の人に広めないよう言っておいて。面倒なことになるからさ」
「あ、はい。でも闇雲紗枝先生の家に泊めてもらうわけにはいかないんですか?」
その方法が一番いい気がしてならない。俺が八枝さんだったら得体のしれない男子生徒の家に住もうとは思えなかった。
「喧嘩」
「え?」
「喧嘩してるの」
「……その歳で、ですか?」
「そうよ。大人になってからの喧嘩の方が実際に鉾を交えるわけじゃないから酷いもんなのよ」
言わば冷戦ね、そう言って八枝さんは首をすくめる。本当に喧嘩したのだろうか……怪しいものだ。
「くだらない話はここでおしまい」
「はぁ、そうですか」
「そうそう。終わり終わり。それで、私はどの部屋を使っていいの?」
「和室なら空いてますけど?」
「そう、じゃ、和室を使わせてもらうわ。今日は疲れたからもう寝る」
「あ、はい……」
八枝さんはそう言うと和室に引っ込んでしまった。
「……ま、いいか」
今から出て行ってくださいなんて言えるわけもない。
どうせ、この家に金目のものなんてないし、短い間と言っていたから別にいいだろう。
――――――
火事に遭った女性、闇雲八枝さんが何だかよくわからないうちに同居人となった。
まぁ、教師の双子だし身元は割れているようなもんだと堂々としていて、向こうも別に男子生徒との同居に対して何も思っちゃいないらしい。
恥ずかしい話、俺は一人暮らしがほんのちょっと、ほんのちょっとだぞ? 寂しいと思っていたのでいってらっしゃい、お帰り、と言った一人じゃできないやり取りも交わせると思っていた。
同居を初めて一週間、気付いた事が多々あった。
まず、八枝さんは起きるのが遅い。
俺が学園に行く時間になっても起きておらず、起きてくるのはどうやらお昼前である。いってらっしゃいと言ってもらったことはまだない。軽い感じのお帰りがあるのはいいけどさ。
あと、家事が全くできない。
料理は簡単なものならまだしも、四工程、いや、三工程挟むと面倒になるのかものすごく雑になる。皮をむかずに放り込んだり、洗わずに無洗米でないお米を炊飯にセットしようとするのだ。洗剤使用されるよりまだまし……か。
洗濯も似たり寄ったりである。もう、超適当だ。洗剤なんて勿体ないと言って小さじ一杯だし(スプーンで計ってた)、柔軟剤も使用しないし……その割にはごわごわのタオルは使いたくないとかごねるし。
ここまでくれば掃除が出来ないのもお分かりかと。
掃除をする前より、どことなく雑多な感じになっていた。その部屋を見て、八枝さんは言った。
「散らかすのは上手よ?」
「散らかす、という行為は最終工程の掃除をするまでです。家につくまでが遠足という言葉もありますから、散らかして掃除をするまでが散らかすという行為の一連の流れなんですよ。そもそも八枝さんは……」
「はぁ……うざ。あんたは私のお母さん? 違うでしょ」
「違いますよ」
「そうよね、あれが家事をしなかったせいで、こんな家事が駄目な人間になったんだから」
人の所為にするのは良くない事だ。
母親の話を出すと機嫌を悪くし(自分で言ったんじゃんか!)、テレビでお涙ちょうだいの家族物があるとこれまた機嫌が悪くなる。
「家族ってさ、所詮他人だよね」
「違うでしょ」
余程闇雲家の家族事情は複雑と見えるな。俺の家も再婚があってちょっと父親と馬があわないが、まぁ、思春期に良くある事だと俺は思っている。
「あの、八枝さん」
「何?」
「何で家族が嫌いなんですか?」
「……あまりいい思い出が無いからよ。私はね、お金しか信じてないの」
お金教の信者のようだ。
「お金さえあれば何でもできるわ。毎朝、昼前に起きて一日グータラして、家事は全部お手伝いにさせて、料理も当然ね。家賃も気にしなくていい……そんな生活を送りたいのよ」
「それはまぁ、お金、必要になりますね」
「そうでしょ? あ、そうそう、明日の放課後アイス買ってきてよ」
「はぁ、まぁ、いいですけどね」
お手伝いが身の回りの世話をしてくれて、昼前に起きて一日グータラか。
「……金持ちはそんな一日過ごしてなさそうだな」
日がな一日ごろごろして過ごせる人なんて、八枝さんぐらいじゃないのか?
次の日、朝のホームルーム前に友人と友達の七色虹が机に近づいてきた。
「よ、おはよう」
「おはよう。どうした?」
「いや、さ、あれから先生とはどんな感じかな―と」
「先生?」
七色は何の事かよくわかっていなかった。
「友人、ちょいと来てくれ。トイレに行こう」
「連れション?」
「七色も来るか?」
「遠慮しとくよ」
友人を連れ出して顔を近づける。
「あのな、完全に言うのを忘れてたが……や、じゃなかった。先生はあの事を周りに広めないようにって言ってたぞ」
「もち、そこは理解してるぜ」
親指を立ててくる友人にどうしてこういうときだけの見込みがいいのだろうと疑問を覚えてしまう。
「ま、何だ。平和に過ごせているようでそれでいいけど……男女の仲か?」
「いや、全然。一緒に過ごしていると幻滅すると言うか何と言うか、歳の離れた姉を、持った気分だ」
「そうか、そんなもんなのか」
「ああ」
信じられない事に、八枝さんはトイレに鍵をかけない人だった。
一度開けて、相手はびっくりもせずショーツを下ろしたまま新聞を読んでいた。新聞に隠されていたから良かったものの……更に、俺を一瞥して、また新聞に目を戻したのだ。
ま、そう言った事が何度も繰り返されて俺も慣れてしまった。これは実に悲しい事で、同年代の女子の事も女って本当はこんなものなのかと勝手に抱いていた幻想を打ち砕かされた気分である。
だからと言って、何かが変わるわけでもない。
教室に戻ってきて退屈そうな七色に近づく。
「あのさあのさ、今日、冬治君の家に行っちゃってもいいかな? 僕、ちょっと興味があるんだよね」
友人の方を見てみた。
よし、俺に任せろと言う頼もしい顔になった。
「友人……悪いが、そいつは無理だ」
「え、何で駄目なの? しかも、それを友人君が答えるの?」
「足の踏み場が無いんだよ」
なるほど、掃除だなんだとかこつけて延び延びにしてごまかす作戦だな。
「僕は別にゴミで散らかっていても気にしないけど?」
「いいや、違うんだ。冬治の家は一人暮らしだ」
「うん、知ってる」
男の一人暮らしはさも汚いんだ。そんな言い草である。
もうちょっと、助けてくれるにしても言いようがあるのでは? そう思っていた俺はまだ友人の事をよく知っていないらしい。
「エロ本が散らばっているんだ。足場のないくらいに」
「え……」
「うんう……いや、ねーよ」
今見てきたと言わんばかりの顔をして、友人は両手を広げる。
「冬治の家の本棚に仕舞いきれないエロ本は彼のお気に入りのページが見開いたまま床に転がっているんだよ」
「何で……そんな事を?」
「そりゃあ、決まっている。すぐにお気に入りのページを見るためだよ」
「冬治君、変態すぎ」
七色はもうちょっと、人を疑う事を覚えたほうがいい。
「本当は親戚の姉と一緒に生活しているからちょっとな。友達を誘いづらい状況だ」
「へぇ? そうなの?」
これまたあっさりと俺の言葉を信じてくれている。
「それじゃあ仕方がないね」
「ああ、もし姉が居なくなったのなら連絡するよ」
悪くはない嘘だよな。うん、とっさに出た割には凄いぞ、俺。
難なく七色をごまかした俺は平和をかみしめるのであった。
「ただいま」
「お帰り―」
ソファーに寝転がる八枝さんを一瞥し、俺は台所に立つ。
「晩飯、今日はどうしますか?」
「んー、おなか減ったからちょっと早い方がいいかも」
「六時?」
後三十分もない。出来る料理も限られてくる。
「それ早すぎ」
「じゃあ、七時前ぐらいですか」
「うん、そのぐらいでよろしく」
そう言ってソファーに寝転がってファッション雑誌を眺めている。
本当に怠惰な人だ。
「八枝さんって仕事しているんですか?」
コーヒーカップを持って立ちあがった八枝さんはちょっと怒っているようだった。
「あ、八枝さん足元……」
「してるよ。もう少ししたら……おっとっと」
俺の言葉に気づくことなく、彼女は足元に転がっていたアヒルのおもちゃ(俺が愛用しているお風呂のおもちゃ)をふんづけて前倒しになってきた。
一瞬、マンガでよくある年上のお姉さんとのちょっとエッチなイベントか? そう思ってしまった。
そう思ったのが、間違いだったようだ。
「ぐへらっ」
「あいたたた……」
端的に言うとあり得ない事が起こった。
その場で宙返りした八枝さん。そして、八枝さんを助けようとして顔を出した顎にまず一発蹴りが当たる。それから何故だか彼女の太股に挟まれてそのまま横倒しになったのだ。
「だ、大丈夫?」
「太股がマジで入ってやばいです。う、動かないでくださ……」
「とか何とか言っちゃって楽しんでる?」
この状態を楽しめる奴は毎日が楽しい奴に違いない。
マジで首をきめられちゃっている俺は身体此処に極まれりって状態だ。女性的な柔らかさを感じるよりも先に、大蛇に首を絞められている感じを受けた。
「……ふぐっ」
「あ、マジでやばい感じ?」
急いで八枝さんにどいてもらい、何とか生き延びる事が出来た。
「し、死ぬかと思った」
日常に潜む物の中で、最もあり得ないような死に方をするところだった。
「いやー、ごめんごめん。まさか、こうなるとは想像もしなかったからさ」
一息ついて、俺も考えてみる。
「確かに、考えようによってはラッキー?」
「そう、ラッキー。太股を味わうなんてそうそう無いでしょ?」
その味わうは間違いなく、どうだ、俺の技を味わったか……そんな感じの物だった。
――――――――
お金が大好きな八枝さんは、よく賭けごとを口にする。
「ここに二つの湯呑みがあります」
「はい」
「このどちらかに、お金が入っています」
茶色と、黒色の湯呑みだ。茶色が俺で、黒色が八枝さんのものである。これは珍しく八枝さんが自腹を切って俺に買ってくれたものなのだ。
「もし、外れたら百円もらうね」
「俺が当てたらどうなるんですか」
きっと勝負師ならばその倍ぐらいは出してくれるのだろう。少額と言えど、賭けは賭け。
「その時はうーん……ご褒美?」
「どのぐらいのご褒美ですか」
「……百円程度?」
「……」
百円程度のご褒美か。アホらし。
「ま、いいでしょう。やりますよ」
「お、いいねぇ……じゃあ賭け金の百円出して」
その言葉に俺は単純に驚いた。
「え、俺が出すんですか」
「勿論。だって、ゲームは参加する人がお金を出すでしょ? 見事手に入れたら百円は返ってくるし、ご褒美がもらえるんだからいいじゃない。お金が賭けられていたほうが燃えるわ」
本当だろうか? 俺はあまり燃えないんだが。
ここはまぁ、しょうがない。
俺は財布を取り出して百円を手渡した。
「どうぞ」
「どうも」
百円を受け取った八枝さんは普段見せないような俊敏な動きで百円玉を右手から左手へ、そしてそのまた逆へと何回か繰り返し、湯呑みに隠した。
「見えた?」
「全然……思ったより難しそうですね」
ちょろいかと思った百円のご褒美は遠のいたようだ。
「ま、素人に見破られていたらこの八枝さんの名前が泣くわ」
「たかが百円ですけど」
「甘いわよ。百円と言ったって価値は千差万別。子どもの頃の百円はこんな下らないゲームに出すものじゃなかったでしょ」
あんたが言いだした事でしょ。
そんな事はすぐに引っ込んだ。俺は黙って八枝さんの言葉を聞くことにしたのだ……何だか、いつもの八枝さんと違って見えたからかもしれない。
「品物のやり取りを円滑にするのが、お金。だから、人類最大の発明は間違いなく、お金。お金は人を幸せにしてくれる」
「……それで、人は争ったりしますけどね」
今の俺達の状況がそうだった。
たった百円を奪いあい、心理戦になっている。
しなやかな八枝さんの右手は黒い湯呑みを左へと動かした。
「そう。お金で人は争える……でもね、一人で争う事は出来ないの」
「そりゃまぁ、そうですよ。一人で争えるのならそれは鏡ぐらいじゃないですか」
インコや猫が鏡と闘う姿は実に和む。人間もたまにシャドーボクシングをするかもしれないから見ていて非常に和む……わけもないか。
「争いでもいいから、他者と絡みたい時もあるのよ」
「……俺と争いたいんですか」
「賭けをしたいのよ」
煮ても焼いても食えそうにない人だった。
「だから、私が教えてあげる。この黒い湯呑みの中に、冬治の百円は入っているわ」
挑戦的な目で俺を見てきた。
腹黒そうな瞳は、何を考えているのだろう。
「じゃあ、黒で」
「本当にそれでいいの?」
「え? はい」
八枝さんはゆっくりと黒い湯呑みをあげていく。
果たして、そこには百円玉が鈍く光っていた。
「俺の勝ちですね」
俺は百円玉に手を伸ばし、財布の中へと滑り込ませた。お帰り、俺の百円玉。
「そうね。あーあ、冬治は絶対に私を信じないって思ったのになぁ」
「酷いですね。八枝さんの事は信じてますよ」
「本当にぃ?」
「やだな、俺の事信じてないんですか」
爽やかに笑ってみせると、噴きだされる。
「似合わないわね」
「……大きなお世話ですよ。ところで」
俺はさっきから待っているある事を聞くことにした。
「百円のご褒美は?」
「覚えてたんだ」
「そりゃあ、覚えてますよ」
たかが百円、されど百円である。
百円のご褒美……ふむ、俺の事を旦那さまと呼んでくれる? それとも、自慢の手料理を食べさせてくれる?
「え、もう百円のご褒美はあげたでしょ」
「……は?」
一体何をもらったのでしょうか。
「あのー、何をくれたんですか」
「胸に手を当てて考えてみなさい」
そう言うと立派に育った胸を逸らして笑っていた。
「……え、触っていいんですか?」
百円のご褒美奮発しすぎだ。
「自分の胸に決まってるでしょ」
そう言って俺の額にでこぴんした。
「痛っ……そうっすよねー」
右手で実際に自分の右手に置いてみた。
「……ふむ、何ですかね。何をもらったのかさっぱり分からない」
「凄くいいお話を聞けたでしょ?」
「……」
鏡を見なくたってわかる。今の俺の顔は凄く不満顔だ。
「あ、綺麗なお姉さんとコミュニケーションも取れたねー」
「綺麗なお姉さんは認めますけどね」
それが百円の価値があるとは思えなかった。
「価値観なんてその場その場で変わるでしょ」
俺の考えなんてお見通しだ……多分、八枝さんはそう思っているに違いない。
「そうですね」
「うん、納得したのならよろしい」
一緒に生活していれば相手の考えも読めるようになってくるものだな。うん、最初はどうなるかと思ったけれど、順調に同居出来ているということか。
はて、順調に同居して……それからどうなるんだろうか。
――――――――
俺が学園に向かっている時間はあまり生徒を見かけることはない。
ものすごく登校時間が早いか、はたまたその逆か。基本的に見かける生徒はどれも運動部で文化系の生徒を見かけることはない。
「さ、行くわよ」
「ういー」
スーツに身を包んだ八枝さんも新鮮だな、とは全く思えない。闇雲紗枝先生が八枝さんの双子だからだろう。
一緒に歩くのにはばれるのではないかと、当初不安があった。しかし、堂々としていれば意外とばれないものらしい。
「じゃ、私はこっちに行くからね」
「はい。いってらっしゃい」
手を振り、別れた俺たちはこの時、誰かに見られていた事に気づいていなかった。
早めに学園についたとき、やるべきことは宿題ぐらいだ。
家でやると八枝さんが色々と邪魔をしてくるので、誰もいない教室でやるのが最適である。これでコーヒーでも飲みながらシャーペン回せていたら爽やかでいて知的なダンディーになれていたのにな。実に残念である。
「や、おはよう。冬治君」
「七色か。今日は早いな」
朝のさわやかな時間を喧騒が良く似合う七色がぶち壊しやがった。何か悪いものでも食べてしまったのか、非常にニヤニヤしているではないか。
「んだよ、何でニヤニヤしてるんだ」
「そりゃ、ニヤニヤするよ。冬治君、今日の朝誰と一緒に居たの?」
ちょっとばかりやっちまったかと思いつつ、平静を装って見せる。
「闇雲先生だよ」
「紗枝先生? 僕の目はごまかせないよ。あれは別の人だね」
友人が口を滑らしたのか? ともかく、今はこの場を乗り切らねばならない。
「じゃあ、何だって言うんだ。まさか、ドッペルゲンガーとでも言うのかよ」
「双子。それ以外に何が?」
普通に考えてみればそうだろう。
「さぁ、本当の事を話してよ」
七色に話しても大丈夫だろうか。紗枝先生の方に話が言ってややこしい事にならなけりゃいいんだが。
「で、どうなの?」
「うーん……」
「紗枝先生と一緒に見たからね、認めなよ」
「げ、紗枝先生と一緒に見てたのか」
「うん」
鳴る程、それならすぐさまばれる。何と無く、俺と八枝さんの同居生活に終わりが来るんじゃないのか……そう思えた。
「冬治君さ、難しい顔してどうしたの」
「……え? そうか?」
「考え込んでるみたいだねぇ。やっぱり、八枝さんって人の彼氏?」
「名前まで教えてもらったのか。俺は八枝さんの彼氏ではないけどな。紗枝先生は何か言ってたか?」
「え、うーん……」
七色が黙りこんだとき、放送機材の独特の音がスピーカーから流れてくる。
「放送?」
「みたいだね」
二人して声が流れてくるのを待つ。
『……ふぅ』
てっきり、俺への放送かと思えばそうでもなかった。
ためらうような素振りを感じた放送はそのまま機材のスイッチがオフにされた事でまた学園の朝が戻ってきただけだった。
「何だったんだろうね、今の放送……何と無く想像はつくけどさ」
「……俺には想像つかないけどな」
徐々に生徒の登校数が増えていき、俺と七色は別の友達と話を始めた。
朝のホームルームが始まり、ボーっとしながら前の席を眺める。クラスメートの後頭部の先、そこには俺の同居人によく似た女性が立って話をしている。
八枝さんと一緒に住んでいて、面倒だと感じた事が多かった。しかし、それでも俺は八枝さんと一緒にいれたらいいなぁ……。
「矢光君?」
「あ、はい」
「ホームルームが終わったらちょっと職員室へ来てね。じゃ、解散」
軽く想像がついてしまった俺はため息をつきそうになるのをこらえ、立ちあがった。
「何かしたのかよ」
「超がつくほど優等生の俺がするわけないだろ」
友人にそう返すと友人は笑っていた。
「はは、お前が優等生ならおれはハーレム男子だよ」
俺が超優等生になるよりあり得ねぇよ。そう思いながら俺は教室を後にするのだった。
職員室までの道すがら、誰かに会う事もなかった……ただ一人を除いては。
「闇雲先生?」
「場所変更。屋上に行きましょうか」
「はぁ、まぁ、いいですけど」
職員室で話すよりも屋上で話したほうが楽しいから、そんな変な理由でもあるまい。
単純に誰かに聞かれたらまずい話なのだろう。
屋上の扉を開けてすぐ、先生は言った。
「どういう関係?」
「どうとは? あと、誰の事を?」
「とぼけるのは勝手だけれど、矢光君のためにはならないわよ」
俺は親指で自分の顎を撫で、嘆息した。
「……特にこれと言った関係でもありませんよ」
「嘘。一緒に生活するなんて信じられない」
少しむきになった様子だった。
「騙されてるわ」
「騙す? 八枝さんが俺をですか」
「ええ」
気色ばんだ先生を不思議に思ってしまう。確かに、俺は八枝さんに騙されている節が無くもない。
「八枝さんの事が心配なら先生が一緒に住めばいいんじゃないですかね? 双子なのでしょう?」
「……それは、そうだけど。無理よ」
「無理? 何かあったんですか」
「喧嘩しているもの……ちょっと前にね」
「ふーん?」
喧嘩の内容を聞こうとして辞めた。少なくとも、先生に聞くのは憚られる。そこまで先生と親しい間柄ではない。生徒の悩みを教師が聞くのならまだわかるが、教師の悩みを生徒が聞くなんてあまり聞かない話だ。
「金目のものとか、気を付けたほうがいいわよ」
「大丈夫ですよ。八枝さんはそんなことしません」
「ああ、そうなの。だったらもう何も言わないわ」
先生はそれだけ言うと屋上から去ってしまう。一体、何がしたかったのだろうか。
今一つ消化不良が否めない状態で、その日一日を過ごした。
「ただいまー」
そして、家に帰ってきた俺は驚いた。
家財道具一式が無くなっていて、八枝さんの姿が消えていたのである。
家財道具一式どころか、備え付けのはずである靴箱すら姿を消している。
「泥棒?」
まず、真っ先に思った事がそれだった。今日は八枝さんがおらず……と、考えたところで先ほどの闇雲先生の言葉を思い出す。
「金目のものとか、気を付けたほうがいいわよ」
家財道具一式が金目のものかどうかは定かではない。何せ、八枝さんは家事をしないからな。彼女にとって必要なものなのかどうかわからない。
「……ま、ともかく他に盗まれたものが無いかどうかチェックしないとな」
犯人の想像がついていれば、そんなに頭にくるものでもないのだろうか。
俺は自室に戻って更に驚いた。
「びっくりするほど何もないな」
一度部屋を見にやって来た時の状態。つまり、何もないのだ。
そもそも、俺の部屋に置かれていたものなんて簡単な勉強机と本棚、こたつと箪笥、布団ぐらいである。
「……エロ本を持ってきてなくて良かったかもしれない」
持ってきていれば八枝さんに見られていた事になるからな。うん、やはり現地で買おうと考えていたのは良かったようだ。
「次は和室だな」
和室を開けてみた。
其処にはそれまでと変わらない、八枝さんの部屋があったのだ。
布団や簡単な丸テーブル、ファッション誌が並んだ本棚はしっかりと残されている。
「ふーむ、奇妙だ」
電子レンジの中に無防備に卵を放り込んでそのままゆで卵が出来ちゃうぐらい、奇妙だ。
他の部屋を見回ってみても、結果はダイニング、俺の部屋と同じで物が無くなっていた。変わらず其処にあるものは八枝さんの部屋だけである。
一体何がしたかったのか、理解に苦しむところはあった。
「ま、今度会った時に聞けばいいかな」
こんな楽観視が出来るのも八枝さんと一緒に生活していたからだ。あの人は悪そうに見えて、実は違う……と、思いたい。
実家に今日のうちに帰れない距離ではない為、生活には困らないだろう。腹も減ってきたし、何もない部屋で待っているのも何だか捨てられた男みたいで嫌である。
少し考えて、俺はご飯を食べに外へ出る。
「あ」
玄関の扉を開けると、八枝さんが立っていた。
スーツ姿で、小奇麗な格好だった。そうしていると普段のだらけた雰囲気なんて一切なく、やり手の詐欺師に見える。
「八枝さん、自分の部屋の分、忘れてますよ」
俺がそう言うと八枝さんはあーと、うなった後、言った。
「変な奴。盗まれたって思わなかったの?」
「ええ」
「やっぱり、変な人ね」
「八枝さんには言われたくないです。それで、どうしたんですか。遅かったじゃないですか」
「道に迷ってた」
「道に? またですか」
「新居にお引っ越しだからね」
「はー、なるほど……」
そこで首をかしげる。
「新居?」
「そう。お金が手に入ってね。冬治もさ、来るでしょ?」
「どこに?」
「あたしの部屋」
八枝さんは俺と目を合わせずに手で髪を梳きながら言った。
「照れてるんですかね」
「どっちが」
「八枝さんが、ですよ」
「……あるわけないじゃない。それで、どっち? 来るの? 来ないの?」
口元がにやけるのをこらえ、言った。
「そりゃ、行きますよ。行くにきまっているじゃないですか」
「それは何故?」
まさかそんな事を聞かれるとは思いもしなかった。答えを用意しているわけでもない為、一瞬言葉を飲み込んだ。
「俺はまだ八枝さんと一緒に生活したいんです。八枝さんがこの部屋にいた同じ時間だけでもいいんで、俺を置いてくれませんか」
自分で変な事を言っているのは承知している。俺はこの部屋にいるのが当然だし、八枝さんが一体どこに引っ越すことになっているのかわかっていない。
先行き不透明で、確固たる気持ちがあるわけでもないのに自分から諸手を挙げて霧の中へと突っ込んでいるようなものである。
「じゃ、来なさい」
「わかりました」
あっちについたらどうやってその大金とやらが溜まったのか、聞いてみようと思う。
「運転する?」
「免許なんてもっちゃいませんよ……あ、自転車ぐらいはできますけど」
軽自動車の屋根を軽く撫で、そのまま助手席へと入りこむ。
「部屋の鍵はかけたの?」
「大丈夫です……八枝さんこそ部屋から家具を持って来なくていいんですか?」
そう言うと八枝さんはわらっていた。
「たまにはこっちに戻ってきたいから」
「八枝さんの部屋以外、何も道具はないっすけどね」
「いーのよ、あっちで生活すんだから」
俺と八枝さんの関係はこれから変わるんだろうか?
アクセルを踏み込んだ八枝さんの横顔を見て思う事は一つだ。
「無事にあっちにつきますように」
シートに押し付けられる感覚にため息をつく暇もなく、俺と八枝さんは新たな一歩を踏み出したのだった。
「俺、思えば八枝さんの事全然知りませんね」
「そう? 大体知ってると思うけど? ま、こっちはばっちり知っているから安心しなさい」
知っているって何の事をだろう……俺の事?
少しぐらい、自惚れたっていいだろう。俺は隣にいる同居人の荒っぽい運転に軽くため息をつくのだった。
前回より大幅な時間を開けて完成した代物が個人的には全く持って……(略)……そして次に始める予定がこれまた難所であるちょっとおかしな話。元は気になるあの子と死亡フラグで投稿予定のものでした。が、死とか軽々しく使うもんじゃないなと言うことで気になるあの子のフラグをたてろ? にしたような気がします。オリジナルのほうでは普段やっているばらばら……と思わせて、実は一本道だったというオチで〆ました。冬治のアクセス数はやはりというか、メインヒロインだった人物が(誰とは言いませんが)ぶっちぎりで多かった気がします。そして、一番悪かったのは居ても居なくてもいいようなキャラに成り下がってしまった人ですね。予定としてはメインヒロインにはさらに頑張ってもらうとして、駄目な水泳部員と年上の先輩にはさらに頑張ってもらう予定です。投稿はいつになるのやら……。




