只野夢編:第五話 あの子の夢は何なのか?
二学期になって初日、すぐにやってくる文化祭に向けて、やる気零のクラスがあった。
「じゃあ、適当に。くじ引きします」
「はーい」
なにを隠そう、我がクラスだ。
文化祭に行う事をくじ引きする……その人をくじ引きで決定するのだ。
「赤が出た人は前に出てきてくださいねー」
三十人以上のクラスで赤が一つだ。
俺が窓際最後尾なので、必然的に引くのは最後だ。赤を引きたくないのなら、かなり有利な立場にいると言える。
しかし、不思議な事に赤は全く出ず、前の席に座っている人が紙を取り出してもまっさらな紙が出てきてしまった。
「はーい、出なかったので矢光君が代表者です。拍手―」
「面倒な奴引いたらゆるさねー」
「超簡単な奴希望だ」
「休憩所希望」
好きかって言う奴に中指立てて、前に出る。避けては通れぬ学園のイベントだと言うのに、どんだけやる気が無いんだよ。
指先に触れる紙の感触を確かめながら、ふと、これだと思う物を感じた。
「っしゃ、これだ!」
箱の中に手を突っ込んでいたが、一つの紙を取り出す。
開いた紙に目を落とし、さぁ、おばけやしきかコスプレ喫茶かと文字を認識する。
「……清掃ボランティア?」
「ああ、私が書いたものね」
紙に書いた人が教壇に立ち、内容を説明するのだ。
今回は先生が書いたものだったようでそのまま説明を開始する。
「私達のクラスは後者に対して日ごろの感謝を込め、当日掃除を行います」
「あのー……文化祭なのでは?」
清掃ボランティアなんて聞いた事もないよ。
「ええ、そうです。二日間行われる文化祭に対し、私たちの出番はありません。つまり、楽しむ側に周ります」
なにもしないと言う事だろうか?
歩いていて、ゴミを見つけたらゴミ箱に放り込むと言った簡単なものなのかもしれない。
そう思った奴らもいたようで、楽でいいかもしれない、それでいいと話を始める。
「静かに! まだ話は終わっていませんよ」
闇雲先生はここからが重要だとばかりにクラスを見渡した。
「文化祭が終わった後の清掃活動、これに対し、他のクラスへ宣伝します」
「宣伝?」
「ええ、クラスの担当区域を二千円で請け負うのよ」
先生の言葉に対し、今度は不満が噴きでてきたらしい。
「それ無理じゃないでしょうか。クラスが二千円も払いますかね?」
「一人当たり五十円ずつ徴収していけば一クラス四十人前後いるんだもの余裕よ」
まぁ、五十円ぐらいだして掃除の二時間を合法的にさぼれるのなら払うかもしれない。
「集めたお金はどうするんですか?」
「強者がもらうわ」
「強者?」
「そう、最高額四万円はさらにこのクラスの中で争われるの。妥当なところはじゃんけんかしらね。道具を使うものだと不正を働く子が出てくるだろうし、今度のテストの成績でも得手不得手があるから」
この案はどうかしらとクラスを見渡す。
最高額で四万か……いや、しかして、どう考えてもこれは友情崩壊の匂いがぷんぷんするぞ。
このまま流れて清掃ボランティアになるかと思われたその時、誰かが立ちあがる音が聞こえてくる。
「そんなの、おかしいですよ!」
ここで学級委員の馬水さんが誰の耳にも届くような声で、そう言ったのだ。
「なにが?」
「四万円でこの馬鹿みたいに拾い学園を二時間で清掃する……時間が足りませんし、割にあっていません。四万円をかけたじゃんけんに勝ってたとしても、クラスメートに恨まれます」
馬水さんの言葉を受け、他のクラスメートも頷く人達が出てきていた。
しかし、お金にがめつい連中はその意見に反対を始める。
ちょうど五分五分だろうか? 友人と七色の方を何と無く見てみた。
「四万あればエッチな本が買い放題だな」
全く、相変わらず頭の中はピンク色らしい。
「……負ければタダ働きかぁ。嫌だな……」
七色の困った表情を見るとどうやら反対意見のようだ。
「……友達を夜道で襲うのは気が引けるけど、仕方がないよね」
そんなことはなかった。
もし、四万円を手に入れたら気をつけておこうと思う。
なんとはなしに、一番近くにいる闇雲先生を見るとぶつくさ言っている。
「ふふふ、最後に学園側にばれたと嘯いて、私が回収する……完璧だわ」
担任側の企みを聞いて、その話に乗っかるわけも行かない。
「じゃ、多数決をとるわよー」
闇雲先生の言葉にクラスメートは頷く。
結果、お金に目がくらんだ側が一票多く投じたらしい。
「やったな!」
「ああ!」
今は友達だが……後で真剣にやり合うのだ。
そして、裏で手を引いている闇雲先生がほくそ笑んだように見えた。
――――――――
「お金は人を変えてしまう」
やるべきことはたった一つだ。
くじ引きが行われる前にクラスの士気を挙げ、文化祭の出し物を決定させるのだ。
さて、それでは一体何がいいのだろう。
「うーむ……っと、そろそろ学園に行かないといけないな」
いつものように学園へ向かう準備を終え、葉奈ちゃんの背中を見送る。
「今日は夢ちゃんがお弁当を作ってきてくれるらしいから楽しみだ」
夏休み前の話になるが、お弁当を渡したお返しがしたいと言ってきたのだ。
特段、何かする必要性もなかったのでいつもより少し早くに家を出た。
「お、おはようございますっす!」
「あ、おはよう」
玄関を開けたら人差し指を伸ばそうとしている夢ちゃんと鉢合わせした。
「今チャイムを押そうと思っていたところっす」
「そうなんだ。それならいいタイミングだったね」
「っす!」
夢ちゃんと一緒に学園に向かう途中でも、つい学園祭の事を考えてしまう。
「考え事っすか?」
「ん? まぁね」
「あの……夏祭りの約束の事っすか?」
少し顔を赤くした夢ちゃんに言われ、俺は頬を掻いてしまう。
彼女はいないと言った俺に対し、『じゃ、じゃあ、候補にしてほしいっす』と言ってきたのだ。
あれから、夢ちゃんとの距離は縮まったような気がするし、それまで後輩としか見ていなかった夢ちゃんを意識してしまう事もしばしばある。
こうやって一緒に歩いているだけで、浮ついた気分になるのだ。高揚と落ちつき、相反する感情が俺にひっきりなしに襲ってくる時がある。
「先輩?」
「あ、ううん、悪いけど違うんだ」
「そ、そうっすか……それで、どんな事を考えていたんすか?」
「学園祭の出し物だよ」
俺の言葉に夢ちゃんは思案顔になった。
「冬治先輩がまとめ役っすか?」
「あー……いや、違うんだけどね。やる気が無いから、どうにかしないと思ってさ」
「相変わらず考えているんすね」
結局、夢ちゃんと一緒に登校していたらいつの間にか学園祭ではなく、別の話に変わっていた。
午前中の授業もノートの書き込み、理解しづらい所が多かった為、必然的に文化祭の事は頭の中から追い出されてしまった。
お昼休みになり、お弁当を持って立ちあがる。
「冬治君、一緒に食べないの?」
「先約があるんだよ」
「あ、そっか。そうだったね」
「お前最近そればっかりだなー。女でも出来たのかよ」
下卑た笑いを浮かべる友人に、七色と俺は可哀想な気分になった。
「あ? 二人とも何で変な顔をしてるんだ?」
「気にしないでくれ」
二人に文化祭の話をしたかったものの、今は夢ちゃんが優先だ。
待たせるわけにもいかないので、屋上へと向かう。
「あ、先輩」
「ごめん、お待たせ」
二人で未だ熱されたアスファルトを避け、日陰に座る。
「ど、どーぞっす」
「ありがとう。じゃ、早速開けるね」
夢ちゃんからお弁当箱を渡され、中身を開けた。
たこさんウィンナーに卵焼き、鶏のから揚げ、スパゲティがはいっている。ご飯にはぴんくのでんぶがハートを形成している。
嬉しくもあり、恥ずかしくもある。
「ど、どうっすかね」
渡した本人も恥ずかしいのか、俺をしっかりと見ているわけでもない。
「伝わっているっすか?」
「う、うん」
ここまでして、ちゃんと気持ちを伝えてもらっていないのだ。
多分、俺が夢ちゃんに伝えるべきなのだろう。
待ってもらっているのは間違いないな。
勿論、律儀に……気持ちに応える必要はない。ゆっくり考えて、結論を出せばいい。なぁに、焦ることはないさ。
「こほん、食べようか」
「はいっす」
恋人のように寄り添うわけもなし、俺と夢ちゃんは普通にお昼を楽しんだ。
「冬治先輩が文化祭の話をしていたじゃないっすか?」
「ああ、うん。まだ決まっていないんだよね」
「料理コンテストなんてどうかと思うんすよ」
「料理コンテスト?」
ミスコンはどこかのクラスがやると言っていた気がする。
「そうっす。事前申請してもらった人から必要な素材を聞いて、買っておくっす。当日作ってもらって、審査するっす」
「ふーん? でもさ、食材の費用はどうするの?」
「そこは審査員からもらうっすよ。審査員は教室にやってきた人たち。ま、入場料……いや、これは審査員になる権利もプラスっすね。当然、食べられるのは審査員だけっす」
足りるだろうか? 高めに設定するか? それだと、相当な腕じゃなければ食べないだろうし……うーむ。
まぁ、そこはあれだな。エプロンでも着用させて撮りたい人がいるだろうから撮ってもらおう。そっちで高い値段をふっかけるかな。
「けどさ、参加してくれる人はどうする? 参加する人にも文化祭で何かしらの出番や役どころがあるかもしれないしさ」
聞いてばかりの俺に、夢ちゃんは詰まることなく応えてくれた。
「一日かかりっきりになるわけじゃないっすから、そこは大丈夫だと思うっすよ。それに、生徒だけではなく、教師にも頼み込むっす」
「なるほどね」
先生のエプロン姿か……ところで、闇雲先生って料理できるんだろうか。
「うん、これならいけそうだよ。人が集まらなかったら……適当にゲテモノ料理が食べられる場所にしよう」
○○の液体に○○の素揚げをぶちこんだ○○汁とかな(あまりにショッキングな食材? の為自主規制)。
「この案が先輩達のクラスで通ったら、自分に教えてほしいっす」
「わかった。今日の帰りのホームルームで聞いてみるよ」
今か今かと待ち続けた帰りのホームルーム。そこで俺は、夢ちゃんの考えついた言葉をそっくりそのまま……というわけではないが、伝えることにした。料理コンテストにしてみてはどうかとみんなに提案してみたのだ。
反対意見は零だった。
「いいんじゃね」
「面倒なことは全部矢光がやるんだろ?」
まぁ、そうなるか。
中には参加したそうな女子生徒も数人おり、特に料理が下手な七色が燃えていたりする。
「冬治君、このコンテストは勿論、クラスの人も参加していいんだよね?」
「あ、ああ……七色、お前さんは出るつもりなのか?」
「もちろんだよ! 馬水さんとの特訓の末、料理のスキルはあがったんだ」
本当だろうか?」
馬水さんへ視線を向けると、食べられるぐらいは、と困った表情を浮かべている。
「未知数……でいいと思うよ」
明日から文化祭へ向けて走り出すことになり、その日、俺は夢ちゃんと帰路についた。
「夢ちゃんの言っていた料理コンテスト、うまく通ったよ」
無事にクラスに通った事を告げると、夢ちゃんは俺の手をとっていうのだった。
「自分もそのコンテストに名乗り出るっす」
「え?」
「料理には自信、あるっす!」
思うところがあるらしい。
出場を拒む理由もないので、夢ちゃんが他クラス最初の出場者となったのだった。




