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土谷真登:第七話 もはや不良ではない

 生徒会総選挙立候補者挨拶演説が本日行われる。

 言うまでもなく生徒会長はこの学園に在校する学園生のトップだ。

 人気があるかと聞かれればそうでもなく……年度によって全然違うらしい。

「あたいが生徒会長に立候補した土谷真登だ。とりあえず名前書いていれとけ!」

 校門前で早速名前を売り始めていたりする。

「身から出たさびってやつか」

「あたいのことを知らないやつも当然、いるだろうからな。土谷真登だー。よーく、覚えとけーっ」

 土谷陣営参謀兼服生徒会長立候補者矢光冬治……すげぇ長い肩書きもらっちゃったよ。

「ほら、次は矢光の番だろ」

「はぁ……しょうがない」

 頑強になった蜜柑箱の上に立ち、俺は拡声器を握り直す。

「はじめまして。矢光冬治です。この度服生徒会長に立候補いたしました。私はこの学園に転校してきてまだ半年もたっていませんが……よりこの学園の事を知るために生徒会に入りたいと思う所存です」

 生徒会長立候補者は職員室にいって立候補届を出さなくてはならない。

 ぽかをやるつもりはなく、昨日俺と土谷はその紙を提出してきたのだ。

 土谷の事を知っていて、被害に遭っていた生徒もぽかーんとみている。

「今日はこれで終わりだ!」

 予鈴が鳴りだしたところで土谷は大人しくお立ち台から降りて片づけの準備をする。

 その様子を遅刻しそうになって走ってやってきていた生徒が物珍しげに見ていた。

「あ?」

「ひっ!」

 そして、視線に敏感な土谷はすぐさまその男子生徒を睨みつけた。

 そのまま近づき、強引に握手した。

「土谷真登だ。生徒会長に立候補する! 票、入れろよ!」

「あ、は、はひっ」

 近くで見ていた教師は少しひやっとしたのかほっと胸をなでおろしていた。

 二人で教室に向かうと概ね情報は広がっているようだ。

「おー、ごくろー」

「おはよー」

 友人と七色が手を振ってくれた。

「土谷真登だ! 覚えとけ!」

「いや、みんなクラスメートだから知ってるって」

「む、知らない奴がいるかもしれねぇだろ。あたいはあまりこいつらと話した事が無いからな」

 土谷の話にクラスメートたちはしばし考え、頷いた。

「全くだな」

「最近は怖くなくなったからなぁ」

「挨拶ぐらいは出来るようになったし」

 昔は有無を言わさず殴られたものだと呟く男子生徒もいた。

 そして、それから朝のHRが始まった。

「昼前に講堂で生徒会選挙の話があるから立候補者は行くように。あと、五十名以上の推薦があったらちゃんと選挙に出るんだぞ」

 この学園は推薦者五十名以上集めれば他薦でも選挙に出る必要があるらしい。

 いつだったか、部活の待遇に不満を持った元野球部の生徒会長が決めた事だそうだ。

 生徒会に部の誰か(この場合部のマネージャーが生徒会を兼任する事が多いそうだ)を送り込めば部費の配分を増やせると画策したとのことである。ちなみに枠は一名だ。

 他にも、教師推薦やらクラス推薦、スポーツ推薦に実績推薦、エリート推薦に人柄推薦と推薦は結構数があるそうだ。

 この学園、大丈夫かなぁ……そんな心配をしていると生徒会総選挙の挨拶演説が行われる時間帯になった。

 クラスメート全員で講堂に移動すると既に埋まっていた。

 少々、緊張してきた。

「これより、立候補者の挨拶を始めたいと思います」

 視界の言葉に俺はステージに上がっている立候補者を見る。

「一人かよ……」

 まぁ、何と言うか……俺はてっきり土谷の事が嫌いで対立するイケメン系生徒会長が出てくるとばっかり考えていた。

「今回の立候補者は一名です」

 結果は一人……誰もあの土谷と張り合いたくはないようで(不満が無いわけではない)、立候補していたひょろっとした男子生徒は立候補を取り下げたそうだ。

 立候補者が一人と言っても、必ず生徒会長になれるわけでもない。信任票が不信任票より下なら当然落選だ。

 その場合は空位のまま生徒会が運営される。

「はい、では立候補者の土谷真登さん。挨拶をお願いします」

「ああ」

 司会者の生徒に名前を呼ばれ、土谷は壇上に立った。

 威風堂々……一年生の方から『土谷くたばれー』と叫んでいる声が聞こえてくる。

 俺の妹の声にそっくりだったけれど、気のせいだろう。

「あー、こほん」

 挨拶の紙は既に渡しているし、リハーサルも何度もしてきた。長くなく、短くもなく……変な言葉も入れていない。

「あたいは土谷真登だ! この広い学園の中じゃ知らない生徒もいるだろう!」

 そんなことはねーよと生徒、そして教師の声が聞こえてきそうだ。

 ま、とにもかくにもここまでは順調だな。

 俺は自分の挨拶文章を頭の中で思いだしていた。



「……あたいは生徒会長になりたい! だが、あたいは一度戦ってみたい相手がいるんだ! だからそいつを推薦する!」



「は?」

 予想だにしなかった事なので俺は土谷を見ていた。

 粗野で乱暴でガサツな土谷がそんな事を言いだしたのだ。

 生徒側もざわつきはじめる。

「矢光冬治だ! あたいの言葉に賛同した奴、手を挙げろ!」

 いや、待てよ。

 お前が戦いたいのに賛同するって……どういうことだってばよ。

 俺が首をひねっている間に『矢光?』『ああ、あれだろ。土谷を抑え込んだ奴だよ』『すげぇ、おれはそいつに託すよ!』そんな言葉が聞こえてきた。それにつられてか、徐々に手が挙がり始めた。

「えーと、ひぃ、ふぅ、み……」

 司会者も数を数え、五十人を突破したところで辞めた。

「はい、では決定しました。他薦で対立候補が矢光冬治さんですね。おっと、こちらの矢光さんは副生徒会長立候補者……矢光さんが譲っていた結果になるかと思いきやまさかの展開ですね! 司会者のわたくし、驚きを隠せません!」

 一番驚いているのは俺だよよ。

「それでは矢光冬治さん。壇上で挨拶をお願いします」

 ここまできたらしょうがないな。

 俺はため息をつく事もなく壇上へ向かう。

「えー……他薦された矢光冬治です。皆さん、ありがとうございます。本来は生徒会長を支える副生徒会長に立候補するつもりでした。が、辞退するわけにもいきませんので精一杯やらせていただきます」

 ま、こんなもんだろう。

 そしてその後、教室に戻ってお昼休みとなった。

「土谷」

 当然、俺は土谷の真意がわからないので呼びとめる必要が出てくる。

「何だよ」

「なに考えてるんだよ。あのままいけばすんなり生徒会長に当選しただろ」

「何だか不正みたいでいやだ」

「はぁ? 別に不正も何も……」

「ともかく、あたいはお前と敵同士だ。選挙でお前に勝てばあたいは実力で生徒会長になった……そうだろ?」

 言いたいことはなんとなくわかった。

 正々堂々と戦いたいのね……これまで一方的に俺を殴っていたから一方的に勝つのが嫌なのだろうか?

 しかし……面倒なことになったぞ。

 生徒会長立候補者の下には支援者代表が要るのだ。別にこれは立候補者が自力でやっていい。

 スケジュールやその他(どこで演説するか、ポスターは何枚刷って、どこに貼るのかなど)の計画を教師側に提出する必要がある。

 そして、時間管理やちょっとした司会もやる必要があるのだ。

 勿論、生徒会長として立候補した土谷の支援者代表は俺の名前が書いてある。

「敵の支援をしつつ、他薦された限りは……頑張らないと駄目だよな」

 どうせ、土谷がどんなに頑張っても俺には勝てない気がしてきた。

 元が元だからな。最近は静かになったとはいえ……イライラした時が問題だ。

 なぁに、まだ時間はあるので俺の方は後回しにしよう。ポスターも準備できてるし……土谷を優先だ。


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