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葉奈:第三話 頼れるお友達

 家族になった相手とどのくらいで仲良くなれるのだろう?

 母親が再婚する二週間前にいきなり見知らぬおっさんを教えられ、いきなり妹が出来た。

 それから一人暮らしを始めようとしたらその妹がついてきて……一緒に住む事になった。

 ヤンキーだと思っていた相手は思っていたよりも聞きわけが良く(お弁当に気にいらないものが入って居たら残すが)、喧嘩になった事もない。

 当初は当惑していたものの、戸惑っていたのは最初の一週間ぐらいだ。

 三週間経った今、アパートの一室の前で葉奈ちゃんを見たとき想像もできない程、『兄妹』になっていた。

「兄さんおはよう」

「おはよう」

 二の腕辺りまで伸ばした茶髪を揺らし、眠たそうに眼をこする……まるで子供みたいだな。

 これだけだったら可愛いもんだけどさ。

 目つきが悪く、だらしない格好なのがちょっと残念だ。

 年頃の娘さんと同居することになってちょっとばかり不安もあった……何せヤンキーだし、ラッキースケベ的な何かがあったなら『んだとゴラァ』と物騒な擬音と共に家の外に放り出される事間違いなし。

 たとえ仲良くなったとしても親しき仲にもなんとやら……相手のプライベートゾーンは侵してはならんのである。

 一緒に朝食を摂りながらテレビを見るのは日課になっていた。

「うっわ、こいつぜってぇヅラだヅラ。兄さん見てくれよ」

「ん? ああ、このニュースキャスターか……だろうなぁ」

 今の二人の関係はイソギンチャクとクマノミ辺りだろう。

 ん? 共生関係ってお互いに利益があるんだったか?

「今の俺って……お世話係か?」

「兄さんどうかした?」

「あ、いや……何でもない」

 いやいや、さすがにそれは無いでしょう。

 義務教育が終わった女の子だ……世話をしているわけないじゃないか。

 自分が普段やっている家事を思い出せばいい。

「葉奈ちゃんハンカチ持った?」

「持った」

「ティッシュも大丈夫?」

「うん」

「櫛で髪の毛といてないよ」

「時間ないし、面倒。兄さんやる?」

「しょうがないな。ほら、こっちに来て」

「うんっ」

「よし、じゃあ行こうか。いってきまーす」

「ってきまーす」

 うん、朝はこんな感じだ。

 あとやる事と言えば朝食を準備し、お弁当を二人分準備して、皿を洗う。洗濯機に洗濯ものを放り込んで干す。

 お昼は学園に居るから特に問題は無いな。休日だって買い物して料理するだけだし。

 夕方帰ってきたら買い物に行って、洗濯物を取り込んで、お風呂を掃除して夕飯を作って……。

 以上の理由で俺は帰宅部だ。

「何気に家庭的な男子だともてるよって友人が言ってたけどもてねぇな」

 家事が得意と言うわけでもないから困ったものだ。

 最近は葉奈ちゃんの料理の好みもわかってきたし、腕も若干は上がった気がする。しかし、洗濯物初日でブラを掴んで動揺してしまった。

「思いの外、小さかったしなぁ……」

 笑っている葉奈ちゃんの胸部へと視線を向ける。

 うむ、あれだ、俺が変な気を起こさないのも葉奈ちゃんのおかげだと肝に免じておこう。

 学園にやってきた俺はぼーっとしながら授業を受ける。

 その間に考えていることは俺の置かれている立場だ。

「うーん、やっぱりこれじゃお世話係だよな。葉奈ちゃんには洗濯物を畳むって家事を頼んでいるけど、他にもしてもらった方がいいよな。一緒に暮らしているんだし」

 最近では葉奈ちゃんの笑顔をみるために料理をしているもんだ。

 お昼のお弁当をつっつきながら言葉を出したために目ざとい友達二人ににやけられてしまった。

「ききましたかぁ、奥様!」

「んまっ、葉奈ちゃんですって!」

「義妹が出来て憂鬱だと仰られていたあの冬治君が……変われば変わるものざまぁす」

「そう言っていられるのも数カ月でしょうねぇ」

「んだとこらぁ! 喰らえ、アリクイの威嚇ポーズ!」

 立ち上がってアリクイの威嚇するポーズを取ったら他のクラスメートに写メ撮られて恥ずかしかった。

「赤くなるならしないほうがいいんじゃないの?」

「男って言うのはわかっていながら敢えてしなくちゃいけない事があるんだ。あー……それでだな、妹の扱いが難しくてよ」

「ほぅ、妹の扱い?」

「ああ」

 友達である只野友人と、七色虹はすぐさま仲良くなれた人物だ。

 只野友人はアホで、七色のほうは僕っ娘である。

 友人に妹がいるのでお兄ちゃん歴の長い人物からの話は……多分、為になっていると思う。

「妹の扱いねぇ、友人は妹居るからわかるよね?」

「まーな。基本、放置だけどよ」

「放置? やっぱり家事とかしないのか」

「そう、放置。家事はぜーんぶ、妹任せ。勝手にやってくれるから超居心地いいぜ?」

「実はその事で友人に相談しようと思っていたんだがなぁ……」

「お、そうか。話に聞いていた分には家事はあり得ないっぽいなと思ったけどさ、そういうのはするんだな。よかったじゃねぇか」

「そうじゃねーよ」

 俺の言葉に友人は首をかしげ、七色の方は気付いたらしい。

「なるほどね。冬治君が苦労するわけだ」

「七色はどう思う?」

 こりゃ、お兄ちゃん歴とか関係ないな。

 まだ常識人である七色に聞いたほうが役に立つだろう。

「どっちかがSならもう片方は反対になるしかないよ」

「……俺がMになれと?」

「え、冬治はMなのか?」

「違う違う。S極とN極の話だよ。つまるところ、何もしないのは……それで環境的には何ら問題ないんだよ。大抵の人間がそうであるように、現状不満が無ければ何もしないのと一緒。友人君」

「ん?」

 七色は人差し指を立てた。

「今は実家暮らしだよね?」

「そうだよ」

「家事は妹さんとお母さんがやってる?」

「ああ」

「じゃあさ、友人君が一人暮らしをし始めたら誰がやるの?」

「そりゃあ……俺だろ」

 というわけさ……七色はそう言いたそうに首をすくめる。

「俺になにもするなと?」

「それは駄目だよ。喧嘩になっちゃう。最初はちょっとお皿を運んでほしいとか、洗濯物を畳んでほしいとかいいんじゃないの」

「あ、それは言ってる」

 そしてちゃんと葉奈ちゃんも応えてくれている。

「うんうん、いい事だよ。何より、そういう細かなところまで考えられるようになったのは冬治君が前向きに妹さんの存在を認識している何よりの証拠だね」

「どういう事だよ?」

 俺より先に友人が首をかしげていた。

「友人君のところは話したりしている?」

「うんにゃ。何と無く生意気だからな。あまり話したりはしない気がする」

「ま、兄妹というよりはライバルなのかもしれないね。あまり歳が離れていると話すらしなくなる家庭もあるしねぇ。そういうのはとても、寂しいと思う。ほら、隣のクラスの中山君の家がそうだよ」

「なるほど」

 中山の兄貴がこの前、若手の社長としてテレビに出ていた。十歳離れているそうだ。

 半年で勢い良く伸びていき、話題にもなって友人、七色に引っ張られて俺も彼を見に行き、話を聞いた。

「あんまり話したことなくて……良くわからないよ」

 彼の言葉は嘘を感じさせないどこか他人を思わせるものだった。

 でも、家族だから鼻が高いだろと誰かが言った時の返しがその場を静かにさせた。

「逆に迷惑かな。僕ってぱっとしないでしょ? それで、お前の兄ちゃんは凄いなって言われるだけ……家族は僕に何も期待してないからね」

 その時の事を思い出したのか、友人は何やら考え込んでいた。

「黙りこんでどうしたよ?」

「……俺、家に帰ってたまには家事でもしようかな―と」

「いきなりどうしたんだ」

「うーむ、ほら、俺が大成した時に妹がそう言う目に会うのは嫌だしなぁ……」

 それはねーよと俺と七色は友人を見る。そもそも、友人のところは一歳しか歳違わないって言ってただろ。

「まぁ、あれじゃない? 逆に妹さんの方が有名になって私にはクズの兄貴がいますーってね」

「ああ、そりゃすげー世間から叩かれそうだな」

「なっ……失礼な奴らだな。俺が成功した時は悪友がいなければもっと頑張れたって言ってやるよ」

 その言葉にため息をつくしかないね。

 そういう人間がうまく行くわけもない。

「冬治君の方はお互いに慣れてきているみたいだし……もうちょっと仕事を頼んでもいいんじゃないの?」

「拒否られて冬治が凹んだら?」

「僕は大丈夫だと思うよ」

 そうだろうか? まぁ、俺がやるべき事だろう。

 予鈴が鳴り、七色が席に戻っていく。

「なぁ、冬治」

「ん?」

「七色の家は大変だからああいう……なんつーの? 家族の大切さがわかってるのかね」

 母親が不在で、父親は帰りが遅い。弟が二人いるそうだ。

 女の子だからという理由ではないだろうが……料理をするのは年長である七色の仕事である。

 ただまぁ、家庭科で食べた事があるが……非常に、料理がまずい。

 料理がまずいのは関係ないな。うん、家族の大切さをあの子は知っているのだ。

「おれ、今日家に帰ったら母ちゃんの手伝いしようと思う。あと、妹ともちゃんと話そうかな」

「俺も葉奈ちゃんともう一回家事について話してみるわ」

 第二回、矢光家事会議を行ったほうがいいのだろう。


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