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馬水雫:最終話 恋人+α

 気付けば二学期期末。寒いと思ったらもう冬だ。

「んなわけない」

「ばたばたしてたからなぁ」

 運動会とか練習一週間の強行スケジュールだったぜ。信じられるだろうか、一週間のうちに捜索ダンス、パネルの練習、演舞の練習をやらなきゃいけなかったのだ。そして、文化祭は『これと思える文化作品を一つ作る事』が参加条件だった。

 参加条件と言いつつ、強制参加なのは日本の悪いところだとつくづく思うね。人気投票があって一位に輝いたらそれなりにいい事があるとのことだった。優勝をしたのは怪しげなところで陰謀があったと糾弾、挙句に仲間割れが起こって優勝賞品の食堂半年分無料券は無効となった。

 俺にとって近い事と言えばやはり、雫さんの事だろう。

 葉奈ちゃんと仲良くなれたのかはともかく、会ったら挨拶ぐらいはするようになったそうだ。

「冬治君あーん」

「あーん」

「おいしい?」

「当然だよ」

 いちゃいちゃ出来るのは実にいい事だと心底思うね。平和でなければこんな事が出来るわけが無い。

 期末テスト前だからこんな事をするより手っ取り早く昼飯を胃袋に詰めこみ、脳みそに英単語を叩きこまなきゃならんのだが。

「勝者の余裕かよ」

「ぺっ、おっちね」

 当然、そんな批判も受けてしまう。雫さんはしっかりと勉強のプランを立てているそうだ。

 彼氏の俺は……プランを立てているものの……あれだ、ノープランってやつだ。超危うい。

 普段は二週間前から範囲を復習し始める為、それなりにエンジンがかかり、頑張れる。今回はどこかエンジンがかかってはいないのだ。

 ぶっちゃけ、雫と付き合いだしてからこっち……成績ずたぼろりー……。

「超だるい」

「はっ、彼女といちゃついているお前におれが負けるはずが無い」

 友人は一生懸命頑張っている。超理系彼女を手に入れるのだか何だか騒いでいたのを思い出した。

「そっか、お前は彼女を作るためにテストをがんばるのか」

「ちげぇから。モチベーションあげる要素が無いとやってられねぇだろ。敷かれたレールがあるなら諸手を挙げて乗り込むね」

 将来を努力する必要が無く、なおかつ約束されているのなら勉強なんて誰もしないだろう。

 勉強が趣味と言う人はともかくとして、一般の人なら宝くじで一等が毎回当たっていれば努力して働く気は失せるはずだ。

「ああ、あれだよ。今度のテストで満足できなかったら彼女と別れちゃえばいいんだよ」

 七色が突拍子もなくそんな事を言いだした。

「それ名案じゃね? 冬治、せいぜいがんばれよ」

「何勝手に決めてんの。あり得ないだろ」

 しっかし、どうやったらモチベーション上がるかね。

 勉強は誰かのためにやってるんじゃなくて、自分のためにやっているのはわかるけどね、やっぱり何かご褒美が欲しいわけよ。

「おいおい、冷静に考えてみろよ」

「何をだよ」

「三十分でクリアしたら豪華賞品がもらえるのと、三十分でクリアできなかったら爆発するのはどちらの方がやる気が出る?」

 おそらく、後者だろう。前者だと惜しかったと思ってそれっきりだ。後者は、後が無い。

 しかし、おそらくそれは他人に強要されなければ参加しない代物だ。

 何せ、リスクしかないからな。得るものは一切ない。

 この日はそんな日が来るわけないだろうと思っていた。

「ふぁー……だるい」

「……冬治君」

 俺の事を雫が心配そうに見つめているだけだった。



「え、今度のテストで平均点を下回ったら……別れるだって?」



 次の日、雫さんにそう言われた。

「あんたねぇ」

 偶然居合わせた葉奈ちゃんが目を血走らせながら、胸倉をつかもうとする。その手は別の人間に捕まえられる。

「まぁまぁ、葉奈ちゃん。君のお兄ちゃんは実にすばらしい人物だ」

「ちっ、友人かよ。ま、うちの兄さんはすばらしいけどよ」

 先輩に対して、呼び捨て上等らしい。

「友人め、何か吹き込みやがったな。雫に何言いやがった」

 睨みつけると素知らぬ顔で友人は単語帳を取り出した。

「おいおい、冬治ってば友達を疑ってるぜ?」

「僕らは何も吹き込んでないよ。ねー」

 脇から七色が湧いて出てきた。

 くそ、証拠が無いし……本当、辟易するわ。

「さぁ、これで冬治君のやる気マックスだ。これでも嫌だと言うのなら、馬水さんのことを好きじゃない、そうなるね」

「ぐぎぎ……」

 してやったりの連中に歯ぎしりするしかない。

 勿論、この場に雫はいるのでどういう事なのか視線を送る。

「頑張ってね冬治君っ」

 そういって、両手を掴まれる。

「冬治君なら、出来るよ。私は……冬治君が目的を達成できるのなら、何だってしてあげられる」

「雫……わかってる。俺、頑張るよっ。頑張るともっ。平均点数以上なんて超楽勝だよっ」

「今の言葉、聞きましたか奥様方っ」

 男ばっかりのクラスをぐるりと見渡して友人がそういった。

「ええ、聞きましたわ」

「本当に舐められたもんざます」

「ここに、文化祭で紛失したと思われた食堂の半年分無料券がある。欲しけりゃ、このクラスの平均点数をあげることだっ」

「いいかい、これは遊びじゃないんだ。僕と、冬治君達の維持のぶつかり合い……友情は捨てるんだ!」

「おー、やってやるぜっ!」

 唖然とする俺と葉奈ちゃんにクラスは一気に活気づいた。

「冬治君……敢えてハードル上げる真似してごめんね。でも、頑張って!」

「ああ、見ててくれよ」

「お、お兄さん……大丈夫?」

 不安そうな葉奈ちゃんに肩に手を置いて笑う。

「大丈夫さ。俺は葉奈ちゃんの兄で、あの雫の恋人だ。こんな連中に負けるわけないだろ」

 お尻に火がついた俺を舐めてもらっちゃ困る。

 俺の事を尊敬してくれる妹、そして、俺の事を愛してくれている恋人の前で約束したのだ。

 問題を一問ずつずらすなんてアホなことはやらず、平均点を俺が上げてやった。

「なんだ、やればできるじゃん」

「愛なんて成長してからでいいだろ。もっと勉強すりゃいい」

 七色には肩を乱暴に叩かれ、友人にはそう言われた。

「雫と同じ大学に行きたいんだろ? だったら、もっと頑張れよ。」

「あ、ああ……」

 まだ何かしら言われると思っていただけに意外だった。

「冬治君。次のテストは私と勝負だよ?」

 そして、俺の目の前に恋人が立ちはだかった。

 ま、大丈夫だろう。けだるい感じは消えたし、今の俺なら何とかなるさ。


はい、というわけで『気になるあの子は~かもしれない』の馬水雫編でした。けっこう、加筆されています。おもに葉奈の存在と、悪友二人の出番が増えたと言ったところでしょうか。土谷真登とは表裏見たいな関係で、あっちはあっちでめちゃくちゃな話だったかなーと……。しかし、またもや登場した七色虹をどうするからこれから考えないといけませんね。うん、どうしよう。次回はたぶん、葉奈編ですかね。

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