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馬水雫:第三話 下手なごまかし?

 心の底からあの子のことを愛すると言ったらおかしいか?

 まだ成人しているわけではないし、友達づきあいの延長みたいな感じかもしれない。

 それでもま、生まれて初めて家族じゃない相手を愛したと言っていい。

「じゃあね、雫さん」

「うん、冬治君もまた明日」

 交差点で別れて手を振る。

 俺が背を向けても、雫さんは手を振ってくれているので急いで帰らなくてはお互い手を振って時間が過ぎてしまう。

 それがまたいいんだけどさ。

「あれ? 冬治君じゃん」

「七色か。こんなところで何してんだ?」

 交差点を少し歩いていると七色が脇道から出てきた。

「買い物だよ」

「ああ、今日はお前が料理担当なのか」

「そうそう。人数が多いってわけじゃないんだけどさ、やっぱり夕飯作るのって面倒だよねー」

 七色の作る料理はまずい。

 材料の投入がいい加減、思いつきで調味料を放り込む、火加減を気にしない……課題は既に家庭科の実習で嫌というほどわかっている。

 被害に遭うのは俺と、友人、後は本人だ。

 それでも、健気に頑張っているところを見ると応援してやりたくなる。まずいと言っても、徐々に改善がみられるからまだいい方だろう。

 友人はこれに輪をかけて料理が出来ない。目玉焼きの作り方を聞いたら電子レンジに入れてちんすりゃいいんだろと言っていた。冗談だと、思いたい。

「冬治君も今帰り?」

「ああ、そうだよ」

「そっか、じゃ、僕は帰るよ」

 重そうに袋を持ち上げる七色を放っておくほど、俺も鬼じゃない。

「またこの前みたいに手伝おうか?」

「え? いいのー?」

「おう、いつも七色にはお世話になっているからな。俺もそんなにうまいってわけでもないが……七色よりはまだ上手だよ」

「お願いするよ」

「任せとけ」

 七色にはノートや、買い食いでお金を借りたりしている。

 お金を返そうとすると友達だから気にしなくていいと頑として受け取らないのだ。それに、結構気が利くタイプで俺と友人が喧嘩をしてもその仲裁に入ってくれる。

 こういうとき以外に返せる部分が無いんだよ。

 違う大学に入ったらそれっきりになったりするって親戚の兄ちゃんが言っていたし、困った時はお互い様だな。

「今日は何を作るつもりなんだ?」

「煮魚」

「そうか」

「作れる?」

「何とかな」

 まぁ、そんなこんなで俺は七色宅で夕飯を準備したのであった。

 この話だけだったら友達を助けてあげた、で終わっていた。

 次の日、雫さんが戸惑いながら俺のところへとやってきたりする。

「あの……さ、昨日冬治君と別れたよね?」

「え? 別れた……」

 仲がいいと思っていたのは俺だけで、実は既に……友達関係に逆戻りしていたのか。

「あれ? 冬治君?」

「……嘘、別れたの、俺達?」

 自分の声とは思えない、かすれた声が口から出てきた。

 近くで話していた友人がこちらの様子を窺い、ガッツポーズを作っていた。

「ううん! 違うよっ! そういう意味じゃないよっ。道で! 道で別れた後の事だよっ」

「あ、ああ……なんだそっちかぁ……驚いちゃったよ」

 こっちの方が驚いたよという顔をされる。そりゃそうだ。

「えーっと、七色さんに会ってなかった?」

「え? あ、あー……うん、会ったよ?」

「そっか。何で?」

 何でか……これは母親が居なくなっている七色の家の事情だからなぁ……簡単に言っていい問題なのかな。

 七色の事だし、雫さんに話しても何でもなさそうにしているだろう。

 でも、やはり俺が言う事じゃない気もする。

「言えないんだ?」

 黙っていた俺を責めるような目で雫さんが見てくる。

「そう言うわけじゃない。七色の家の問題なんだよ。友達とは言え、他人の俺が言っていい事じゃないと思う」

「それなのに、どうして他人の冬治君が?」

「俺は……」

 答えに窮したところで七色……ではなく、友人が口を挟んできた。

「それはね、馬水さん。七色の家には母親がいないんだ。挙句、七色は料理が壊滅的で酷いんだよ。それに比べて、冬治は料理がそこそこうまいし、日ごろお世話になっている」

「おい、友人っ」

 静観していたくせに、俺が黙りこんだら会話に入ってきた。俺を見て、ウィンクなんてしてやがる。

「大丈夫、許可は取ってあるって。まぁ、そう言う理由で冬治は料理が下手な七色をただ助けてあげているんだよ。何ら、やましい気持ちは持っちゃいないんだ。わかった?」

 そういって馬水さんの方を見ている。

「そうなんだ……ごめんね、冬治君」

「あ、いや…いいんだよ。俺もはっきり言わなかったのが悪いんだから」

 顔を真っ赤にして馬水さんは恥じているようだった。

 ま、嫉妬してくれたんだよな? それなら嬉しいもんだ。

 雫さんが教室から居なくなると俺は友人に礼を言った。

「俺の代わりに答えてくれて、ありがとな」

「別にお前の為じゃねーよっ」

「素直じゃないのな」

「お前が素直すぎるんだよ。あんまり、他の女の子と仲良くするなよ。やきもちまた焼かれるぞ」

「そうだよなぁ……あ、七色に俺が料理を仕込めば万事解決じゃね?」

 俺の提案に、友人は首を振った。

「おいおい、それじゃ意味無いだろ」

「そうか?」

「そうだよ」

「どこら辺が問題なんだ?」

「面倒くせぇ野郎だな。鈍感過ぎるし……」

 そんな話をしていると件の七色がやってきた。

「おっはよー」

「おはよう」

「遅かったな?」

「うん。昨日のお礼を作ってたら遅くなっちゃって」

「お礼?」

 首をかしげていると、お弁当の入っていそうな包みを渡される。

「お弁当だよっ。美味しくないかもしれないけどさ、良かったらもらってよ」

「ああ、ありがとう。悪いな」

「気にしなくていいよ」

 まさか、いつものお礼を返すつもりが、返されるなんてなぁ。

 でも、友達なんてそんなものかもしれない。

 青春ってやつだわ。

「あ、あのなーっ」

「え? いきなり怒って……友人、どうしたんだ?」

 肩を震わせる友人は俺達を見ていた。

「あれ? もしかしてお前も七色のお弁当、食べたいのかよ。腹壊してもしらないぞ」

「冬治君、それは酷いよ」

「悪い悪い」

「……それでも、お前はちゃんと食べるんだろ?」

 友人の問いかけに、俺は勿論頷く。

「え? そりゃあ、食べるよ」

「はぁ、冬治はそう言う奴だよ。くそ、乗りかかった船だ。浸水しないよう、見張ってやるから感謝しろよ」

「良くわからないが、ありがとう」

「いいさ。友達だからな」

 その日のお昼は俺と雫さん、七色、友人と一緒に食べた。

 心なしか、雫さんの視線が痛かった気もする。

「おい、冬治」

「ん?」

「馬水さん……お前の事睨んでたろ?」

「やっぱりか」

 帰りのHRが始まる少しの時間、友人が話しかけてきた。

「何で睨まれたんだろうな?」

「意外と嫉妬深いんだな」

「え? 俺が?」

「お前じゃねぇよ。馬水さんだよ。七色の弁当なんて食べるからだよ、馬鹿!」

「あ、あー……なるほど」

「そこら辺、ちゃんと線引きしとけよ。じゃないと後で、痛い目見るぞ」

 その日の放課後、俺は雫さんに謝ることにした。

「そりゃそうだよなぁ」

 かんがえてみればすぐにわかる事か。

 一緒に歩いていただけで、問い詰めてきたんだ。

「悪いことしちまったぜ」

 下駄箱で待ちあわしていると、雫さんが歩いてきた。

「あのー、雫さん」

「ん? どうしたの?」

 気のせいか、凄く上機嫌に見えた。

「謝っとこうと思ってさ」

「何を?」

「お弁当の事。あれは……」

「大丈夫、それは七色さんから聞いているよ」

「そ、そっか……良かった」

 ほっと胸をなでおろす。

 後日、俺は七色に一体何を話したのか聞いてみた。

 もしかすれば、今後何か会った時のために役に立つかもしれないからな。

「それで、何を言ったんだ?」

「ちょっと耳貸して」

「ああ」

 俺の耳に口を近づけ、ささやかれる。

「……実は僕、男なんだよって嘘を言ったんだ」

「なるほどなぁ」

 それなら今後こんな事があっても大丈夫だ。

 友人と七色には足を向けて眠れないぜ。

 でもなぁ……七色と雫さんは確か、同じ中学だったんだよな。そこら辺を雫さんに聞いてみたらごまかされて終わった。

 うーむ? なんでだろう。


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