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馬水雫:第一話 気になるあの子はやんでれかもしれない

 放課後校舎裏に来てくださいと、掃除時間前にクラスメートから呼び出しを受けた。

 この前、からかわれた事もあって結構警戒しながらその場所へとやってきたら、俺を呼び出したクラスメートがいた。

「あ、来てくれたんだ」

「あ、ああ……まぁ、呼び出されたし」

「よかった。もしかしたら冗談で呼び出されたと思って帰ったのかと、思っちゃった」

 ほっと胸をなでおろすクラスメートを見て、俺は首を振った。

「さすがにそんなことはしないよ」

 しようとは思ったけどね。

「それで、何か俺に用事?」

「う、うん。あのっ、私と付き合って下さい!」

 彼女のその言葉に俺の胸が一方的に高鳴っていくのを感じる。

 そりゃそうだ、何せ成績優秀、品行方正、運動神経抜群に……女神と間違えるほどの優しさと噂のクラスメートに告白されたのだ。

 彼女がおらず、彼氏も当然いない俺に彼女の言葉は魅力的な言葉に聞こえて仕方がなかった。

 ただまぁ、年齢イコール、彼女いない歴と評されている俺は実に疑り深い性格なのだ。

「あれかな、もしかして『今度の教室掃除手伝ってくんね?』みたいなノリだよね?」

 もしくは薙刀部とかそっち方面での突き合ってくんね? かもしれん。

 ああ、最近流行りの男の娘ってやつかもしれんぞ。それなら、突き合ってで間違ってないもんな。

 野郎はお断りだ!

「え? ち、違う。私と、御付き合いしてほしい……その意味だよ?」

「あ、そなんだ」

 よっしゃと言いたくなる俺と、待て、待つんだ冬治。この世の中はお前が考えている程、甘くはないんだぞ……そういう言う俺がいる。

 たとえ疑っていても、期待の方が大きかったりするけどね。

 しかし、先月クラスメートのアホどもからラブレターをもらって屋上に釣られたからな。

 連中の新手の嫌がらせかもしれん。

「バックには誰がいるのさ?」

「バック?」

 そこで馬水さんは後ろを振り返った。

「……こほん、誰かからからかうようにお願いされて馬水さんは、馬水雫二年B組クラス委員長殿は、俺をからかっているのではないか。わたしはそう聞きたいのです」

 もしこれで背後に誰かが関わっているのなら、俺がただ単に騙される人間じゃないと思い知る事だろう。

 ふふん、たとえ相手がどんな人間であろうと、俺は早々に騙されたりしないんだぜ?

「えっと、それって……やっぱり、駄目って事?」

 俺の質問に別の言葉がぶつけられた。

 涙を両目に溜め、今にも泣きだしそうだった。

 鼻は赤くなり、笑うと可愛い顔は……今では悲しみに染まってしまっている。

「私……ちょっと暗い性格なんだ。冬治君とじゃ、釣り合わないかな?」

 頬を伝っていく涙に、先ほどまで居やしない誰かに向かって優位に立っていた俺はあっという間に追い詰められる。

「そ、そういう意味で言ったんじゃ、ないんだ。うん、俺はこうやって告白してもらってさ……超嬉しいよ? 飛んじゃうよ? わっほーい」

 俺、何しているんだろう……。

 先ほどまで舞い上がって、今度は疑り深くなり、涙を見るや否や……ジャンプを続けている。

 どう見ても、こんな俺ですみませんと謝りたくなってしまう。

「本当に嬉しいの?」

 俺の疑り深さが見事に伝染したようで、少しばかり疑惑のまなざしを向けられる。:

「本当だよっ。たださ、ほら、俺ってどっちかというと目立たないほうじゃん? いやー、本当にさ、嬉しいよ。でも、本当に俺でいいの? さっきも言ったけれど……普通の人間だよ?」

 自分でも言うのもなんだけどさ、俺ってそんなに運動神経いいわけでもないし頭がいいってわけでもない。家が特別お金持ちとか、顔が絶品超イケメンで、男にだって惚れられちゃうような顔でもない。

 一言で言うと……ぬか喜びしたくないので疑り深くなり、あっという間に手のひらを返してその場で飛んじゃうような人間である。

 ……改めて考えてみると、もし俺が女だったらこんな男とは付き合いたくないな。

「うん、他の人は考えられない……矢光君がいいのならこのまま結婚していいと思ってる」

「いや、さすがにそれは……」

「う、うん! 例えだからね?」

「わかってるけど……」

 結婚はともかく、そこまで女子に言ってもらえるなんて……俺はこの先、超いい生活を送るに違いないね。

 薔薇色のデートが執り行われる事間違いなしでござろう。

 若干高いテンションで俺は頭を下げた。

「よろしく!」

「こちらこそよろしくお願いします。矢光君…ううん、冬治君」

 照れた様子で名前を読んでくれる馬水さん……くはー、こんな光景一度でいいから見たかった。

 最初出会った時は普通に名前で呼んでくれって言っても照れちゃうから無理って言ってたんだよなぁ。

「俺も雫さんって呼んでいいかな?」

「う、うん」

 明日からの学園生活、俺は夢を見ながら過ごす事が出来るんだろう。

「いやいや、待て待て。待つんだ、俺!」

「ん?」

「雫さんっ。これから一緒に遊びに行こう? まだ、時間あるよね?」

「うん」

「よし、じゃあ……屋上に行ってみない? とてもいい夕焼けが見れるよ」

 その日の夕焼けは素晴らしいもので、この前みた屋上の寂しさなんて吹き飛んで見えた。

 あの時の夕焼けはそりゃもう、荒んでいたさ。

 俺に偽物のラブレターを送った連中……関係者を洗いざらい吐かせて絞め上げてやった。

「あいつら……来週までに学園へ戻って来られるかな。病院のベッドがお似合いだわ」

「え? 何か言った?」

「ううん。何でも。あのさ、周りにこの事って話す?」

 人気がある女子生徒が俺に告白してきた……というわけで、やはり話題になるのだろう。無論、ばれてしまえばの話で内緒にしておけばその限りじゃない。

「自然に周りが悟ってくれる方がいいかな?」

「そうだな、そうしよっか」

 俺たち二人は夕焼けを眺めながら、二人で他愛無い話を下校時間まですごすのだった。

「ふんふんふーんっ……ただいまー」

「あ、兄さんお帰り」

 妹の葉奈ちゃんがヤンキーマンガを閉じ、俺の方を見る。

「何だか嬉しそうだけど何かあった?」

「うん、彼女が出来たんだ」

「ほー、兄さんを彼氏にするなんてなかなかやるねぇ。どこのスケだろ?」

 妹に感心されるなんて早々ないよな。

 しかし、喋り方が相変わらずである。

「ま、頑張ってよ」

「うん」

「あー、でも、こっちが納得しなかったらぶっ飛ばしちゃうかも」

 軽い調子でそう笑う妹の葉奈ちゃんに俺は考え込むしかない。

 雫さんは葉奈ちゃんと性格真逆だし……そうなったら、俺はどうすればいいんだろう。


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