四季萌子:第一話 気になるあの子?は教師
不思議な事は世の中に数多あるらしい。
俺の両脇の隣人さんもそれらの一つで、担任の先生もその一人だと思う。
「……不思議だよなぁ、四季先生、どう見ても三十路にはみえねぇや」
「まだ三十路じゃありません! 変なごまかし方をしないで!」
「はい、すみません」
俺は頭を垂れる。
俺が怒られている理由、それは、とある薬を持っていたからだ。
なぁに、心配は要らない。単純所持でしょっぴかれるようなやばいオクスリじゃあない、黒葛原さん印の怪しい薬である。
困っていた彼女を助けたお礼にと、くれたのだ。
何でも、飲むと若返る薬だそうだ。
生憎、持ち合わせがそれしかなかったそうだ。
せめて、惚れ薬ならよかったのになぁ。
期末テストも終わり、後は夏休みを待つだけの期間だ。いつもより、風紀は乱れつつある。まぁ、乱れた風紀のおかげで……俺が薬をもらったその日の帰りのHRでいきなり四季先生が持ち物検査をするといいだした。
どうやら、生徒の間で変な薬が流行っている、そんな噂を耳にしたようである。
悪いことは重なるもので、俺は年下の女の子が大好きだと言う人物にこの薬を売ろうとしていたりする。
学生にしては少々、高い値段が絡んでいるようでどうにも騙された人がいたようだ。そいつは、俺もその一人なんじゃないかと四季先生にちくったそうだ。
「これも、栄養ドリンクじゃないの?」
「はは、そうかもしれませんね」
四季先生にそう言われて俺は納得した。
うん、なるほどね。栄養ドリンクを若返りの薬と言ってもおかしくはないか。元気が出るし、マムシエキス配合してますよと言えば夜頑張りたい人にもお勧めできるだろう。
事実、茶瓶に入っているだけの代物だしな。
「この薬も誰かにもらったものなの?」
「えーと、実はそうなんですよ。朝、薬局の前を歩いていたらもらいまして……ちょっと友達をからかおうかと。あ、勿論お金はもらうつもり、ありませんでしたよ」
「本当かな―?」
「本当ですって!」
「怪しいなぁ。もうちょっと居てもらうからね」
今日はせっかく速く帰れると思っていたのに、先生に足止め喰らっている。
俺が飲んだところでさして、意味のない薬だ。それに、黒葛原さんが作った物なら別に異常を来たすことはないだろう。
俺はそんな適当な理由で先生に若くなる薬をあげることにした。
「栄養ドリンクなんて俺には必要ありません。どうぞ、飲んでください」
「……どこの栄養ドリンク?」
「ウンケルだそうです」
「あ、そうなの? 先生も、結構お世話になるんだけど……白取君は若いから必要ないでしょ?」
「先生も十分若いですけどね。ま、試供品でもらったものですから気にしないで下さい」
「そう? じゃあ、遠慮なくいただくわね」
四季先生はその場でキャップを開け、飲み始めた。
「あ、今飲むんですね?」
「……まぁ、疲れてるから。お友達をからかおうとする悪い生徒の相手をして疲れたの」
「すみません」
心にもない謝罪をしてみると先生はため息をつく。
「本当、困った生徒ね」
そういって先生はドリンクを口にするのであった。
先生もまさか、生徒に一服盛られるとは思いもしないだろうな。
「あの、味はどうですか?」
「美味しかったわ。ありがとう……っと?」
よろけた先生を支えると、先生の体が熱くなっていた。
「せ、先生?」
「し、白取……く……」
俺の名前を口に出すより先に、先生をマンガみたいな煙が包んでしまう。
「え?」
「あれ?」
そして、煙が消えるとそこにいたのはセーラー服を着た先生がいるだけだった。
い、いや、良く見てみると……あどけない表情をしている。
お肌の張りもいいし……。
「ほ、本当に若返ったっていうのかよ」
「え? あの、君は……誰ですか?」
俺に支えられている少女は驚いた表情をしていた。
黒ぶち眼鏡に、おさげとか……いつの時代の人間だ。
ああ、そうだったな、先生は……本当に若返ったのか。
「やだな、何を言っているんですか。まさか、頭まで若返ったって言うんじゃ……」
「ここ、どこ? あれ? 今日は期末に向けての勉強会が放課後あるはずなんだけど……」
お疲れモードの萌子先生の眼なんてしちゃいない。彼女の目は、曇っていない、大人が忘れたあの日のまなざし……青春の瞬きだ。
御託はともかく、彼女は嘘なんて付いてなさそうだ。
御託ついでに言わせてもらうなら、疲れた表情をちらりとも見せない。若いオーラが漂っている。
「まさか、本当に若返るとは思いもしなかったぜ」
「あ、あの、そろそろ放してくれません?」
ぽっ、と顔を赤らめている事に気づき、俺は抱きしめるようにしていた手を離す。
「すみません。仕方なかったんですよ」
騒がれても困るので俺は弁明することにした。
大体、こういう面倒なことに巻き込まれると女子が騒いで、俺が悪者になるからな。予防線は張っておくのがベターである。
「わかってます。助けてくれたんでしょう? ありがとうございます」
予防線はあくまで予防線らしい。
もしくは、萌子先生に通用しないと言う事だろうか。
「……良く見ると、私のもろ、タイプです」
ああ、この人は若くても変わらないのね。
「本当に先生、俺の事……忘れちゃったんですか」
「はぁ? 何の事だかさっぱり……あ、もしかして夢の中で愛をささやいてくれる」
「駄目だこりゃ」
こうなったらしょうがないな。
俺は黒葛原さんを教室に呼び出すことにした。
何度か帰ろうとする四季先生をなだめすかして、黒葛原さんを待つ。
「……来た」
「来てくれたのは嬉しいけれど、何も窓から来ることはないでしょ」
窓からやってきた黒葛原さんを教室へ迎え、四季先生の所へと引っ張っていく。
「ドクター、彼女は重症です」
「……冬治、ちょっとこっちへ」
それから俺の腕を引っ張って教室の後ろ側のドアへと距離を取った。
「……もう、何で先生に?」
ジト目で見られた。
うん、こういう表情も悪くないな。
「……黒焼きの代わりに鍋に、入れる」
おっと、凄むと怖ぇ……。
「これには事情がありまして……ご勘弁を。先生が戻ってからおしかりはうけるから! まずはあの人、助かるの?」
ま、黒葛原さんの事だ。
適当なステッキでも取り出してお茶の子さいさいで何とかしてくれる。
「……厄介な事になった」
マジか。
黒葛原さんならちゃちゃっと終わらせてくれると思っていただけに、ショックが大きい。
改めて自分がやったことが大変なことだと気付かされた。
「せ、先生は元に……」
「……一応、戻る。でも、時間は、かかる」
何でも、解毒剤的な物を作る必要があるらしい。
ため息をつく俺に、さらに追い打ちをかけてきた。
「……面倒、見てあげてね」
「え、面倒?」
「……四季先生の家は、この土地に、ない」
「じゃ、先生のアパートに……」
「……ばれる。彼女、記憶も元に戻っているから……」
そうか、教師側にばれると超面倒な事になるな。
説明がつかないし、証明する方法もない。
「薬はどのくらいで完成する?」
「……約、一週間」
一週間か……どうせ、親もいないんだ。俺の家に連れてきても楽勝だろう。
先ほどから縮こまっている四季先生の前に立って、俺は事情を説明することにした。
「あのですね」
「は、はひっ」
思えば、ずっとびくびくしている。
「先生、どうかしたんですか?」
「あ、あの、私、お、男の人と殆ど話した事、なくて……あ、あと、格好いいので……かなり、緊張しています」
普段の先生からは想像もできない程びくびくしている。
さっきはそうでもなかったのに、冷静に自分の立ち位置を自覚で来たんだろうな。
どうやって説明すればいいのか考えていたら、俺の脇に黒葛原さんが寄ってきた。
「……冬治」
「ん?」
「……説明する。ちょっと席、外して」
「わかったよ」
教室の外に出て、誰か生徒がやって来ないか見ていた。
それから五分後、俺はようやく中へ招きいれられる。
うーん、本当にうまく説明で来たのだろうか。黒葛原さんって口下手だしなぁ。
「あ、あのっ、ありがとうございます!」
「え?」
教室に入るなり、いきなり俺の両手を掴んできた。
さっきまでの緊張はどこへやら……元気印に花が咲いている。
「どんな説明したのさ?」
「……貴女は、未来に飛ばされてますって」
それで簡単に説得できるとは思えないぞ。
「なんて説明受けたんですか?」
「えーと、実はあの人に……その、何といいますか……私の未来を見せられたんです」
「はぁ……」
たった五分で全部見せられたのだろうか。
「あの、信じちゃうんですか」
「ええ、勉強ばかりでこういった変な話、大好きなんです。過去に帰る方法は黒葛原さんがわかっているそうで準備までしてくれるそうです!」
あっさり納得してくれたのは嬉しいけどさ、四季先生の事を堅物だと思っていたので拍子抜けだ。
「こっちの私は過去に飛ばされているみたいなんですよ」
「へ、へー、そうなんですか」
「あれ? 知らないんですか?」
「え、ええ……俺が知っているのは四季先生が若返った事だけですからね」
そういうと黒葛原さんが小声で『……犯人のくせに』と呟いていた。
「と、ともかく、俺の家に案内しますよ。おそらく、というか絶対に……この学園の人達に見つかるとまずいですからね」
「は、はい」
「……学園の外まで、運ぶ」
「え?」
俺と先生に触れた黒葛原さんは何やら呪文を唱えた。
「……そのまま、目を閉じて」
「あ、ああ」
「はいっ!」
素直に言われた通り、俺たち二人は目を閉じる。
「……そのまま、一歩を踏み出して」
「わかった」
浮遊感でも襲ってくるわけでもなく、目を開けていいと言われて開ければそこは、教室ではなかった。
恐ろしいもので、気付けば学園の外へとやってきていて、周りに人がいなかった。
「す、凄いですね! ワープですか?」
「……ワープ、というのはちょっと違う。この位置と、さっきまで居た場所の間に存在する世界を一度消滅させ、一歩の距離にした」
俺は至って現実的な人間だ
ここまでくるともはや、付いていけない。
「も、もっと教えてほしいんですが!」
「……さよなら」
興奮気味に黒葛原さんに近づく先生を鬱陶しそうに一瞥し、黒葛原さんは去っていった。
「あ、ちょっと!」
「さて、俺らはこっちですよ。他の人に見つかったら面倒でしょう」
「え? あ、はーい。」
「先生、ちゃんと付いてきてくださいね」
「あのー、その先生って呼ぶの辞めてもらえませんか?」
いきなりそんな事を言いだした。
「え、でも……先生ですし」
「四季萌子。それが私の名前です」
「はぁ、わかってますけど……」
「萌子って呼んでください」
ぶぅと膨れる俺は頷くしかなかった。
「わかりました、萌子さん」
「敬語もやめてください。呼び方は自由ですけど」
結構こだわるところはこだわる性格だからな、それは若い時も変わらないのか。
俺は首をすくめて萌子先生……萌子さんの言う事を聞くことにする。
「わかったよ、萌子さん……でも、萌子さんも俺に対して敬語じゃないか?」
其処を指摘すると彼女は眼鏡のつるを押し上げた。
「私はいいんです。委員長ですから」
「……ああ、似合うかも」
「さぁ、気を取り直して冬治さんの家に案内してください」
「へいへい」
あーあ、先生に薬なんて飲ませなきゃ良かった。
今後は変な薬には気をつけておかないとな。
俺は固く担任をからかわないと心に誓うのだった。
知り合いに遭うことはなかったものの、数人の人とすれ違う。
ま、ただの生徒にしか見られなかっただろう。セーラー服の見た目が数十年で早々変わるわけもないし。
俺がびくびくしていたらおかしいからか、萌子さんは俺にひっついているだけだ。
「へぇ、ここが冬治君の家ですか」
「ああ、そうだよ」
家というより、アパートの一室だけどさ。
「さ、どうぞ」
「はい。お邪魔します」
丁寧に靴を並べ、部屋へと上がる。
その姿が最近家庭訪問してきた四季先生の姿とダブった。
「私の顔に何かついてます?」
「いや、何も付いてないですよ」
そりゃ、重なるよな。本人だもん。
気を取り直し、中へ案内する。
落ちついて話せるよう、俺は飲み物を出すことにした。
「先生は何飲みます?」
「萌子です。あと、敬語になってます」
「あ、そうだった。萌子さん、何飲む?」
「紅茶お願いします」
「あいよー」
せめて、かなり若返るんなら敬語なんて使わないのにな。
元が若いので、ただコスプレしているようにしか見えないんだよ。
「胸もこのぐらいで成長止まるもんなんだなー……」
そんな下らない事を考え、コップを二人分並べる。
萌子さんに紅茶を出し、自分の分はコーヒーを注ぐ。
カップをテーブルまで運ぶと、萌子さんは新聞を読んでいた。
「……んー、本当に未来に来てしまったようですねー」
どうやら、黒葛原さんの出鱈目を信じているようだ。
「あ、今日は超常現象の面白そうな奴がありますね」
「本当、そう言うのが好きなんだなぁ」
「大好きですよ。こんな事言うと普通の人からは驚かれます。普段は、静かにしているんです」
見た目真面目そうだし、友達づきあいを大切にするかどうかは……どうなのだろう?
「萌子さんって友達多い?」
「そこそこですね。離す程度の友達なら二十人以上いるのですが、実際に遊んだりする友達は十人ぐらいです。もっとも、期末テストが近いので遊んでいられませんが……冬治さんは?」
「……俺は、こっちに転校してきて間もないので少ないよ」
コーヒーを啜っていると、何やら俺を盗み見ていた。
「何?」
「あ、あの。一つ聞いても?」
「いいけど?」
またコーヒーを啜る。
「そのー……聞いてしまいますけど、未来の私と、お付き合いしているんですよね?」
「ぶほっ」
コーヒーが熱くて助かったぜ……熱くなかったら今頃、盛大に吹きだしていた事だろう。
ちょっとずつ飲んでいたのが功を制したようだ。
「黒葛原さんが言っていました。私が未来にやって来た時、一緒に居たのは仲良くしていた途中だったからだと……」
う、うーん、今更違うなんて言ったら誤解が生じるか。
「ま、まぁ、その通りだけど。でも、他人に付き合っているんですよと言われて信じる?」
出来るのなら、付き合い始めて一日目と言った、まだ軽い存在だと思われたかった。
「あー、いやー、付き合っていないと言われたのなら言うつもり、なかったんですけどね。結構、タイプです。非日常的な私をこうやって疑いもせずに受け入れてくれているし、そこそこ優しいし、結構、格好いいですし……未来の私が付き合っている、つまりは教師と生徒の禁断の愛ですよね? そんなに深い愛があるのなら信じちゃいますよ」
ぽやーんとした表情で見られ、俺はコーヒーを啜ってお茶を濁そうと考える。
「……あの、男の人と話してないっていっていた割には結構、話せるほうなのね」
「はい。だって、頼みの綱は冬治君だけです。恋人、信じなくてどうするんですか!」
それもそうか。
将来お付き合いしている人間が恋人の過去を無碍にするわけもないもんな。
本当は若返っているだけなんだけど……彼女からしてみれば確かに、未来にやってきたという感覚であっている。
「普段私とはどんな話をしているんですか?」
ああ、そしてこの子はあれだ、知的好奇心の塊みたいだ。
ついでに言うのなら、超アグレッシブだ。
俺の対面に座っていたのに、カップを持って俺の隣に座り、肩に頭を載せている。
自分の置かれている立場よりも、そっちの方を優先するとはね。
「さすがにそれは言えないなぁ……」
「え? いーじゃないですか」
耳に吐息がかかり、身体を更にひっ付けられた。
こ、この人は……。
籠絡されそうになる自分を頭の中で数回ぶっ飛ばし、何とか言葉を発する。
「……駄目駄目。そもそも自分がどんな相手と付き合うのか知ることだって駄目でしょ。過去に戻ったら探すつもりあるんじゃないの?」
「う、さすが私の彼氏……鋭いですね」
見つけられるかどうかともかく、四季先生ならやりかねないな。
これが本当に過去から来ていたのなら、未来を変えられている恐れがあるぞ。俺、小さい頃は年上のお姉さんが大好きだったし。
「……」
いや、今も大好きだけどね。
「ま、ともかく無駄話はやめにして今後の話をしようか」
「結納?」
「違う。そっちじゃなくて、一週間の暮らしの話だよ」
短い期間とはいえ、不用意に外出すれば知り合いに発見される恐れがある。
説明が面倒かつ、誰にも信じてもらえない内容だ。
「ああ、家事の話ですね」
「家事はいいよ。俺がやるから。こ、恋人とは言え……お客なんだしさ」
「大丈夫です。勉強してばっかりの人生ですけれど、いつお嫁にいってもいいように中学の頃から家事の練習、していたんですよ?」
そうか、先生はそんな昔から花嫁修業をしていたのか……。
そして、今に至るのか。
「是非、させてください。やはり、こういうのは彼氏の前で見せないといけませんから」
これまた身体をひっ付けられ、その柔らかい何かが俺の腕に当たり、脳がスパークした。
「……冬治さん?」
「あ、そ、そうなの? じゃあ、任せようかな」
「はい! じゃ、再確認しますね。私と、冬治さんは……恋人同士ですよね。今更、嘘でしたなんて無しですよ? 泣いちゃいますから!」
嘘なんだけどな。
ここは、はいそうですと素直に言えるわけもない。
ただでさえややこしい状態なのに、ここで『騙していたんですね! 出て行ってやります!』なんて言い出したら追いかけなくてはならないのだ。
「……付き合い始めたばかりだけど、恋人だよ」
「じゃ、いいですね。冬治さん、今から美味しい晩御飯、作りますよ。ほーら、恥ずかしがってないで私の顔を見てお願いするよって愛をささやいてください」
晩御飯のお願いする度に愛をささやくのかよ。
言う事を聞かねば、萌子さんは離れてくれないのだろう。
萌子さんの方を向いて、俺は言おうとする。
「ああ、お願い……」
俺の唇に、萌子先生の唇が軽く触れた。
「なっ……」
「ふふ、照れちゃって可愛いですね。まだ付き合い始めだなんて……最高です! 最高ですよ、冬治さんっ。ああ、未来の私が恨めしい!」
笑いながらエプロンを着用し始める萌子先生に俺は頭をブッ飛ばされた気分になった。
「じゃ、準備しますから待っていてくださいね」
「え、えーと、はい」
やべぇ、まともに萌子さんの顔を見られないぞ。
そう言う理由でもないけどさ、エプロンをつけて料理をしてくれる女の子の後ろ姿っていいよなぁ……ついつい見つめてしまう。
「もう、そんなに見られたら困っちゃいますよ」
「ご、ごめん」
包丁を置いて、萌子さんは俺の所へ戻ってくる。
「目、閉じてください」
「あ、は、はい……」
「また敬語に戻ってます」
「……わ、悪い」
い、一週間か。
俺、耐えられる……よな?




