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春成桜:最終話 八百長気味の告白

 さらに成績が良くなり、ついでに運動神経にも磨きがかかり、菩薩と間違われるぐらいの優しさになったと言われる桜は上から下から、同じ学年からもっと告白されるようになった。

 この波に、俺も乗らねばならぬと彼女持ちの奴も行ったらしい。その後、彼は血まみれ校門の被害者として有名である。

 女子からは妬みと嫉みを一身に受け始めた……わけもなく、何故だか女子生徒からも告白されるようになった。

 朝のHR前から引っ張りだこだ。一時間目から放課後まで告白のスケジュール埋まってるって何だそりゃ……。

 あとさ、周りがお前はどうなんだと言ってくるようになった。いつまで引っ張るつもりだと言われるようになった。

 外野がうるさいっての。

「でさーその飛鳥って人がすごく強気な人でね、困っちゃったよ」

「ほー、桜も大変だ」

 いつものように俺と桜しかいない放課後。

 朝も一緒、お昼だって作ってもらってる、こうやって一緒に帰ることも出来ている。詳しく言うなら、一つの大きなマフラーを二人で使っている…どう使っているかは想像に任せるとも。昨日、クリスマスプレゼントで編んだとかでプレゼントされたのだ。


 舞い上がっちゃうほど、嬉しかった。


 お前もさっさと告白して終わらせちまえと友人達は言って来る。何かにつけてさっさと決めろと言わんばかりだ。

「春成桜さん、おれ……二週目入りました! 好きです、付き合ってください!」

「ごめん、私……待っている人がいるから」

 どうやら、桜が誰かを待っているのは本当らしい。

 その待ち人こそ自分だと疑わない連中を相手にするのは大変だろう。

 我こそ勇者だと立ち向かった男子はいざ知らず、魔王にやられまくっている。合掌。

「本当、御苦労さまだよ」

「え? 何で?」

 本当にわかっていないようだ。

「あー、いや、だって、そうじゃん。律儀に毎回会って断ってるし……相手の気持ちも考えると大変でしょ?」

 そう言うと桜はふくれっ面になった。

「それさぁ、冬治君が言えるような立場じゃないよー」

「そうかな」

「そーだよっ……」

 髪の毛をいじりながら桜は独り言のように呟く。

「あーあ、ちゃんと冬治君がしてくれれば……告白されて困る事も無いのになぁ……みんなわかってて告白してきてる。おもちゃにされているから大変なのに」

 桜と呼び始めて、更に距離が近くなった気がする。こうやってアピールするようになって『結婚秒読み!』とか桜の友人達が言っていたりもするから……大変な事だ。

 まだ告白なんてしてないのに。気持ちが通じ合っていると言うのも何だか変な気持ちだ。俺だって、何も考えていないはずがない。

「あー……その事でさ、明日のクリスマス会、桜に話したい事がある」

「……え?」

 ちょっとずるい気もする。

 気付けばお弁当のそぼろはハートマークになっていたし、桜は志望校の素晴らしさを一生懸命、俺へ伝えてきていた……あとは、『社会勉強するために取り寄せてみたよ』といって俺に婚姻届を見せてくれたりもした。ついでに言うなら女の子が生まれたらどんな名前つけるの? 男の子は? 何人ぐらい欲しい? ……などなど。

 まぁ、相手の気持ちを知ってしまったのは完全に偶然だ。偶然と言うか、押しが強いときもある。すでに俺の母親とも仲が良い。

 だから、俺が何とかしないといけない。桜はこうやって色々としかけてきても、好きだとは直接言わないのだろう。俺から言ってほしいと言っていた。

 それから桜は静かになった。

「うん……待ってる」

 別れ際、淡く笑ってそう言った。

 家に帰り、俺は天井を見上げる。

「ふー…いよいよ明日か」

 思えば、何で好きになったのか。

 最初は単なるいいなぁぐらいだったかな。気になる程度だった。

 それか、周りが告白しているから俺もいつか告白してみるかな……だったか。きっかけはもう、忘れてしまった。

 なんにせよ、俺は彼女を真剣に好きじゃなかった。本当、桜に失礼だ。これまで桜に告白し、フラれていった男連中を馬鹿にすることは出来ない。

「やれやれ」

 きっと、桜に告白している半分がふざけているに違いない……だとしても、かなりの人数に告白されてるじゃないか。二週目も入ったって人もいるし。

 クリスマス会なんてほぼ行って食事するだけだ。場所はホールである。

 恋人がいれば、さっさと抜ける人だっているし、その場で作ろうとする人もいる。契約彼氏、彼女だったり居るとか居ないとか……見栄張りたい人向きだな。

 今年はもちろん、参加する。ま、林間学校と違って強制参加じゃないので行かない人だっている。知り合いで言えば統也と坂和さんは行かないそうで、一緒に街でいちゃいちゃするそうだ。

 あいつらはもう、背景のバカップルとして最近では扱われている。

「坂和、此処解いてみろ」

「え、えーっと」

「はいっ、おれがいきますっ」

「おー、さすがだな。彼女にいいところを見せてやれよ」

「でぇへへ、任せてくださいよぉ」

 そして先生は統也の事をよく理解しているようで彼を当てるときは回りくどい事をしていた。

「ま、他はいいんだ。今は、自分の事を考えなくちゃな」

 今年は絶対に、何があっても行かなくてはいけない。風が吹こうが、槍が降ろうが、世界が終わりを迎えようと、だ。

 そして、クリスマス会がやってくる。

 終業式が終わり、一旦家に帰る。もちろん、一緒に桜と帰っている。

「冬治君、あのさ」

「う、うん?」

 今日は何だか二人とも緊張しているようだ。言葉なんて全然交わさなかった。悪い雰囲気じゃなかったけど。

「場所、私の方で指定していいかな?」

「わかった」

「その時になったら、電話するから」

 何かを言おうとして、曖昧に笑う。

「じゃあね」

 そういってマフラーから抜けて家に入って行った。

 俺はしばらく、去っていった桜の後姿を眺め続けた。そして、少し体が冷えた。

「ふむ、最初は二人だと歩き辛いって思ったけど……居なくなると寂しいなぁ」

 空いたマフラーの部分に鞄を巻いておこう。

「冬治君、一緒にいるとあったかい」

 声真似してみた。もっとも、鞄がこんな事をしゃべるわけないけどさ。

 気づけば、俺の周りにはかわいそうな目で道行く人々が足を止めていた。俺と目が合うとそそくさと去っていく。

「坊主……寂しい事やってんな」

「あ、いや、これはその……違うんです」

「何一つ違わねぇさ。今日は聖夜だ。独り身は誰だってさみしい」

 いいんだとばかりに通りすがりのおじいさんは俺に飴をくれたのだった。

 舐めてみると、涙の味がした。

 それから数時間後、クリスマス会が始まったであろう時間帯に外へ出る。

 夜空を見上げ、舞い散る白い雪が確認できた。

「うう、さむっ…って、雪が降り始めたよ」

 こういうときは道理で寒いわけだ…って言わないといけないんだよな。

 おっさんからもらった二つ目の飴を舐めて学園へと向かう。すると、電話がかかってきた。

「……もしもし?」

 桜からだ。

『もしもし、私だよ。教室に来てほしいんだ』

「わかった。すぐいく」

 居ても立っても居られなくてもう走り出している。

 無理して渡った結果、あやうく、車にはねられそうになった。

「死ぬわけにはいかねぇな……落ち着け、俺」

 最大限の安全を確認しつつ、俺は学園へと向かう。

 ホールの方から楽しそうな声が聞こえてきている。俺の目的はクリスマス会じゃ無い為、当然無視して教室へと向かう。

 静かで冷たい廊下を一人で歩く。外は暗闇に包まれており、あの夏の日を思い出していた。

 しかし、こんなところを誰かに見られたらなんと答えればいいのやら。

「……サンタ用の靴下を忘れたって言えばいいな」

 サンタを信じなくなったのはいつだったか。

 実はサンタはいないって、冷めた幼馴染に言われたんだよなぁ……中学二年でそのことに気づかされるのはちょっと遅い方か。俺もサンタの存在を怪しんで一日中起きていたことはあったが、気づけば靴下の中にプレゼントが入っていたんだよな。どんな魔法を使ったんだか、母さんを問い詰めても知らないって言われたし。

 クリスマスらしい事を考えていたら教室についてしまった。

「……」

 人がいた。廊下にも当然、電気はついておらず、教室も真っ暗だ。喧騒は遠く、林間学校で暗闇を歩いた時の事を思い出した。

 あの時は汗ばんでいたけれど、今は寒い。

「桜?」

 自分の教室が暗がりのせいで違う場所のように見えた。

「メリー、クリスマス」

 どういう仕掛けか、クラッカーを鳴らすと同時に電気がつく。ぱたぱたと廊下を走り去る音が聞こえてきた。なるほど、道理で桜が怯えていなかったわけだ。

 仲間がいるとは恐れ入ったよと言おうとして、俺は驚く羽目に遭う。

「お……」

 俺の目の前に先ほど否定したばかりのサンタがいた。

「似合ってる?」

 照れた様子でくるりと回る。スカートがひらりと舞った。

「ばっちりだよ」

 変に露出していない、可愛らしいサンタだ。いや、露出しているサンタも可愛いけどこうやって正装のサンタのコスチュームいいもんだ。うん、露出しているサンタも可愛いけどさ。

 ぽけーっと見惚れていると桜は赤くなってる。

「そ、そんなに見られると照れるよ」

「わ、悪い」

 気の利いた言葉をかけてやればいいのに、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

「ううん! ずっと見たいなら見ててもいいよ!」

 どっちだよなんて突っ込みは野暮だ。存分に見させてもらおうか。

「ずっと見ていたいけど、俺は用事があってここに来たんだ」

 頭を掻いて自分が何をするためにここへ来たのか思いだす。サンタになったその姿は抜群の攻撃力を誇っていた。

「あのさ、先にいいかな?」

「先に?」

 告白するんじゃないかとちょっと不安になった。

「あ、違うよ。それじゃないよ、それは、冬治君にやってほしい事だもん」

 俺の不安そうな顔を一発で見抜いた桜はやっぱり凄いと思う。

「ああ、楽しみにしておいてくれ」

「うん」

 自身の机に座り、桜は言った。

「最初はね、冬治君の事なんて本当にただの隣の人だったよ。最近知った事だけど、今の二年生は冬治君以外私に告白していたんだね」

「そうだよ」

 強くてニューゲームの二週目の方もいたらしいぜ。どこら辺が強くなったのか(おそらく精神が)は知らんがな。

「きっかけはやっぱり、林間学校かな。あれが無かったら今の私は……多分、いないから。今年のクリスマス会、いかないつもりだったよ」

「そっか」

 俺も多分、行ってないね。あーケーキうめーって家で言ってただろうさ。それはそれで楽しいクリスマスだろうけれど、サンタがいることを知らないまま終わっていた。

「迷惑かけて、疑って、監視しちゃって……本当、隣に居てくれてありがとう」

「え、あ、これはご丁寧にどうも……」

 頭を下げられたのでつい、こっちも下げてしまった。変な話だよ。不思議な話だが、彼女の頭に乗っているサンタ帽は落ちなかった。

「夏祭りから、私はもう、冬治君だけしか見れなくなった。もらった熊のぬいぐるみは……いつも私の隣で寝てる」

 クマか。あのおっさんのことをやはり思い出してしまった。今度見かけたら狙っておこうと思う。

「他にも色々と言いたい事はあるよ……でもね、それは多分、後でも言える。だから、この先は冬治君に言って欲しいの……」

 そういって桜はぎゅっと目をつぶった。

 俺の出番が来たらしい。

「ああ、言うよ」

 こんな風にされているのは慣れているだろうと思っていた。それが、実際は緊張で固まってる。どんな人前でも見た事の無い、桜の姿だ。

「ふー……」

 一度、深呼吸。

「桜、きてくれて嬉しいよ……は、違うか。俺が呼び出されたんだな」

 準備していた内容が、ぱーになった。というか、よく考えれば向こうから指定されたわけだからなぁ。

「今のなしで。やり直しさせて」

「駄目、無理に続けてよ」

 落ちつけ、俺。落ちつくんだぁ。

 落ちつく為にはさっきのサンタを見て落ち着くしかない。

「わかったよ……率直に言う。桜、俺のお弁当を毎日作ってくれ……って、今も作ってもらってるよっ」

 これは駄目だ。

「もー」

「すまん」

 がっくりとうなだれる。俺の失態を見て桜は緊張がほぐれたようだ。笑って待ってくれていた。

 情けないぜ全く……。

 結局、格好つけたところで俺はしまらない人間のようだ。だったら、いつも通りのんびりさせてもらうさ。でもまぁ、それでもちょっと格好つけよう。

「桜、見てもらってわかると思う。俺、桜と一緒に居るとどきどきしてすっごく嬉しいんだ。まだこれからも俺の隣に居てほしい……付き合ってくだしゃ……」

 時が止まったように思えた。

「噛んじゃったよ!」

 格好良く決めるつもりだったんだが……最後まで失敗しちまった。

「はは……冬治君が初めてだよ」

「え?」

「告白の時にそうやって悶絶してるの。どんなに恥ずかしがり屋の人だって、噛まずに言えたよ」

 俺の事を面白そうに笑っている。

「サンタ姿の桜が可愛すぎるのが反則なんだよ! さっきからどきどきが止まらない。桜、俺は君の事が好きなんだっ」

 桜は俺の事が好きだって思っていたとしても、告白は怖かった。

 目をつぶって右手を差し出すとすぐに握られる。

「ありがと、その言葉を……ずっと待ってたよ、冬治君」

「桜……」

 すっと桜が近づいてきて俺の事を見据えていた。

 俺の胸に軽く手を添えると、目を閉じた。

「……んっと」

 つま先立ちのサンタの肩を軽く掴み、引き寄せる。

「……」

 顔を近づけ、気付けば息を止めていた。

 唇が当たりそうになった時……いきなり桜が目を開ける。

「えっと……」

 キスはまだ早かったかな? でも、したいし、桜もやっていい雰囲気出してた気がするんだけど……。

「うぐっ」

 そして、いきなり後ろを向いて何かをしている。

「桜? どうした?」

 何かデリカシーないことやって、傷つけたのだろうか。不安になる。

「ごめん、鼻血出ちゃった…あ、こっちみないで! 恥ずかしくって会わせる顔がないのっ」

 ここ一番に弱いのは桜もか。

 一生懸命、鼻にティッシュを詰め込んでいるであろう桜を後ろから抱きしめる。

「桜、大好きだ」

「……私もだよ。こ、このままでいい?」

「もちろんだ」

 気付けば廊下にクラスメートたちが立っていた。

 それでも、俺は覚悟を決める。

「まだ、血が……」

「そのままでいい、キスをしよう」

「冬治君……」

 いいんだ、そんな桜が大好きだから。

 口づけをかわし、俺らは離れる。

 見つめあう俺たちを、クラスメートたちが祝福してくれた。

「キスの感想は?」

「血の味がしたよ」

 そういうと周りがはやし立てる。

 苦笑する桜の姿を見て、俺は彼女の隣にこれからも居続けようと思った。

 そしていつか、今日のことは彼女の中で美化されるだろう。将来この思い出を超える体験をさせてあげたい。


今回で春成桜編終了です。ははー、早かったなー……。さて、いかがだったでしょうか。コンセプトは王道……だったと思います。何気にお漏らしとか主人公を疑うとか王道とは思えない展開なのは気のせいでしょうか。バッドエンドも準備していたら面白かったのかもしれません。しかし、これは読んだら思いつかない。冬治を異世界に飛ばすぐらいしか思いつかない……短いですが、このあたりであとがき終了です。読んでいただけて少しでもおもしろかった、楽しかったと思ってもらえたのなら幸いです。

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