あの時の答えは――②
「んぅ…………」
目を覚ますとそこには、見慣れた自室の天井――ではなくて、テーブルの脚だった。……ああ、そうか、そういえば月夜の家でクリスマスパーティーをしてて、プレゼント交換の話になったのか。それでオルゴールをかけたら眠たくなって、寝てしまった……と。
「……瀬戸君?」
上体を起こして、寝ぼけた頭で声の主を探す。――と、入り口とは反対に位置する窓の近くで、雪雛がこちらを振り返っていた。
「おう……お前も寝てたのか?」
寝違えたのか、痛む首をさすりながら立ち上がる俺に「うん」と雪雛が小さく頷いた。落ちている鞄や、床で寝ている月夜と咲夜を踏まないようにして雪雛の隣に並ぶ。
「楽しかったな、パーティー」
「……うん」
空に瞬く無数の星を見上げながら、今日の話をした。主には劇の話で、柿太郎は誰なんだーとか、あれからトナカイはどうなったー、とか。
「きっとヤンデレラ嬢はさ――」
「――……ねえ瀬戸君」
――お嬢様じゃなくて狩人だろ? と続けようとした俺の言葉を遮って、雪雛が重々しく口を開いた。そのいつもからは想像のつかない声音に、思わず「んっ?」と声が裏返ってしまう。
「……私が」
緊張したように唇を振るわせる雪雛を見て、俺にまで緊張が伝わって来る。
「……期末テストの時にした告白の返事……聞かせてね」
――期末テストの時にした『告白』?
「えっと……」
何か言われたか? と記憶の糸を辿るが――思い出せない。
「……わ、忘れたの?」
――シュンとしおらしくなった雪雛の姿に、罪悪感を覚えた。……って言ってもな……身に覚えがない。
「……私、瀬戸君に『簀巻きにして海に沈めたい』って言ったのに……」
「そっちの告白かよ!」
確かに言われたけどさ! 「好きです」とかじゃなくて「実は……」の方かよ!
でもその返事って何だ? 沈めさせていいか悪いかを答えろってことか? いや、駄目に決まってる。……と混乱を抑え切れない頭で必死に理解しようと試みる。――が、一向に分からないままだった。
「……でも私、あんなこと言うつもりじゃなかった。……あの時は恥ずかしくて言っちゃったけど」
「そ、そうなのか?」
つまり、全然思ってもいなかったことを言ってしまった……と?
「……うん。だから……今、言わせてほしいの」
――再び蘇る、あの時と同じ気持ち。ドキドキして胸が張り裂けそうな、痛くて息苦しい、そんな感覚。
「……あのね瀬戸君……私、瀬戸君のこと……す、すっ……す――――簀巻きにして瀬戸内海に沈めたかったの」
「――改めて言う必要ねえよ畜生!」
海が瀬戸内海になっただけだった。
「……はぁ」
――でも、雪雛の朱に染まった頬を見て――胸の高鳴りが一層強まった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「ん~! 楽しかったなあ」
「だな」
結局――明日も学校があるし、夜遅くになってしまった、ということで解散となった帰宅部のクリスマスパーティー。今は咲夜と肩を並べて帰宅中だ。
まあ……あれからプレゼント交換をして帰ったんだけど。母さんの用意したプレゼントが何なのか、手汗が止まらなかったのは秘密だ。
ちなみに俺に回って来たのは、月夜が用意した「悪魔にヘッドロックをかけられている天使」の人形だった。……見た瞬間、悪魔の顔が西内に変わったが、条件反射ということで見逃してほしい。
雪雛はどうしたのかというと、「……月夜に話がある」と言っていたので、不本意ではあるが置いて来た。その表情が真剣そのもので、そうせざるを得なかった……っていうのもあるけど。
「またやりたいね! パーティー!」
隣を歩く咲夜がニコリと微笑む。その笑顔が綺麗で、思わず見蕩れてしまった。
「そ、そうだな。――今回はありがとな。咲夜がパーティーやりたいって言ってくれたから、凄く楽しいイヴになった」
感謝の意を込めて微笑み返すと、咲夜は「そんなことないよ」と照れ笑い。……だけど、これは本当に感謝することだ。咲夜が言わなかったらパーティーなんてなかっただろうし、俺は家にいたと思う。
「あっ……じゃあ瀬戸君、一つだけお礼してもらってもいい……かな?」
急に立ち止まって、咲夜が俺に向き直る。
「ん? 俺にできることなら何でも言ってくれよ。日頃から世話になってるしな」
いつも俺を支えてくれている咲夜の頼みごとだ、何としてでも叶えてあげたい。悩みごとなら解決するまで付き添っていたいし、どこかに行きたいとかなら俺が全額負担しようじゃないか。
「ありがとう。それじゃあ――そろそろ文化祭の時の返事、聞きたいな」
「へっ?」
思わず間抜けな声が出てしまい、恥ずかしくなった。
「瀬戸君のことが好きだっていう……あれ」
「あ、ああ……」
分かってはいたけど……さっき雪雛とそんな会話をしたばかりだったから、驚きを隠せなかった。
――でも、答えなくちゃな。もう三ヶ月も待たせたんだから。
「咲夜――」
ゆっくりと頭を整理する。自分が何を言いたいのか、それをちゃんと伝えられるか。
「はい」
……と、咲夜はあの時のように返事をした。
――咲夜も同じだ。緊張してるのは俺だけじゃない。
そう自分を納得させて、口を開く。
可愛くて優しくて頭が良くて素直で、でもたまに弱い表情を見せて俺を惑わせて……。普段は大人しいのにいざという時は肩関節を外して来て……。
――でもそれも、嫌じゃなかった。
初めて関節を外された時は流石に驚いたけど……でも、咲夜を嫌いになるとか、そんなことは一度もなかった。
同棲は、咲夜のことをたくさん知るいい機会だったな。文化祭の時、初めて咲夜の「怒り」という感情を見た気がする。そして、泣き顔も初めて見た。
笑う時は声を上げて笑うことも、泣く時は声を殺して泣くことも。父親が――大好きだってことも。
全部、文化祭を通して分かったことだった。
――俺達の出会いは体育祭だったけど、始まりは文化祭だった。
きっと文化祭がなければ、咲夜は俺に「好き」だなんて言わなかっただろう? だって好きになるきっかけは文化祭を通して生まれたんだから。
――伝えよう。
しっかりと、自分の気持ちを隠さずに。
俺を「好き」って言ってくれた咲夜に、言おう。
「俺さ――――」
ゆっくりと口を開いて、俺は自分の気持ちを口にした。勇気を出して告白してくれた咲夜に、想いが伝わるように。




