渾身の○○○
帰宅部のクリスマスパーティーが三日後に迫った月曜日。週明け特有の眠気に勝利した俺は、部室への道を歩く。その途中、同学年の女子生徒数名に「あれって帰宅部の……」と囁かれたり。
(……帰宅部も偉くなったもんだな)
その子達とすれ違う時、心の中でそっとそう呟いた。四月の段階では西内に「帰るだけ」だの何だの言われていたのに、今では部として認識されるまでになっている。
やっぱり、異例だったってのが大きいのかもな。それに加えて体育祭の『部活動種目』では一位を取ったりと、結構な成績を残したし。
少しだけ帰宅部に所属したことを誇っていると、後方から先程の女子達の会話が聞こえて来る。
「帰宅部って変な人ばっかなんでしょ……?」
「あっ! それ聞いたことある! 顔はいいのに性格が残念みたいな!」
「あはははは! じゃああの人も?」
「瀬戸……だっけ? 何か、西内先生と付き合ってるらしいよ~」
………………付き合ってねえよ!!!
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「……パーティーはどこでするの?」
不名誉な称号(=西内の彼氏)を押し付けられた俺は、心の目で女子達を睨みながら部室まで来た。……ったく、何が西内と付き合ってるだ。どうして俺があんな性悪と……。
「そうだね……決めちゃわないとね」
今日も今日とて可愛らしい笑顔を咲かせている咲夜が、顎に手を当てて考え込む。
「雪雛の家も大丈夫なの?」
「……うん」
月夜が雪雛にそう確認を取って、「じゃあ」と口を開いた。
「――あみだクジしましょうよ」
あみだクジか……確かにこの人数ならあみだクジでもいいかもしれない。ただクジを引くよりも盛り上がるし、緊張感みたいなものもあるし。
満場一致で、パーティーを開く家は「あみだクジ」に委ねられることに。……まあ、どうせ「俺の家は無理」なんて言っても聞いてもらえないだろうから、何も言わないことにする。
最悪俺の家になったら、父さんと母さんにはどこかで食事でもしてもらえばいいし。……二人には悪いけど。
「じゃあ私が作るねっ」
丁度、勉強の為にノートを開いていた咲夜が持っていたシャーペンでクジを作り始める。俺達には見えないようにクジを完成させて「はいっ!」と言った咲夜。……やっぱり楽しそうだ。
きっと親の関係で、こうやって同学年の友達とパーティーなんてことをして来なかったのだろう。だから楽しみで仕方ない……まあ、可愛いじゃないか。
「どこがいいか、せーので指差して決めようぜ」
俺が無難な提案をすると、月夜が「せーの」と合図をかけてくれた。ふむ……、
俺⇒左 月夜⇒左から二番目 雪雛⇒窓の外。
一から四まで振られた数字の下には、幾度も交差を繰り返す線が延びている。その内、俺は一番左の『一』を選択し、月夜はその隣の『二』を選択した。……当然、クジを作った本人である咲夜は選択権なし。
「別れたな……ジャンケンでいいか?」
「ええ。じゃーんけーん――」
俺⇒グー 月夜⇒チョキ 雪雛⇒変顔。
「――じゃあ一番から始めるね!」
一と書かれた漢数字に赤ペンでクルッと丸を付け、咲夜はその下に延びた線をなぞって行く。
「~~~♪」
鼻歌交じりにクジを進めると、すぐにゴールに辿り着いた。
「決定~! えっとね……」
咲夜が、丁寧に二回折られた下部の、結果が書かれた紙をピラリと捲る。そこに書かれていたのは――、
月夜の家。
――どうやら今年のイヴ……月光美影と鉢合わせすることになりそうだ。
「……うぅ」
そして、窓の外を指差してみたり、変顔をしてみたりと、ボケにボケたのに誰にも触れてもらえなかった雪雛は、涙目で唸っていた。
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「……瀬戸君、最近の子は笑い足りないと思わない?」
今日も一時間という活動を終え、三人と帰っている。この季節になると外は寒いし、日はすぐ落ちるしで、女子を一人で帰らせるのは危ない。
……そういえば咲夜、前に帰り道で『怪しい中年の男』に声をかけられたって言ってたし。
「何を急に……」
そして、俺の隣を歩く雪雛も顔は十分過ぎる程だ。危ない目に遭ってもおかしくないし、むしろ可能性は高い。それは月夜も同じく。
しかも雪雛の場合だったら変な奴に絡まれても「ご機嫌麗しゅう」とか言っちゃいそうだし……。
「……最近は私みたいな笑い上戸が減ったと思わない?」
「どこに笑い上戸がいる!?」
滅多に声を上げて笑わないじゃねえか!
「……さっきも私の渾身のボケをみんなしてスルーした」
まあ、反応し辛かったしな。つーか渾身のボケって……。
「……ところで瀬戸君。相談があるの」
――急にトーンを落として、雪雛は俯いた。夕焼けの光を浴びて変化した髪色が、哀愁を感じさせる。こういう時の雪雛は、ちゃんと問題を解決しなければ事態が悪化する傾向にある。
「どうした?」
だから、俺が真剣になって手助けをしよう。何ができるかは分からない。無理な話かもしれない、無茶な話かもしれない、けど……無駄じゃない。
「……あのね」
「おう」
顔を上げてしっかりと俺を見据えた雪雛は、とんでもなく綺麗に決まったドヤ顔で言う――。
「――内容は無いよう」
久し振りにイラッと来たのは内緒だ。




