まとめ役
「一年B組、E組の生徒ー、全員聞こえるかー?」
二クラス分の生徒が席に着いたのを確認すると、西内が右手をグーにして頭上に突き出した。その姿はまるで向かって来る敵を無双した騎士のようでもあった。
そんな姿を見た生徒は、固唾を呑んで紡がれる言葉を待っている。まさかこの西内から「文化祭、楽しむぞ」みたいな台詞が――
「これからジャンケンでここにいる全員のまとめ役を二名決める」
――聞ける訳ないよな!
「全員手を出せ。ジャンケンで負けた二名は文化祭終了までの間、雑よ――ん゛んっ! えー、会計とか片付けとか司令官とか、まあいろいろやってもらうことになる」
……今コイツ絶対『雑用』って言おうとした。絶対言おうとした。つーか仕事内容がもう雑用じゃねえか。
「各クラス一名ずつが好ましいが……まあいい。運の無い奴は自分を恨め」
西内のこの発言に、E組の生徒が「何それ」といった顔をしている。……まあ、普段はコイツと絡む機会なんて無に等しいからなあ。免疫あるのなんて辛うじて咲夜くらいだし。
「行くぞー最初はグー、ジャーンケーン……」
明らかにやる気ゼロの掛け声に嫌々手を上げる生徒。……って、この人数を二人でまとめるって結構な重労働だな。
俺⇒グー 西内⇒パー
「グーだった奴、立て」
あいこも勝ちかよ!? グーを出した生徒はおよそ三分の一くらいにまで減っている。ヤバい……勝たなきゃ、ただでさえ遅い帰宅時間が更に……!
「行くぞーじゃーんけーん……」
なっ!? コイツ、「最初は~」の下りを省きやがった! 俺の心理戦作戦が台無しじゃないか! くっそ……コイツは何を出す!? グーか? ああもうどうとでもなれ――!
俺⇒チョキ 西内⇒チョキ
「あれ……?」
勝った……。いや、あいこだけど勝った……。ということは――!
「パー意外、座れ」
――よっしゃああぁぁあぁああぁぁ!!!
これで最悪は免れた!
「じゃーんけーん……」
飽きっぽい西内の掛け声が段々と短くなり、遂に「けーん」から始まるジャンケンになってしまったその時、決着はついた。
「ったく……やっと終わったか。っつーことで、B組とE組のまとめ役は……今立っているB組坂場世良と、E組涼月咲夜だ」
紹介された二人は軽く頭を下げて――って咲夜!? ま、負けたのか……。
『ああああ、あの!』
――え?
急に、咲夜が帰宅部に入部した経緯が頭を過ぎった。そういえば咲夜の親って凄い厳しいんじゃなかったっけ? 後から聞いた話じゃ、門限も早いって……。
「無理じゃねえか……」
隣に座るクラスメイトに「どうした?」と声をかけられ、上の空状態で「いいや」と答えた。
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「西内!」
顔合わせと出し物の打ち合わせが終わり――ちなみに俺達B・E組の出し物は『メイド喫茶』と『お化け屋敷』になった――各自解散となったところで、会議室から出て行った西内を捕まえた。
「何だ瀬戸。いつまで教師を呼び捨てにして――」
「そんなことより! 咲夜がまとめ役って、無理なんじゃ――」
「――だろうな」
「だったら!」
反論を試みた俺に、西内は「……はあ」と一息吐いて遮った。
「一人の生徒を特別扱いしたら、やっかまれるのはソイツ――涼月なんだぞ? 理解しろ。今ここでもしもアイツをまとめ役から引き摺り下ろしたとしても、その埋め合わせは誰がやる? 涼月の為に自分がやるって思うヤツと、何でアイツだけ特別なんだって思うヤツ……どっちが多い?」
ここで咲夜にまとめ役を続けさせるのは、咲夜の為……? そんな……そんな馬鹿げた話――俺は認めない。
確かに咲夜はいろいろと言われるかもしれない。じゃあそれを言わせなければいいんだ。第三の道を、自分で作ればいい。
「――なら、俺もやる」
咲夜と代わるのは駄目だ。もう一人の坂場から何か言われる可能性があるから。……じゃあ、俺が加わって少しでも作業効率を上げるしか手は無い。
――ピシィン!
「いってえ!」
突如繰り出される、ノーモーションからのデコピンに、涙目になってしまった。……いや! でもこれマジで痛いからな!
俺に攻撃できたからか、満足そうに微笑んだ西内は、
「――それが正解だ」
と、これまた満足そうに告げて歩き去って行った。――って!
「俺……攻撃され損じゃねえか!!」
くっそ……次会ったら覚えとけよ……。絶対デコピン二発は喰らわせてやる……。
何故か、西内への恨みは晴れないのに、俺の心は晴れていた。まあ……西内もたまには役に立つな。十六年に一回くらいは。
「――確かまとめ役はこれから会議あるって言ってたよな」
ふと、そんなことを思い出した。つまりこの会議なるものには俺も参加しなければいけない……よな。でも遅れて出て来てどう説明すればいいんだ? ……まあとりあえず向かおう。
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『――徒に危険な行為をさせるようであれば、そのクラスの出し物は永久封印となりますので注意して下さい。』
会議中と思われる教室の前に辿り着いた俺は、どうするか悩んでいた。
――どう割り込む?
話の内容的にも、強引にというのはあまり望ましくない。ここは無難に静かに入って近くの先生に事情を説明するか。
コンコンッ。
『誰ですか?』
外からでは声が篭っていて、誰が話を進めているのか分からなかったが、どうやら佐伯先生のようだ。扉を少しずつ開いて行くと……会議室内にいた生徒・先生全員の視線がこちらに注目した。
「えーっと……訳あって俺も『まとめ役』に加わることになって……」
あまり直接的に触れてはいけない部分もある為、濁しながらの説明となる。……この場には咲夜もいることだし。
「……事情は分かりませんが、とりあえず座って下さい」
「はい」
きっと後から説明してくれると思ったのだろう。佐伯先生は俺に着席を促した。
「せ、瀬戸君……どうしたの?」
空いている席が丁度、咲夜の隣の席になってしまい、当然のようにその質問が投げかけられた。
「あっいや……ほ、ほら。説明聞こうぜ」
目を逸らしに逸らして、この場を切り抜けようとするが……咲夜は俺にジト目を向けたまま「ふうん」と、納得行かなそうにして視線を前に戻した。
「……後で関節技ね」
そんな声が聞こえて来たのは、幻聴だと思いたい。




