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帰宅部だって立派な部活だ!  作者: 儚夢
3.迫り来る期末テスト
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転校生がもたらした

 月光美影と出会ったのは、二年前の夏のことだった。


「ねーねー聞いた? ウチのクラスに転校生来るんだってー!」

「聞いた聞いたー!」

(そんなんどこで聞いて来るんだよ……)

 女子達のそんな話に心の中でツッコミを入れた俺は、真夏の日差しに滅入りながらも自席で本を読んでいた。

 中学二年生の夏なんて、何もしていなかった記憶しかない。教師からは「中だるみの時期」とまで言われ、俺は部活に所属していなかったし、本当に何も無い日が続いた。


 そんな時期に俺の通う学校へ転校して来たのが、月光美影。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「――戸! ――瀬戸!」

 誰かの声が聞こえる……。でもそれは、耳に入って来るのではなくて頭に直接響いているような感覚。……この声は月夜か。

「……瀬戸君!」

「瀬戸君っ!」

 続いて行き雛と咲夜の声も聞こえて来る。俺を心配してくれているのが顔を見なくても分かった。この数ヶ月間、四人で放課後という貴重な時間を過ごして、コイツらのことが大いに知れた。

 月夜は誰よりも周りに気を配っていて、雪雛は自分の気持ちを素直に伝えるのが苦手で、咲夜は何でもできるのに何かがちょっと抜けていて。

「おい瀬戸!」

 ……って西内もいるのかよ。……奴はいつも俺と喧嘩して……でもきっとそれは本当に望んでいることじゃないってことは、俺がよく分かっている。


 俺の周りには優しい奴らばっかだ。


 二年前とは違って。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「今日からこのクラスで一緒に生活する子がいます」

 担任の服部という初老の先生が朝のHRホームルームでそう言ったのを合図に、クラス中から黄色い声が上がる。

 俺からしたら転校生が来たってだけで騒ぐ理由が見つからないので、無視してジッと窓の外の景色を眺めていた。

 歓声にも似た声が飛び交う中、服部先生が「おいで」と、廊下にいるのであろう転校生に声をかけた。


「月光美影です。宜しくお願いします」


 案の定、廊下に立っていた転校生は教室の中へ。そして、静まり返った教室に響いたのは凛とした透き通る声だった。

 思わず俺も、顔を上げて転校生――月光美影の姿を目視した。


「えと……沖縄から来て間もないので分からないことだらけですが、困った時は助けてくれると嬉しいです」


 月光美影は微笑んだ。だが俺にはそんな笑顔よりも――、

(沖縄って……真っ白じゃねえか)

 ――その病的な程に白い肌に目が行った。沖縄から来たなんて話は到底信じられない。

「ということなので皆さん、月光さんと仲良くして下さいね。月光さんの席は……鈴木君の隣にしましょう」

 そう言って服部先生は、そそくさと教室から出て行った。鈴木が羨みの視線を向けられるのを察知したのだろう。でも――、

(月光美影ね……)

 可愛い転校生が来た。――飽くまでも俺の中では、それくらいのことだった。




 月光が来てからすぐに日直は一周し、席替えを迎えた。鈴木は非常に残念がっていたが。

 俺も一人席から離れるのを苦々しく思いながらもくじを引く為に教卓に近付く。袋の中でかき混ぜられた紙片を一枚手に取って中を見る。


 十五


(服部先生……どうして漢数字で書いた?)

 などと、伝説化した服部先生の漢数字乱用に息を吐きながら、十五の席を黒板で探す。……げっ、廊下側かよ。

 最悪だ……。これじゃあ授業中に窓の外見れないし、廊下見ても給食のおばちゃんしかいない……。

(せめて……隣の席の奴だけは……)

 なんて希望を胸に、俺の隣――十九の紙――を引いた生徒に目をやる。――と同時に、息が詰まったような感覚に陥る。そこにいたのは――、




 ――鈴木。




 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 月光美影が来てからたったの二ヶ月で、クラスはおかしくなった。

 男子共は月光に仕える執事と化し、女子は女子でしもべのようになっている。

 まるでペットだった。

 気持ち悪いとさえ思った。可愛い転校生が一人来たくらいでここまで豹変するクラスが。一人一人が狂っているのだ。

「なあ鈴木……」

 俺は躊躇いながらも数日後の席替えで離れ離れになるであろう鈴木に声をかけた。

「何だぁ……?」

 月光がもたらした災害の一つ目がこれだ。何をしている時でも常に上の空。全く会話にならない時だって珍しくない。

 そして二つ目が――、

「月光のどこら辺がいいんだ?」

「……全部」

 ――ほとんどの会話において、「全部」という言葉を使うようになった。特に『月光』という名前が出たら。

「はぁ……」

 もう会話にならないんだ。どうしようもない。俺は一息吐いて、本を開いた。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 そして数日後。クラスの大半が待ち望んでいた席替え。この学校じゃあ女子同士が隣の席、なんてことも引いた数字によってはありえるので、誰もが月光の隣に座れるのだ。

(今度こそは月光感染者以外で……)

 俺が勝手にネーミングした『月光感染者』とは、主に鈴木のことを言う。


 十五


(またか……)

 引いたくじには、またしても『十五』と書いてあった。一応黒板で席の位置を確認して、振り向く。今回十九の紙を引いたのは――、





 ――月光美影だった。





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