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帰宅部だって立派な部活だ!  作者: 儚夢
1.『帰宅部』結成!
3/77

自己紹介

「「「…………………………」」」

 とりあえず四人掛けのテーブルに腰掛けてはいるが、誰も口を開こうとはしない。それぞれが自由なことをしている。俺は読むのを中断させられたミステリー小説の続きを読もうと鞄を漁っている。そして月光とやらは俺と対角線上の位置に座り、机に勉強道具を広げている。それから霧平とやらは窓際でずっと外を眺めている。

 まぁ、自分の好きなことしてでも良いから集まれって言ったのは西内先生だからな。そこら辺は言われた通りにさせてもらうけど。

 ついに犯人が誰か分かるミステリー小説を開いて、続きを読み進める。


【犯人は……】


 そうそう、ここで俺が校内放送で呼び出されたんだっけ。くそっこんなことならさっさと帰れば良かった。


【唯一このトリックを成し遂げることが出来た二十時に自室に居たという……】


 えっま、まさか被害者の妻? で、でも二十時に自室に居たのは被害者の妻しか居ないよな……まさかまさかまさか、俺の推理が当たってた……だと?

 実は俺は前々から、小説を読み進めている時に「これって妻犯人なんじゃね?」と思うことが多々あった。これは本当だ。……それが当たっていたとなると――、



 ――俺は探偵になれるかもしれない。



 馬鹿なことを思いながらもはやる気持ちを抑えながらページを捲る。


【……被害者の奥さん、あなただ!】


「うぉほっ」


 ……………………………………………………。


 何とも言えない沈黙が、5-3部室内を制す。

 俺の口から出た、人体の反応とは思えない奇声。自分の推理が合っていたことによって発せられた喜声きせい。二つの意味を持っているが、俺からしたら後者で、月光と霧平からしたら恐らく――

「ちが――」

「……キモ」

「人間とは思えないわ」

 ――余裕で前者だろうな。俺に弁明の余地すら与えてくれないなんて。

 ちなみに、「……キモ」と言ったのが霧平で、「人間とは思えないわ」と言ったのが月光だ。この二人はたったの一言で人を傷付けられる特殊能力が備わっているらしい。

「くっ……否定はしないが、せめて理由くらいは訊いてくれないもんなのか?」

「ごめんなさい、私は人語じんご以外は話せないの」

 最早俺は月光に人間とすら認めてもらえていなかった。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「……ふぅん」

 事情を説明して月光には何とか理解はしてもらえたようだ。霧平はずっと窓の外を眺めていて、俺の話を聞いていたのかすら分からない。

「……なぁ、俺らってきっとこの三年間……いや、引退入れたら二年半くらいか? 一緒にこの部で活動する訳だろ? 俺は入部しろって言われて、他の部員が居るって聞いて、仲良くしようとは思わなかったがそれでもやっぱりちゃんとした自己紹介くらいはしておかないか?」

 この時の俺は、本気でそう思っていた。仲良くしようと思った訳ではないが、苗字しか知らないってのもどうかと思ったし、何より――


 ――何だか楽しくやって行けそうな気がするし。


「……まあ、そうね。苗字は知ってるだろうから……」

 月光が渋々といった感じで頷き、手に持っていたシャーペンを机に置いてくれた。

「下の名前は月夜つくよ

 月光月夜か……再びシャーペンを手に取って手元のノートに漢字を書いてくれたから字が分かったけど、綺麗な名前だな。何だか苗字と下の名前が連動しているような名前だ。

「よく人に『苗字と下の名前が連動してるね』って言われるけど、そう言った奴の視力は私の人差し指と薬指で低下したわ」

 前言撤回。月光月夜か……本当に綺麗な名前だ。

「……後は何を話せばいいの?」

 己の右人差し指と薬指を黒笑を浮かべながら言う月光。帰ったらコイツを『近付かない方が良いで帳』に加えておかなければな。

「えっと……じゃあどこの中学だ?」

 俺は何気に気になっていたことをさらりと訊いてみた。……が、


「言いたくないわ」


 睨まれてしまった。えっ俺何かした?中学訊いちゃダメですかね、このご時世。

「じゃ、じゃあ誕生日とか血液型とかかな」

「七月二十四日生まれ、A型」

 即答された。ってかこんなこと訊いてどうするんだよ、俺は。

「お、おう。えっとじゃあ次は……」

 俺か霧平か、どちらが先に自己紹介するべきか思案していると、霧平が窓際から離れて俺の隣の空いている席に座った。どうして月光の隣ではなく俺の隣に来たのか一瞬だけ疑問に思ったが、月光の隣の席には月光のものと思われる鞄が置かれていた。

「……雪雛ゆきひな。六月九日生まれのB型。東雲とううん中学校卒業」

 淡々(たんたん)と自分の情報を告げる霧平。

「東雲中か、じゃあ俺と同じだったんだな」

 全然気付かなかった。霧平よりも月光の方が見たことあったような気がしたんだけどな……。

「……っと、俺は瀬戸雪哉。誕生日は十二月二十五日で、血液型はA型。中学は霧平と同じ東雲中だ」

 最後に「まぁ宜しく」と付け足す。この三人で、果たして話すことがあるのかは分からないが、一応社交辞令みたいなもんだ。

「ん、宜しく」

「……宜しく」

 月光も霧平も、きっと悪い奴ではないだろう。これは飽くまでも俺の憶測でしかないが、この二人は多分打ち解けたらガンガン話せるタイプだと思う。実際に今だってちゃんと話している人の顔を見て、自分の作業をストップさせているのだから。

 まぁ、霧平が特に何かしていたという風には見えなかったけど。

 とにかく、これからの二年半くらい、俺はこの二人と放課後を共にすることになる訳だ。さっきまでは乗り気ではなかったが、こうなってみると意外と楽しみになるもんだな。


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