表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰宅部だって立派な部活だ!  作者: 儚夢
1.『帰宅部』結成!
2/77

悪魔からの条件

 一、毎日最低でも一時間は部室で活動をする事(事前に申し立てが有れば校外での活動も認める)

 一、必ず一週間に一度部活の活動記録を提出する事(テスト前を問わず)

 一、途中退部は認めない(退学・転校は例外とする)


「どうだ」

 至極面倒臭そうに言う西内先生は、それでもどこか楽しそうに見えた。きっと俺をいじれて嬉しいのだろう……生徒を弄るのとか好きそうだし。

「嫌です。大体、毎日一時間居るなら他の部活と変わらな――」

「二時間でも良いんだぞ?」

「くっ……」

 悪魔め……!だが、このままだと本当に二時間にされてしまうかもしれない。ここは西内先生の気が変わらない内に返事をしていた方が利口だろう。

「…………っ」

 無理だ……部活をするなんて、俺には無理だ……! 何でこんなことになるんだ。どうして放課後に一時間も学校に居なければならないんだ。そもそも、どうして一週間に一回活動記録とやらを提出せねばならんのだ。

 だが、教師の立場上やっぱり生徒を無理矢理にでも部活に入部させなければいけないのだろう。くそっ、どうしてこんな時に限って俺の良心は働こうとするんだ! 絶対に認めんぞ……!

「一時間を……せめて三十分に――」

「そうかそうか、三時間も部活をしたいとは感心だな」

「一時間でお願いします!」

 全力で頭を下げた。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「実はな、もう部室が用意してあるんだ」

 校舎とは別に備えられている公立東雲高等学校の部室棟に連れられた俺は、我が身に降りかかった災難に頭を悩ませる。部活なんてしたくなかったのに『部活入部強制制度』の所為せいでそれは夢に終わった。

 ってちょっと待て。

「部室が用意してあるって、どういうことですか」

 『部活入部希望調査』から一週間しか経ってないんだぞ、そもそも俺一人しか部員が居ないんだ。一人の為にそんな早く部室を用意できるもんだろうか?

「いやな、お前以外にも部員が居るんだ――っておい、部室はこっちだ」

 百八十度方向転換をして玄関に向かおうとして俺の右肩を、西内先生が掴む。

「聞いてねえぞ、部員が居るなんて……」

「言ってないしな」

 忌々しげに呟く。と同時に俺の右肩がミシミシと音を立てる。くっ……この際肩の痛みなんか気にするもんか。絶対帰ってやる。一人だけの部活だから俺は条件を呑んだようなものだ、他に部員が居ると分かっていたら絶対に呑まなかった。

 そもそも、そんな大事なことを何故今まで黙っていたのか訊いてみたいもんだ。

「さぁ、部室に行くぞ」

「絶対に、嫌だ……!」

 どうしてだろう、右肩がミシミシからギシギシという音を立ててるように聞こえる。き、きっと気のせいだよな。何だか右腕の自由が利かないのは、きっと朝ご飯に牛乳を飲まなかったからだよな。いつもは牛乳飲んでるから……だからいつもと調子が狂うんだよな。

「さぁ、部室に行くぞ」

「俺は家に、帰るんっ……脱臼するくらいに肩が痛いぃ!」

 降参です先生。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「よーっす」

 西内先生が部室棟の5-3と書かれている扉を勢いよく押し開ける。扉の隙間から見える視界が徐々(じょじょ)に広がって行き――、

「先生さようなら、皆さんさようなら」

 ――小学生みたいな別れの挨拶をして玄関に向かって猛ダッシュをすることになった。


 ミシィッ。(←西内先生が俺の左手首を掴む音)

 ブンッ。(←俺が西内先生の手を振り払おうとする音)

 バフッ。(←西内先生が5-3部室内のすぐ近くに在った黒板消しを俺の顔に押し付ける音)


「ぶふっ!」

 目の前が真っ白になるっていうのは、こういうことだろうか? 随分と粉々っぽい表現をしたもんだな、昔の人は。

「大人しく入れ」

 西内先生が俺の背中をバンッと押して5-3部室内に無理矢理入らせた。……俺が逃げ出そうとした理由、それは――


「――先生、コレは何ですか」


 俺のことを指指して言う、一人の少女から発せられる凛とした声。この部室内に居る中で、最も早く口を開いたその少女には、見覚えが有る。確か俺と中学が同じだったはずだ……えっと名前は……。

「まぁ落ち着け月光げっこう。ソレは新入部員だ」

「コレとかソレって酷いだろ……俺は瀬戸雪哉だ」

 ……月光か。あんまり記憶に無いな、向こうも俺のことは知らなさそうだし。きっと廊下で何回かすれ違ったことが有るとか、そんなところだろうな。見覚えの有る顔だったから逃げ出そうとしたけど、記憶に無いみたいで助かった。

「ふぅん……私は月光。今なら様付けで呼ばせてあげるわ」

「間に合ってる」

 何の勧誘だ。ファーストコンタクトが様付けどうのこうのって、結構寂しいもんだぞ。

 月光と呼ばれる女子は、俺の自己紹介をどうでも良いようにさらりと流して、自分の紹介もついでに済ませた。実際に下の名前は教えてくれなかったしな、本当にどうでも良さそうだ。

「ん? 霧平きりひらは今日は居ないのか?」

「いえ、今は図書室に本を借りに行ってるので……そろそろ戻ると思います」

「そうか」

 何だろう、俺が黙っている間に会話がよからぬ方向に進んでいる気がする。霧平って誰だよ。

「………………誰?」

「うぉっ」

 急に背後から聞こえる静かな声。振り向くと、そこには俺よりも少しだけ背の低い少女が立っていた。長い黒髪をポニーテールに結わえているリボンのピンク色が印象的な、見るからにお嬢様のような子。第一印象は『美人』だ。俺を見て警戒心を丸出しにした子犬のような表情になっている。

「よし、全員揃ったところで自己紹介でもしててくれ。私は職員室に戻る」

 そう言って、西内先生は5-3教室を出て行った。

「「「…………………………」」」

 誰もが予想していたであろう沈黙が、随分と長く続いた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ