体育祭当日~努力の結果~
『――えー、十四時三十五分より、部活動種目を開催致します。出場者の皆様はそれぞれ指定された場所へ行き、準備を行って下さい』
場内アナウンスが響き渡り、俺達帰宅部はグラウンドの一角へ集められる。目印はもちろん顧問である佐伯先生だ。決して西内じゃない。アイツはファンシー部の顧問だからな。
「えー、全員揃いましたね?」
そういえば、この学校の顧問の数ってどうなってるんだろうか。明らかに百を越す部活だったが……それでもまだ顧問をしていない人は二十人はいたからな……。掛け持ちの先生とかもいるのかな? そうしないと教師が足りないだろうからな。
「部活動種目ですが、急遽変更になりました。帰宅部が四人に増えたことで元々予定していた競技が中止になり、新たな競技が――」
佐伯先生が部活動種目についての説明を施してくれる。そうか、『どっかの部が三人だから三人でできる競技にした』ってのは帰宅部のことだったのか。
「先生、競技って何なんですか?」
佐伯先生の説明が一通り終わったところで、月夜がずっと気になっていたであろうことを訊いた。散々騙されてるだの何だの言ってたからな。
「くじ引きです」
「「「「……は?」」」」
帰宅部全員の心が一つになった。
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「はぁ……くじ引きって……何が当たるか分からないじゃない」
「……それがくじ引き」
すっかり落ち込みモードに入ってしまった月夜と、それを慰めて(?)いる雪雛。涼月は俺と一緒にちょっとばかし世間話をしている。
「ねえ瀬戸君、私のことは咲夜って呼んでね?」
「えっ何で?」
思わず聞き返してしまった。何だろう……凄く意外っちゃ意外だった。
「だって……二人のことは下の名前で呼んでるのに、私だけ苗字なんて嫌じゃない」
そういう……もんなのか? 俺はどうせどう転がっても『瀬戸』と呼ばれるのが運命みたいなもんだから気にはしなかったけど。
「ん、了解」
だがまあ、本人がそうしろって言うんだから従おう。
「私も瀬戸君って呼ぶから」
「いや、『も』の使い方がおかしいと思うんだ」
『も』って言ったら自分も下の名前で呼ぶねって意味になると思うのは俺だけだろうか?
「それじゃあ瀬戸君、改めて宜しくね?」
「ん、おう。宜しく」
彼女は困ったように微笑んだ。……その表情が示す意味を、俺は知らない。
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『――それでは、只今から部活動種目を開催致します。まずは第一戦の女子バスケットボール部、水泳部、美術部、男子バドミントン部、茶道部の代表者は、前に出て下さい』
ついに部活動種目が始まる。この部活動種目はあまりにも部活動数が多い為、一試合で五つの部が戦うということを二十二回繰り返す。二十二戦目の部にとってはそうとう耐久力が試されることだろう。
ちなみに、どの部が戦うかもくじ引き。
『それでは抽選の結果、茶道部部長が対戦種目のくじを引きます。どうぞ。………………えー、第一戦の競技は綱引きです!』
準備に時間がかかる分、試合時間は意外と短い。どれも短期勝負になるし、たとえ決着がつかなくとも時間を決められている為、強制終了となる。………………って、え? 綱引き?
「なあ、五つの部で一斉に綱引きって……できるのか?」
「……できる……のかな?」
不思議に思って隣にいた雪雛に問うが、その返答は俺の思い通りのものだった。五つの部で綱引きって……。
グラウンドの中央に目を向けるとそこには――、
「カオスだな」
「カオスね」
「……とんだカオス」
「か、カオス?」
――確かに五つの部、総勢二十名がきちんと綱を握っている。ただ、その綱は星型に伸びている。
これって……綱引きって言うんだろうか。
ピ――――!!!
綱引き開始の合図が鳴り響く。一斉に綱を引く総勢二十名。
「なあ、これって綱引けてるか?」
「……全然」
見ていて、全く綱が動く様子が見られない。やがて、数十秒経って終了の笛が鳴り響く。観客が固唾を呑んで見守る中、告げられたのは――。
『第一試合の結果……引き分け! よって、二回戦出場の部は無しです!』
それはないだろう……。
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『第十九戦目でーす。卓球ー園芸ー女バレー合唱ー帰宅部ー前へー。抽選は女バレー部部長どーぞー』
初めは覇気のあったアナウンサー(多分三年生)も、今となっては面倒臭いのか疲れたのか、放送中に欠伸までするようになった。
『はーい、種目は――』
ようやく、俺達が努力して来た成果が露になる。毎日の放課後に走りこみ、そして放課後に走りこんだ成果が。
「月夜、頑張ろうな」
そして、この体育祭に向けて一番頑張っていた月夜に声をかける。彼女は緊張した面持ちで「うん」と呟いてしっかりとアナウンサーの方を向いた。その目は、真剣そのものだ。
彼女の為にも、俺達が一緒に頑張るんだ。同じ部活の部員として、彼女の頑張りを見届けて来たのだから。
苦手な運動を……走ることが苦手なのに頑張った姿を、見て来たのだから。
『――平均台でーす』
今年一番の裏切りだよ畜生!
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『結果発表! 優勝は二年C組! おめでとう』
ついには閉会式となってしまった。この学校の体育祭、競うのは同学年じゃなくて学校全体らしい。全体で二十四学級在る内、俺達一年B組はなんと二位という好成績を残した。
『――部活動種目優勝は……帰宅部! おめでとう』
校長先生に渡された賞状をまじまじと見つめてみる。この結果、誰も納得していないだろう。
結局、平均台は勝って第二回戦に進めた。だが、その時点で残っていた部が五つしかなかった為、二回戦が決勝戦となったのだ。え? 他の部はどうしたって? まあ……引き分けで全滅。
そしてその決勝戦の種目が『玉入れ』。果たして、月夜の努力はどこに消えたのだろうか。
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「あーもう……何の為に毎日走ったのよ!」
部室にて、火曜日なのに活動記録を書いている月夜。そんな彼女に俺は「勝ったからいいじゃないか」等と声をかけている。
「そういう問題じゃないのよ! 私の努力した結果が、平均台と玉入れ!? 舐めんじゃないわよ!」
……そんなにキレることだろうか。いや、キレるか。
「それにしても、月夜の平均台上手だったね~。バランス感覚いいんだね!」
咲夜がその場を取り繕うように言う。
「そうかしら? 私は雪雛のバランス感覚の方が凄いと思うけど?」
確かに、雪雛の平均台は凄かった。あんな幅が数センチしかない棒の上で平然と歩いていられるなんて……俺にはできない業だ。
「……私は瀬戸君の平均台も凄いと思うけど?」
凄いって程じゃないと思うけどな……途中落ちそうになったし。……そういえば、あの時聞こえて来た笑い声、後で始末しておくか。聞き覚えのある声だったし。
「俺は咲夜も凄いと思うぞ? 一回もふらついてなかったし」
「そ、そう……? えへへ……」
結局は褒め合いとなってしまう。だが、咲夜は素で喜んでいるように見える。
「さてと……活動記録、書き終わったんだろ? 帰ろうぜ?」
「ん、帰る」
とりあえず、月夜の怒りも収まったみたいだし。
部室を出て――新メンバーが加わった帰宅部員の体育祭は終わりを告げた。




