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帰宅部だって立派な部活だ!  作者: 儚夢
2.東雲高校体育祭!
11/77

三週間という短い期間

「悪い、掃除で遅くなったー」

 体育祭まで後三週間と宣告された翌日の放課後、俺はいつものように部室棟5-3教室へと向かっていた。途中、担任の西内先生が「ホントに部室に行くのか?」と俺に聞こえるくらいの声で後ろをついて来たが、一切関わらなかった。

「……瀬戸君、こんにちは」

「おう」

「死ね」

「無理」

 一言の挨拶を終え、席に着く。そういえば帰宅部に所属する――厳密に言うとこの部室に通う――ようになって、結構先生とかにも挨拶する習慣がついて来たと思う。やっぱりこういう面でも部活動って必要なんだよな。

「……瀬戸君は体育祭の部活動種目、聞いた?」

「ん? ああ。今年は三人でも出来る種目って言ってたな」

 なんでもどっかの部活の人数が三人だからそれに嫌々合わせただとか。

「……うん。各部で三人選抜して競技を行うって」

「へえ。頑張ろうな雪雛、月夜」

「……うん」

「クズ」

 さて、今日はこの時間を使って何をしようか? 雪雛はいつものように特に何もしていなくて暇そうで、月夜はわら人形を作るのに忙しそうだし。う~ん、本当に何も無い日って暇なんだよな。

「なあなあ、しりとりでもしないか?暇潰しに」

「……うん、いいよ」

「じゃあ俺からな……リス」

「……スイカ」

「カス」

「『す』……寿司」

「……染み抜き」

「キモい」

「『い』……胃」

「イロハ」

「爆ぜろ」

 こんな感じでしりとりは続き、雪雛が『ん』で終わってしまったところで終了とした。何だかんだでしりとりも暇つぶしになるもんだな。

「い――」

「バカ」

「今のはいくらなんでも見逃せないぃ!?」

 『い』しか言ってないのにバカ呼ばわりされるって……俺どんだけ嫌われてんだ。話題転換だろうが……。

「ったく……さっきから黙っていれば罵倒ばっか、なんなんだよ」

 せっかく人が聞き逃してやろうと思ってたのに。

「………………」

 ギロリと俺を睨む月夜。……そ、そんな目をしたって無駄だからな! 俺は惑わされないっ、この怖さに負けて謝ったりなんて――「ごめんなさい」――しない!

 あれ!? 俺の本能が謝罪を選択した!? これが脊髄反応ってヤツか。なるほど、俺もいい脊髄を持ったもんだ。

「アンタ、昨日私のパン――」

「いやぁいい天気だなぁ!」

 危ねぇ……! コイツ雪雛の前で何を言おうとしてるんだ! 事実だけどそんなことを言われたら、俺は社会的に死んでしまうだろうが! そもそも、昨日のアレは自業自得だろ! お前が俺の弁慶様を蹴ったから罰が当たったんだ!

 大体、あの後俺の顔面に回し蹴りした時にも見えてたぞ。

「最っ低、クズバカゴミアホ歩く変態死ね死ね死ね死ね……」

「昨日のアレはお前の自業自と――待て、待て。凄く待て。昨日のことは本っ当にごめん。……でも、アレは事故なんだ」

 自分の身の危険を感じ取って、咄嗟に謝る。ここで「自業自得だろう」なんて言ってみろ、お前の首は本当に繋がっているか?

 っていうか、変態は普通に歩くと思うんだけど。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ふんっ」

 何十分もかけてようやく月夜を説得できた。なんと、身体への攻撃は十回までに防げた。これは最早奇跡と言っても過言ではない。

「まあ……いいわ。確かに昨日のアレは私も悪かったし……」

「そ、そうか。ありがとう」

 良かった……俺はまだ生きていられる。そうだよな、そもそも昨日のアレはは月夜が「さぁ走りましょう」なんて言わなきゃ何も起こらな――「だけど次見たら殺す」――いはずがないこともない! 俺が悪い! だから殺さないでくれ!

「んで、今日も走るのか?」

「ん、まあね」

 あっ、走るんだ。

 するとそこで、今日はしりとりの時以外ずっと無言だった雪雛が口を開いた。

「……二人は何の話をしてるの?」

「いやいやいやいや! 気にするな、雪雛は気にしなくていいんだ!」

 まさか俺が昨日、月夜のパンツを見た話とは口が裂けても言えない。そこは月夜も重々承知しているみたいだ。口を開こうとしていない。

「……そう。私だけ、仲間外れ」

「ぅぐっ……」

 そう言われると、心に刺さるな。しかもこんなに可愛い顔に言われると、痛み倍増だ。こういう時に可愛い子ってすっげえ得だよな。相手に精神的ショックを与えつつ、かつ自分の知りたい情報を聞きだせるかもしれないんだから。ああ、俺も美形に生まれたかった。

「無理よ」

「何でお前は俺の心が読めるんだよ!」

 またギャーギャー騒ぎ始めた俺達の隣では、また雪雛が首を傾げてこちらを見ていた。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ねえゴ――瀬戸」

「何だ?」

 『ゴ』に続く言葉が『ミ』だとは決して思いたくない。

「短期間で体力をつけるのは、どうすればいいの?」

「ん……? 短期間か。まあ、体育祭に合わせて三週間だったら……無理のない程度で走るのが一番なんじゃないか? ちょっとの時間でもさ」

「うぅ……やっぱり走るのね」

 月夜は困ったように俯いた。そんなに走るのが嫌なのか……って、やっぱりそれは個人の意見だよな。俺は嫌いじゃないけどさ、雪雛も。

「なあ、お前って何でそんなに走るのが嫌いなんだ?」

「何でも何も、嫌いだからよ……私、運動神経無いから」

 そうか。お前には神経すら無いのか。

 もう、鈍いとかの次元じゃなかった。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「はぁっはぁっ……ま、待ってよぉ……!」

 そして今日も、雪雛の家まではついて来れた月夜が、それ以降はだんだんとスピードを落としていった。だがまあ、こういう心意気が在るってだけでも十分偉いと思う。あながち「嫌いなものにちゃんと立ち向かわなきゃ」って言ってたのは、嘘じゃないのかもな。

「ほら、後ちょっと」

 後ろでゆらゆらと走っている、ゾンビ化月夜に声をかける。こうして前を走っているだけでゾンビの散歩みたいな気分を味わえる。――ここでは可愛く散歩なんて言っているが、現実はゾンビあんよ並みに恐怖感を覚える。

「はぁっ……やっと着いたぁぁ」

 十字路に着くなり、ぐにゃりとへたり込む月夜。今日は余計なトラブルを生まない為に、あえて手は差し伸べない。次見たら殺されるからな。

「はぁ~もう疲れたぁ~! 何で私の家ってこんなに遠いのよ……」

 自力で立ち上がった月夜が、俺を睨みながら愚痴る。いや、俺に言われても困るんだけどね。

「お疲れ」

「ん、お疲れ……って、アンタは疲れてなさそうで羨ましいわ」

 はぁ……と、月夜が大きくため息を吐く。

「そんじゃ、また明日な」

 軽く右手を挙げて、歩き出す。正直、疲れ切っている彼女を見捨てる形になるのには気が引けたが、死ぬよりマシだろう。

「はぁっ……はぁっ……せ、瀬戸……」

「んぁ?」

「あ、アンタ……はぁっ……アンタ――」




 ――ケータイ、持ってる?




 体育祭まで、残り二週間と六日。


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