3)プロローグ党 現状確認派
アホ毛の男の心の声(確か昨年度の10月頃からだったでしょうか、この国では不可解な事件が頻発していました。
社長による、突然の企業解体発表。それも誰もが一度は聞いたことがあるような有名大企業が……ここ半年余りで3回も……解体発表までのプロセスの一貫性から、同一組織による犯行だと考えられています。そのプロセスとは……
・解体発表当日に、数名のテロリストが襲撃している。
・襲撃の内容は、例外なく正面突破。
・全員、ヘルメットをかぶって襲撃している為、顔等は不明。
・襲撃のおよそ10秒前に、全ての監視カメラが突然故障する。
・一人一人が、企業配属の警備員よりも圧倒的に強い。
・激しい銃撃戦があったというのにもかかわらず、死傷者はゼロ。
・全員が、社長室に直行する。
・社長室突入後、何故か社長以外の全員を部屋の外へ追い出す。
・その後は、どんな方法を用いても中に入れない。
・何故か社長室から音が聞こえない。
・約10分後には、どういうわけか再び社長室に入れるようになる。しかし、部屋には社長以外誰もいない。
・神経が衰弱しきった社長が、企業解体を発表する。
・社長の証言によると、テロリストは自分の体内に超小型の遠隔式爆弾を埋め込んでいるらしい。ほとんどの人間は最初は脅しかハッタリだと考えるが、そのように考えた直後に突然爆発が起こり、従うしかないことを自覚する。
・その後は、テロリストが残した表に従って社長を含めた全員が他の企業に移転して、無事企業解体は終了。ちなみに、移転先の企業は、場所も職種も一貫性が無く、テロリストとの接点は無いと思われる。
……といった所でしょうか。
しかし、前回は他の2回と違い、移転先の表はパソコンの電子メールで送られて来ました。ちなみにメールの最後には、〈P.S.資源がもったいないのでメールでお伝えします〉と、テロリストらしからぬ文章が……
私は最初、テロリスト側が油断による凡ミスをしたと思いました。理由は簡単。メール元が解れば彼らの本拠地が特定できるからです。
しかし相手も甘くはありませんでした。雇われスパイとして警察官に成り済ました所までは良かったものの、肝心のメール元を調べるのに大苦戦しました。まぁ相手がして来そうな手段に対して相応の対策をするのは当然と言ってしまえばそれまでですが……
しかし私もスパイとして伊達に訓練を重ねて来た訳ではありません。2週間という長い時間を掛けたものの、何とか相手の本拠地の特定に成功しました。
しかし、私はそのことを警察に報告せず、あくまで本拠地の特定は出来なかったものとして振る舞いました。
そのようにしなければならなかった理由を雇い主様に聞いたところ、「異能が欲しい」とのこと。どうやら、テロリストの高い戦闘能力や、数々の怪奇現象を異能によるものだと思われているようですね。
雇い主様の思考回路の幼さや、身勝手な性格はいつものことです。まぁスパイなんてものを雇わずとも生活出来るこのご時世にも関わらず、「雇いたいから雇う」なんて台詞を言えるのは、あの幼い発想が出来る業であるという捉え方も出来なくはありませんが……
異能があるから戦闘能力が高いという発想をした雇い主様を軽く軽蔑こそしたものの、戦闘能力そのものに興味があるのは事実。しかし、もしテロリストが警察に捕まるようなことがあったら、いくら死傷者を出していないといっても懲役10年以上は確実。
それなら、戦闘能力の高さを見込んで彼らを雇ってみるのも悪くないと思いながら、私は相手の本拠地である『理習大学』という場所に足を運んだのですが……)