16)自己紹介党 フキ派 第7部隊
ジョズ「あれだけの時計を作っているのに時計職人ではないってどういう事ですか!?」
確かに時計を作っているだけでその人を時計職人と呼ぶには流石に無理があるだろう。だが、机に叩きつけられても壊れない程の頑丈かつ精巧な時計をアマチュアが作るというのはもっと無理がある。
しかし、驚きを隠せないジョズに対して、フキは当たり前のように答える。
フキ「近所に時計職人のおじさんがいたんです」
ジョズ「いや、それと時計を作れるのとは別問題のような気がするのですが……」
いまひとつ要領を得ない答えをするフキと、それに対して呆れるジョズ。その二人に、黙って話を聞き続けるのが苦手なのか、コータクが口を挟む。
コータク「近所ってことはそれだけ仕事の光景を見る機会が多いってことじゃねーの?」
ジョズ「いや、見ただけで覚えられるものだとは思えないのですが……」
フキ「確かに最初は見よう見まねでやってもなかなか上手くできなかったんですけど、やっている内に少しずつコツが分かってくるものですよ?」
ジョズ「……そういうものですかねぇ?」
妙に納得できないのは自分だけなのか? という表情をするジョズ。しかし、納得できないのはジェノも同様であるらしく、フキに向かってこう言っている。
ジェノ「マスターし尽くしたのが時計作りだけならまだ説明はつくが、お前それ以外にも木材やら金属やら繊維やらセラミックやらプラスチックやらと加工や製造の類をやらせたら右に出尽くす奴なんていねーじゃねーか」
ジョズ「どんだけマスターしているんですか!? いくらなんでもあり得ないですよ!」
ジェノ「まったくだ。この手の技術はマスターまでに短くとも十数年、長いものだと数十年掛かり尽くすってのにコイツは短いものだと十数日、長いものでも数十日でマスターしたらしいからな」
と、自分の同僚の凄さを改めて実感するジェノに対して、何の気なしにコータクが言った。
コータク「日本人の職人魂ってヤツなんじゃねーの?」
ジェノ「大抵の職人は一芸特化型だろーが。サブの技術を含め尽くして2つや3つってんならまだしもオールラウンドタイプの職人なんて聞いたことねーよ。そもそもコイツ純日本人じゃねーし」
ジョズ「あぁ、やっぱりそうなんですか」
そう言ってジョズはフキの方を見る。確かに遠くから見ると黒く見える瞳も、よく見ると若干青みがかっていて、ダークブラウンのショートヘアーも、毛先だけは透き通るような水色をしている。
ジョズ「瞳の色はともかく、どうして毛先だけが水色なんですか」
ジェノ「いちいち話を遮り尽くしてんじゃねーよ」
コータク「まぁ、オレ達みたいな奇天烈なヤツが相手なら普通はツッコミの百や二百はしたくなるよな」
しつこく質問をするジョズにイラつくジェノに対して、コータクがそう言って諫める。しかしジェノは訝しげにジョズを見てこう言う。
ジェノ「……普通か? コイツ」
ジョズ「確かにスパイは『普通』ではないですよね」
ジェノ「いや、そーゆー意味じゃなくて。まぁ性格に関しては人の事言えんが」
ジョズ「どういう意味ですか」
ジェノ「おっと、また話が逸れ尽くしちまった。フキ~、続け尽くしていーぞー」
そう言ってフキに話を振った後、水道水入りのペットボトルをどこからともなく取り出し、それをガバ飲みするジェノ。訝しげにジェノを見るジョズをよそに、フキは話を続ける。
フキ「え、えっと、髪の事なんですけど、この髪の色で出歩くのは流石に目立ち過ぎるので染めているんです。ただ……毛先だけが染まらなくって……」
コータク「まぁ、毛先が染まりづらい体質(?)だったんじゃねーの?」
ジョズ「その様ですね。まぁ、水色の髪なんて目障りな容姿で私の視界を彷徨かれるよりはマシですが」
ジェノの心の声(……やっぱコッチとタメ張れる位性格悪いな、コイツ)
空になった6本ものペットボトルをひび割れた机の上に置きながらそう思うジェノ。それをよそに、ジョズはフキにこう言った。
ジョズ「色々話が逸れましたが、これで最後の質問です」
ジェノ「……最後じゃなかったらリアルで針千本飲ますからな」
ドスの効いた低い声でそう言って両手を肩の高さまで挙げるジェノ。その両手の指の間には、全長10センチ程の巨大な針が何本も挟んであった。
ジョズ「だ、大丈夫ですよ。異常な程の多芸ぶりは元々感受性が高かったということで(不本意ながら)納得しましたから」
コータク「で、その最後の質問って何だ?」
ジョズ「簡単です。『この組織でも』かなりマトモな部類ということは、先輩方よりはマシというだけで、性格そのものはやはり難があると考えただけです」
ジェノ「……そうか」
ジョズの考察に対して、複雑な表情をしながら返すジェノ。そんな彼の様子を見たジョズは、確信を得たような表情をしてこう言う。
ジョズ「どうやら心当たりがあるようですね」
ジェノ「……まあな」
コータク「? フキはいいヤツだろ?」
ジェノ「イヤ、そうだけど、そうじゃなくてだな……」
呑気にそう言うコータクに対して、半分は呆れて、もう半分は感心してそう言うジェノ。
コータク「まぁ、別にいいんじゃねーの? 完璧な人間なんて滅多にいねーし、欠点もある意味魅力の一つだしな」
そう言って笑い飛ばすコータクに対して、ジェノは軽くため息を吐いた後にこう言った。
ジェノ「気楽でいいよな、お前は」
ジョズ「……本題に戻ってくれませんか?」
ジェノ「おめーに言われ尽くす筋合いはねーよ。あとここで言うのも止めとく。本人の目の前だと流石に気が退けるんでな」
フキ「え、遠慮せずに言ってもいいんだよ?」
コータク「そうだぜ。仲間に遠慮なんて要らねーだろーが」
ジェノ「かもな。だが本人の前で言い尽くせない理由ってのもあってね。いずれは言い尽くさねーといけねーかも知れんが、今はその時じゃないってだけだ。『窮する者常に人に制せらる』、無駄に慌てて自分のペースを乱し尽くしてちゃロクな事が起きたモンじゃねーぜ」
フキ「そ、そっか……」
ジョズの心の声(この人も大概気楽というか、マイペースというか……)
ジェノに対して、半分は呆れて、もう半分もやはり呆れながらそう感じるジョズだった。