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カルテ

 魔界の医者にとって我々が定めているような医術とは、彼らの術のほんの一部でしかない。

 医烏が仮に我々の世界の医術を評するのならば、こんな事を言うだろう。

「うむ、手術は確かに必要な時がある。必須だ。確かに投薬によって病を討ち、気血の流れ、魔力を整えることも必要不可欠である。必須だ。だが、医者が旅もせずに一所に引き篭もっているのはどうか。それでは自らが病に犯され放題であるし、本当に治療すべきものは医者の所に出向いてなどくれはしないのに……」

 少し論点がずれているような気がしないでもないが、魔界医者にとって治療対象とは一個体よりももっと大きく複雑なものであって、身体に関する技術、知識だけでは不完全だと考えられていた。時に軍隊を、経済を、機構をも治療する。彼らにとってあらゆる機能、システムが治療対象なのである。

 そんな医者の治療が、手緩いもののわけがない。今回の治療も開始早々デスマッチであった。


 治療空間が閉鎖された途端、医烏は今までの態度と打って変えた。いかにも医者らしい偉ぶった素振りが演技であったかのような垢の抜け方である。透き通った声で、

「こうすれば私を始末できるでしょう。監視役として私を始末したと報告すれば誰もあなたを咎められない」

 衝撃発言。医烏が名探偵か何かであったら

「犯人はあなただ!」

とか言って人差し指を伯爵に向けていたのであろう。

 唐突ではあるが、つまりはそういうことであった。

この言葉は伯爵に向けられたものであったが、これを聞いたアイはこの状況をどう思ったか。

 実は、答えは単純である。聞いていない。アイはこの時すでに、突如活発化した光属性腫瘍によって意識を絶たれていた(もちろんそう仕向けられて)。そして、次の瞬間には伯爵の手が医烏の首へと伸びていた。

 伯爵のその眼は医烏の読み通り正気ではなかった。

 展開についていけない読者のために、ここで医烏のカルテを読み上げて理解の助けとする(作者は医者ではないのでカルテの本来の意義や書き方を知らないが、ここでは簡単な治療の記録書と思ってもらいたい)。ちなみに、ここで扱われる病気はアイと無道の二人のものを足して初めて一つとなる性質のものである。


 患者名 アイ、無道=アルカルド両名

 病名 光属性魔導・呪詛系遠隔腫瘍

 概要 勇者によってプログラミングされたであろう特殊な呪詛である。光属性の植物や蟲の作用によって聖腫瘍をアイの体に埋め込む表側の攻撃に加えて、それとは全く別の手法によって密かに無道を呪詛し、間接的に聖魔力を供給していたと思われる。

 これによってアイを囮に秘密裏かつ持続的に光魔力が腫瘍部分へと供給されるシステムが出来上がっており、この操作を断ち切らない限りはアイの回復は不可能であった。また、現在に至るまで無道を含む魔王軍幕僚に協力者の可能性が浮上しなかったのは、組織のナンバー1、2への同時攻撃という呪詛学的には予想の困難な戦略をであったことが原因かと思われる。

 治療 無道に施されている洗脳に限りなく近い呪詛を解除、手術によってアイの腫瘍を排除し、術後経過を見て投薬を行う。


 治療の欄が概要の割には小ざっぱりしているが、実際にはすごいことをやっている。

 こうして話しているうちに無道と医烏の戦闘が始まっていた。何者かに操作を受けているとはっきりわかる虚ろな目から繰り出される、吸血鬼らしい速く強い一撃一撃をいなしながら観察するに、無道に掛けられた洗脳呪術はアイの腫瘍と同レベルかそれ以上に精神の致命的な部分にまで食い込んでいたことが分かった。ほぼ無道と同化していた。

 であるから、無傷で治すことなどはなから医烏の頭にはない。ちょっと拷問するぐらいのつもりでの荒療治となる。

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