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ボヘミアンフィスト  作者: 弐番
22/30

ザリーズンオブアベンジ

蒲生の表情は険しくなっていた。

先ほどののんびりした雰囲気がだいぶ昔に思える。

眼光の鋭さが、ことの本気さを思い知らせた。

強い憎悪と、嫌悪をむき出しにしている。

「詳しく聞かせてもらおうか」

俺は姿勢を少し前のめりにさせた。

蒲生に同情しているわけでは決してない。

津田琴乃がどうやって人間を破壊したかに興味がある。

いや、興味、というよりも深刻な内容である。どのタイミングでどこがどう破壊されたのかを知ることが、相手の手の内を読む上での判断材料だ。

すう、とゆっくり蒲生が息を吸い、はあ、と吐いた。

なるべく冷静に話そう、というのだろう。

クソみたいな組織には似合わない的確な判断を下す青年である。

「兄は顕天会の活動を熱心に行っていました。夢は会の素晴らしい教えを世界に広めること。そのために懸命に布教活動を繰り広げていたのです」

どうやら自慢の兄だったらしい。だが「素晴らしい教えを世界に広める」というのはそっちサイドの話であろう。純情な一般的な人たちからしてみたら「うざい勧誘をするバカ」程度の認識だったのは想像に難くない。

「蒲生くんの兄が無残にやられる様は、私も見ていたよ」

平田が大げさに肩を落とした。うつむいて、ゆっくりと首を横に振る。

「私が半田という不義理の女を追いかけている時に、津田が邪魔をしてきた。それを咎めようとした蒲生兄を津田は破壊したのだ」

ぐ、と歯を噛んで声をわざとらしく震わせながら平田が言った。

「なるほどねえ」

おれは腕を組み、ソファの背もたれに体を預けた。

背面のクッションが息を吐き出す。

「てこたあお前は」

人差し指を平田に向ける。

「蒲生兄がやられていくさまをボケーっと見ているだけだったわけだ」

「」

「何もできずにアホ面さらけ出して見ていたわけだ」

「」

図星か。何も言えなかろう。そらそうだ、相手は鬼も泣き出す鬼哭館空手の遣い手だ。それも並みじゃない。十年もの間、修行に耐えてきた生え抜きの男だ。平田が十人いても相手にならないだろう。

では、おれは勝てるだろうか。

合気は無敵の技術だ。究めれば触れた瞬間に相手を飛ばすこともできる。

だが、合気は完全じゃない。

鬼哭館空手がなにか対策を練ってきたらおそらく……。

そこまで考えてやめた。弱気になるのは今することじゃない。


「仕方がないと思います」

蒲生がいう。

「津田は悪魔のような男です。強い正義と信念があっても勝てるかどうかわかりません」

「いや、勝てる。我々は顕天会。正しさを表す」

と言ったのは平田だった。

いちいち言うことが癪に触るやつである。

「しかし、私たちの実力では不足している。だからこそこうやって芝井くんに頼んだのだ」

ふん、と鼻を鳴らして平田がこちらを見つめた。

情けないことを自信満々に言われると何だかこっちが悪いと錯覚してしまう。

それを怒っても仕方ない。そもそも平田に何を言っても無駄だ。

「そうだな」

と、気のない返事だけをして俺は足を組んだ。

それぞれがそれぞれの好意的解釈を振り回しているだけというこの空間に腹がたつ。

蒲生が身を乗り出す。

「芝井さん、津田をたおしてください。津田に天誅を見舞ってください」

先ほどの冷静さは少し薄れていた。

「ああ」

視線を外し、俺はため息混じりにそれに答えた。

100万円のためとはいえども何故にこんなクソみたいな連中と一緒にいなければならないのか。

いっそこの場で全員を半殺しにして俺だけのうのうと帰ろうか。

いや、それはダメだ。

この空間には蒲生のように何も知らない、自分が善の行動をしていると本気で信じているものがいる。

いまここで全員をぶっ飛ばせば、彼らは彼らの精神的支柱を失うだろう。


どうしたもんかね、と一人つぶやいた。

だが目の前に青年がいるため、俺の口は小さく上下に開閉しただけだった。

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