トラストネス
顕天会の施設は大きい。可哀想な子羊から巻き上げた多額なお布施で、あちこちに神殿?を建てている。
最高に成金趣味の神殿を見て信者は何を思うのだろう。
「まあ立派!」とか思うのだろうか。
と思えばおれが通されたのは雑居ビルの一室だ。
多分、フロント企業を構えているのだろう。
パソコンもコピー機もすべてオフィス機器は揃っている。
どうみても中小企業にしかみえない。
本棚には顕天会の本が一冊も並んでいない。徹底している。
一体業務内容はなんだろうか。
いや、どうでもいい。知ったところで己が腹を立てるだけだ。
「平田先生、どうでしたか」
一人の若者が近づいて平田に問う。
端正な顔立ちの今風の若者だ。
ツーブロックにした髪型が流行に敏感なことを匂わせる。
年はまだ20代も前半だろう。下手したら10代の後半ということもあり得そうだ。
ああ、顔がキラキラしている。曇りなき瞳を平田に向けている。
どうやら平田に心酔しているらしい。
なぜ分かるか? 長年の経験だ。
比較対象の少ない思春期付近は誰か一人に対して理想を投影する、ということはよくあることだ。
「うむ、こいつがよくやってくれたよ」
平田がソファに腰掛けながら言う。
「おい」
おれは言いながら平田の肩を肘でこづいた。
「こいつってのは、おれのことかい?」
平田がおれを睨む。
目線を鋭くさせてはいるが、目の奥が動いている。
恐怖。
この馬鹿は部下の手前、かっこつけようとしておれを睨んだ。
だが睨みの対象はおれだ。
上っ面は強がって見せても、逃げたい、という生存本能が出てきている。
小便臭い鼠の本性は隠せていない。
「すまない」
平田の口から謝罪の言葉が出た。
「ビジネスパートナーとして敬意を払うべきだった」
これは予想していなかった。
確かに契約を交わした以上はビジネスパートナーとは言える。
こいつ、狡い頭の回転だけは速いようである。
それを聞いた若者は何を考えたのか前のめりになって、その光輝く眼を平田に向けた。
そしてこう言ったのだった。
「つまり新しい仲間ですね!」
勘違いである。
おれは別に仲間でも何でもない。
戦力であっても友人ではない。
例えば娼婦に金を支払いヤラせてもらったとして、その娼婦と恋仲であると言えるのか?
むろん言えまい。
断じて言うがおれは仲間ではない。
だが、それを若者に言うのも忍びなかった。
この若者の
「蒲生といいます」
手を差し出してきた。
「芝井宗蓮だ」
その手をそっと、握り返した。
「よろしくな」
やんわりと握り返してきた蒲生の手は、温かった。
顕天会に利用されているのは、こんなにも温かい血が通っている者たちなのだ。
意識の外で、左目の下がひくついたのが分かった。
「どうしましたか?」
蒲生が問う。
「いや、寝不足だよ」
微笑んで、手を放した。
「そうですか。ご自愛ください」
屈託のない笑みを浮かべる蒲生に、おれは、ああ、と生返事を返すことしかできなかった。
「芝井くんには、ある仕事を手伝って貰っているんだ」
平田が言う。
「カンボジア進出ですか?」
蒲生がそれに返した。このカルト、外国にまで手を広げようというらしい。
植芝盛平翁の目指した宇宙の恒久的平和のためには、やはりこいつは倒さなければならないな、と思う。
「いや、そんな大それたことは出来ないよ」
苦笑いして蒲生を見た。
「ではやはり、あたらしいボディーガードの方ですね」
蒲生が問うた。
「いや、それも違う」
平田が答える。
うーん、と蒲生がうなる。こいつら、いちいちこんなまどろっこしいやり取りをいつもしてるのだろうか。
だとしたら相当な暇人である。
会話を楽しむというシロガネーゼ的な発想(妄想)なのだろうか。
「芝井くんには特殊任務を与えている」
「ええ、特殊任務。なんですか」
段々と腹が立ってきた。
「津田琴乃をたおす」
あえて言ってやった。
「津田……」
蒲生の顔が強ばった。
「どうかしたか?」
おれが問う。
「津田は、僕の兄を半殺しにした男です」




