サッカーパンチ
間合い、という言葉を概念として捉えるならそれは「射程圏」というものが相応しい。
達者は自らの攻撃が届く範囲を知っている。
そこに先ずは相手を入れ、そして、叩く。
しかし、相手の間合いには入りたくない。
入ったとしても攻撃は貰いたくない。
だから自分が一方的な状況になれるよう、各自で工夫を凝らす。
それは洋の東西を問わず、いかなる武術でも同じである。
だが、競技化した格闘技となるとダメージを受けても構わない、という発想が出てくる。
すると確かに習得は用意になるが、武術的には理を外れたことになる。
俺の眼前に構えるこの仙も、そうだ。
自己の絶対的な安全圏を確保せぬまま、闘おうとしている。
キックボクシングか、ムエタイか。
痛打を相手に浴びせかける攻撃は、必ず動きが止まる。
居着くのだ。
武術は居着かない。
水が走るように、歩は流れ、武は留まることを知らない。
仙は、おれに勝つことはできない。
俺が出れば、仙が下がる。
焦れて仙が足を出す。
おれの動きを止めるためのローキックだった。
おれは前に出た。
ぽん、と軽く仙の頬を張った。
それで充分だった。
仙の体が、大きくぐらついた。
おれの体にしがみつこうと手を回す。
だが、四肢は己の意思に反して力もうとしない。
そらそうだ、そうなるように打ったのだから。
仙の体が地面で伸びた。
こうなれば、しばらくは立ち上がれまい。
四方を囲む男たちは静寂の中で、それを見つめていた。
波がコンクリートを打つ音だけが響く。
まあ、最初にこれをみたやつはこうなるんだよね。
「どういうことですか……」
あほ面を晒したまま、川崎が言う。
「イカサマの気はなかった」
「そらそうだ」
「あなた、一体どんな技を……」
おれは笑った。
「どんなもクソもねえよ。一般の技だ」
「え、秘伝の武術などでは?!」
「まさか」
いや、本当にまさかだ。
おれの習得した技術はあくまで一般的なものだ。
「秘伝でもなんでもねえ。なんなら、本屋でも売ってるぜ」
「え?!」
「マジだよ、マジ」
「芝井、お前の技術はなんというのだ?!」
川崎が問う。
「合気」
おれは簡潔に答えた。




