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Subjects Runes【完全完結版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第1部アージェント王国編 第1章 超速爆炎の新入生

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第7話 初めてのクエストを編集

 まだ時間があるので、もう少しコボルトを狩っていこうという話になり、俺たちはさらに森の奥へと進んだ。


「見つけた」


 木々が密集し視界が悪くなってきた頃、50メートルほど先の開けた場所にコボルトの群れを発見した。


 数は10匹ほど。


 こちらにはまだ気づいておらず、今度はダンが素早く指示を出す。


「奇襲でいく。ネオンを入れた4人で近づいて初撃で4匹落とす。そのあと俺とカインで2匹ずつ受け持つ。残りはアゾートたちで頼む」


「了解」


 木々に身を隠しながら静かに接近する。合図と同時に飛び出し、一気に4匹を仕留めた。


 奇襲は成功だ。


 残ったコボルトたちが甲高い声を上げて飛びかかってくる。コボルトは小型でパワーこそ低いが、とにかく速い。


 爪と牙を武器に、地面を蹴って何度も飛び込んでくる。俺は木々を盾にしながら、その動きをじっくり観察した。


 ――速い。でも見えないほどじゃない。


 今の俺にとっては、ちょうどいい訓練相手だ。


 あえてすぐには仕留めず、攻撃をぎりぎりで回避し続ける。


 一歩横へ。


 しゃがむ。


 木を挟んで位置をずらす。


 紙一重でかわし続けていると、やがてコボルトの呼吸が乱れ始めた。


 動きが鈍る。


「そこだ!」


 一閃。


 ようやく仕留めた。


 周囲を見ると、みんなもほぼ戦闘を終えていた。


「お疲れさま。そろそろ帰りましょうか」


 サーシャの声で撤収が決まる。





 その後も森を抜けるまでに何度かコボルトの小群れを見つけ、そのたびに狩りながら街道まで戻ってきた。


 気づけば空は夕暮れ色だ。


 さすがに全員疲れたらしく、帰り道は自然と無口になる。


 俺とネオンが少し遅れて歩いていると、サーシャが歩調を合わせるように隣へ来た。


「ねえ、アゾートってセレーネの婚約者なのよね?」


 小声だった。


「そうです。セレーネから聞いてたんですね」


「婚約者が一族内にいるって話は聞いてたけど、名前までは知らなかったの。でも今日見てて、たぶんアゾートかなって」


 サーシャは少しだけ真剣な顔になる。


「でも、その話はあまり広めない方がいいかも。特にあの五人組には」


「やっぱりそうなんですか」


「普通なら他家の婚約者に手を出すなんてしないわ。でもセレーネは特別」


 サーシャは肩をすくめた。


「学年でもトップクラスの魔力に、あの見た目でしょ? 多少無茶してでも欲しがる人はいるわ」


 なるほど。


 これで当主が、学園で婚約の件に触れすぎるなと言った理由が腑に落ちた。


「そういう面倒な人たちには、私も何度か注意してるのよ」


「サーシャ先輩って、けっこう顔が広いんですね」


「こう見えて二年上級クラスだし」


 そう言って笑うサーシャの制服の裾から、ちらりと二本線が見えた。


「……え、上級クラス?」


「一応、子爵令嬢よ」


 さらっととんでもないことを言われた。


 思わず二度見する。


「それなら五人組がサーシャ先輩に近づかなかった理由も分かりますね」


「どうして?」


「サーシャ先輩もかなり美人ですけど、最初から勝ち目ないって分かってたんだと思います」


 言った瞬間、しまったと思った。


 つい自然に口から出てしまった。


 俺は少し気まずくなったが、サーシャはくすりと笑っただけだった。


「うふふ。ありがと」


 まるで弟でもあしらうような余裕の笑みだ。


 ……大人だな。


 そう思った次の瞬間。


 隣を歩いていたネオンが、無言で俺の足を思い切り踏み抜いた。


「痛てぇっ!?」


「何すんだよ、ネオン!」


 するとネオンはそっぽを向いたまま、ぼそりと呟く。


「別に」


 いや、絶対『別に』じゃないだろ。



         ◇



 ギルドに帰還した俺達は、裏口のカウンターに討伐したコボルトの右耳を提出し、討伐報酬を受け取った。


 全部で45体。報酬は4500ギル。


 サーシャは「付き添いだから」と受け取りを辞退したため、俺達5人で分けることになった。


 一人あたり900ギル――前世の感覚でいえば、だいたい9万円。


 初日の稼ぎとしては上出来すぎる。


「結構稼いだな」


 ダンが満足そうに笑い、マールも「こんなにもらえるんだ」と目を丸くしている。


 初めてのクエストでこの成果なら、確かに浮かれるのも無理はない。


 そんな中、少し遅れてセレーネがこちらにやってきた。


「おかえりなさい」


「セレーネ、先に戻ってたんだ」


「ええ。あの人たちのクエスト、薬草採集だったから」


 さらりとした口調だったが、少しだけ呆れが混じっている。


「しかもFランクよ。街のすぐ外で、簡単に終わるクエストだったわ」


 なるほど、と俺は納得する。


 あの5人は上位貴族とはいえ、戦闘能力はそれほど高くない。


 騎士としてではなく、将来の政略結婚を見据えて学園に来ているタイプだ。


 だからこそ、安全な依頼しか選ばない。


「結局あいつら、セレーネを連れ回してピクニックしてただけじゃないか」


 思わずため息が漏れる。


 セレーネは苦笑いを浮かべたが、否定はしなかった。


 ――やっぱり、そういうことか。


 胸の奥に、さっきサーシャから聞いた話が引っかかる。婚約者として守るべき存在が、こうして狙われている現実。


 それを改めて突きつけられた気がした。


 


 ギルドでの手続きを終え、俺達はそろって学生寮へ戻ることにした。夕方の街はまだ活気が残っているが、一日の疲れがじわじわと足に来ている。


 その帰り道。


 セレーネが俺とネオンにだけ聞こえる声で話しかけてきた。


「ねえ二人とも。今日、私の部屋で一緒に夕食どう? 入学祝いってことで」


「「了解」」


 即答だった。ネオンも特に異論はないらしい。


「といっても、料理は用意してないから何か買って帰ることになるけどね」


「だと思ったよ」


 思わず笑いがこぼれる。こういうところは昔から変わらない。


 結局、俺とネオン、セレーネの三人で食事を買って帰ることになり、ダンたちとはここで別れた。幼い頃から当たり前だったこの距離感。だけど今は、少しだけ意味が違う気がした。





 俺とネオンは一度自分の部屋に戻って風呂で汗を流し、再び制服に着替えた。部屋には洗浄の魔術具があり、魔獣討伐で汚れた制服もすぐにきれいになる。


 簡単に身支度を整え、先ほど買った食料を持って女子寮へ向かう。受付で訪問許可を得て、セレーネの部屋へ入った。


 女子寮も基本的な造りは男子寮と同じだが、違うのは一人部屋という点だ。


 セレーネは一人でこの部屋を使っている。俺たちはテーブルに食料を広げ、そのまま夕食を始めた。


「あらためて、ボロンブラーク騎士学園への入学おめでとう」


 すでに部屋着に着替えているセレーネは、風呂上がりなのか長い髪からほんのりと湯気をまとっていた。


 その柔らかな空気に、思わず気が緩む。


 ――懐かしい。


 セレーネが学園に入る前はこうして三人で過ごすのが当たり前だった。本当の姉弟みたいに。


 


「ねえネオン、あなた本当に男子寮で暮らすつもり? 本当に大丈夫なの?」


「今さらよ。ずっと男として過ごしてきたんだし、このくらい平気」


「表向きには、でしょ。実家では普通に女の子してたくせに、アゾートと同室なんておかしいわ」


「私は気にしないし、アゾートも私を女だと思ってないから」


「そんなことないでしょ。ねえ、アゾート?」


 急に話を振られて言葉に詰まる。


 確かにネオンを女として意識することはほとんどない。


 ……だが昨夜、部屋着姿を見て目のやり場に困ったのも事実だ。


 とはいえ、それを口にする気にはなれない。


「所詮ネオンだし、全然気にならないよ」


 そう答えた瞬間、ネオンがギロリとこちらを睨んだ。


 ――さっき自分で言ってただろ。


 


「本当に? それはそれとして、学園で男のふりをするのも大変じゃない?」


「うーん……まあ大丈夫かな。あんまり喋らないようにしてるし、無口なイケメンで通してる」


「それ絶対違うだろ」


 思わずツッコむ。


「俺はいつバレるかヒヤヒヤしてるんだ。正直やめてほしい」


「ほら、アゾートもそう言ってるじゃない。身体だって成長してるんだし」


「大丈夫だってセレン姉様。下着で押さえれば――」


「やめなさい!」


 即座にセレーネの叱責が飛んだ。


 ネオンが口をつぐみ、わずかに肩をすくめる。


 


「……本当に、いつまで続けさせるつもりなのかしら」


 小さく漏れたセレーネの独り言。さっきまでの軽い空気が、少しだけ変わる。


「お父様から聞いたけど、例の準備が整うみたい」


 その一言で、場の空気に緊張が走る。


「早ければ今年中に決着つけるって。ネオンの男装も……たぶんそれまでね」


 


 ――やっぱり、そうか。


 内戦。


 それに備えて進められている準備。


 


「二人とも、ウチの騎士団のことは学園では絶対に口にしないで」


 セレーネの声は静かだったが、有無を言わせない強さがあった。


 俺の頭に、ハーディンとニックの顔がよぎる。もし本当にまた戦いが始まるなら――あいつらとも剣を交えることになるのか。


 さっきまでの穏やかな食卓が、急に遠く感じる。楽しげに話す姉妹の声を聞きながら、俺はただ黙って考えていた。


 この平和な時間が、いつまで続くのかを。

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