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Subjects Runes【完全完結版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第1部アージェント王国編 第1章 超速爆炎の新入生

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第6話 初めての冒険者ギルド

 放課後、俺たち5人はダンジョン部の部室へ向かった。


 カインも誘ってみたところ、「面白そうだ」とあっさり乗ってきて、そのまま入部することになったのだ。


 部室に入ると、新入部員たちはすでに全員そろっていた。


 俺たち以外は5人。全員男子。


(……まあ、ダンジョン部だしな)


 横を見る。唯一の女子のマール。


 ……いや、ネオンも一応女だったか。


 そのネオンは相変わらず無表情で、特に気にした様子もない。こういう環境に慣れすぎているのもどうなんだろう。


「それじゃあ、全員そろったわね。ギルド登録に行くわよ」


 サーシャの号令で、俺たちは街へ向かって歩き出した。


 引率はサーシャとセレーネの二人。


 ――だが。


 セレーネはすでに、別の意味で囲まれていた。


「セレーネさん、その魔力ってやっぱり――」


「よければ今度、一緒に――」


 新入部員の男子たちが、露骨に距離を詰めている。


 見ていて分かる。あいつら、完全に目的が違った。


「あの5人、分かりやすいでしょ」


 いつの間にか隣に来ていたサーシャが、小声で言った。


「セレーネ目当てで入ってきたの。上級クラスの子も混ざってるわよ」


「……やっぱりそうか」


「去年も同じ。脈がないと分かると、すぐ辞めていくのよね」


 肩をすくめるサーシャ。


 貴族社会らしいといえば、それまでだが――俺は、囲まれているセレーネを見て、胸の奥に小さな引っかかりを覚えた。


(……別に、気にすることじゃないはずなんだが)


 婚約のことは伏せている。口を出す立場でもない。


 ……それでも、面白くはない。




 やがて街の中心部へと出る。石畳の通りには人があふれ、商人の呼び声と金属音が入り混じる。


 その中心にあるのが――冒険者ギルドだ。


 重厚な扉をくぐると、空気が一変した。酒と汗と、鉄の匂い。


 広いホールの一角では、すでに冒険者たちが酒をあおり、笑い声をあげている。


(……騎士学園とはまるで別世界だな)


 俺たちはその横を通り抜け、奥の受付カウンターへ向かった。


 列に並び、順番を待つ。


 やがて俺の番が来た。


「次の方。ああ、騎士学園の生徒さんね」


 受付嬢が慣れた様子で微笑む。


「では、学園の測定結果をお願いします」


 俺は今日の実技で配られた用紙を差し出した。


 本来、冒険者は登録時に試験を受け、実力に応じたランクが決まる。


 SからFまでの七段階。


 受けられる依頼も、そのランクで制限される。だが――


「確認しました。騎士学園の生徒さんは試験免除でDランクスタートになります」


 書類に目を通した受付嬢が、手際よく手続きを進める。


「貴族は魔法が使える生徒さんが多いですし、ギルドとしても大歓迎なんです」


 そう言って差し出されたのは、小さな金属製のプレート。


 Dランクのギルド証だ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


 軽く頭を下げる受付嬢。


 俺はその証を受け取り、掌の上で確かめた。


 ひんやりとした重み。


 それは――学生証ではなく『冒険者』としての第一歩を示す証だった。


(……いよいよ、か)


 胸の奥が、静かに高鳴った。





「全員登録が終わったようね」


 サーシャが新入部員全員を見渡し、軽く手を叩いた。


「来週は新入生歓迎ダンジョンの予定だけど――せっかくギルドに来たんだし、試しに簡単なクエストを受けてみましょうか」


 クエストか。胸の奥がわずかに高鳴る。


 実戦。初めての冒険者としての一歩だ。


 俺たちはカウンター横の掲示板に向かい、依頼書を眺め始めた。


 Dランクの依頼には魔物討伐も並んでいるが、多くは遠方で日数がかかるものばかりだ。放課後に日帰りでこなせるものは限られている。


 だからこそ、迷う時間はほとんどなかった。


 自然と、一枚の依頼書に視線が集まる。


  「ボロンブラーク街道沿いの森にいるコボルトの討伐(ランクD)」


「これでいいかな?」


「「異議なし」」


 ダンが即答し、マールもこくりと頷く。ネオンも特に反対はないようだ。


 決まりだな。


 依頼書をカウンターに持っていき、受付嬢から簡単な説明を受けていると――


「アゾート達はコボルト討伐にしたのね」


 聞き慣れた声に振り向くと、そこにセレーネが立っていた。


 相変わらず目を引く美しさだ。周囲の視線が集まるのも無理はない。


「あなたたちなら問題ないと思うけど、初めてのクエストは先輩が随行する決まりなの。私がついて行ってあげるわ」


 自然な口調だが、その視線はまっすぐ俺を見ていた。


 ――少し、嬉しい。


 そう思った瞬間だった。


「セレーネさん」


 横から割り込む声。


 例の五人組だ。


「我々は薬草採取のクエストを受注しました。ぜひとも我らの随行をお願いしたい」


 その中の一人が、芝居がかった仕草で手を差し出す。


「もし魔物が現れても、この私たちが必ずお守りいたします。どうかご安心を」


 ……いや、それ薬草採取だろ。


 心の中でツッコミを入れるが、口には出さない。


「あの、ちょっと――私は……」


 セレーネは困ったように言葉を選ぼうとしたが、


「さあ、こちらへ」


 五人組は半ば強引に彼女を囲み、そのまま連れていってしまった。


 あっという間の出来事に、取り残された俺たちは無言でその背中を見送った。


「……行っちゃったな」


 ダンがぽつりと呟く。


 マールは苦笑い、ネオンは無表情。


 そして俺は――なんとも言えない、引っかかる感覚だけが残っていた。


 あいつらに腹が立っているのか、それとも――


「もう、仕方ないわね、あの人たち」


 空気を切り替えるように、サーシャが肩をすくめた。


「じゃあ、あなたたちには私が随行しますね」


 にこりと笑う。


 軽い調子だが、その目はしっかりと俺たちを見ていた。


「一応言っておくけど――コボルトでも油断すると普通にケガするからね?」


 その一言で、空気が少しだけ引き締まる。


 遊びじゃない。これは、実戦だ。


「……了解」


 ダンがニヤリと笑う。


「いいじゃねえか。初クエスト、気合入れていこうぜ」


 俺も頷いた。


 ――こうして、俺たちの最初の依頼が始まる。



         ◇



「このあたりが目的地よ」


 ボロンブラーク城下町から東へ延びる街道を進むと、やがて視界の先に森が広がった。


 この森に生息するコボルトを討伐する――それが今回のクエストだ。


 コボルトは繁殖力が高く、群れで旅人を襲う厄介な魔獣だ。だからこそ数を減らし続ける必要があり、ギルドでは常に依頼が出ている定番クエストでもある。


 サーシャが一歩前に出て、振り返った。


「それじゃあ森に入る前に、役割を確認するね」


 手際よく編成が決まっていく。


  カイン  前衛物理

  ダン   前衛物理(水魔法)

  アゾート 後衛魔法(火・土)

  ネオン  後衛魔法(火・土)

  マール  回復(光)


  サーシャ 後衛魔法(水・風)


「うーん……前衛が二人で後衛が多いわね。バランスが少し悪いかな」


 サーシャが顎に手を当てて考える。


「アゾートかネオン、どちらか前に出られる?」


「なら俺が行きます」


 即答した。ネオンを後衛に残した方が火力は安定する。


「助かるわ。じゃあその編成で行きましょう」


 役割が決まり、俺たちは森へと足を踏み入れた。


 思っていたより視界は悪くない。木々の間隔は広く、ところどころに開けた場所もある。戦闘には向いている地形だ。


 しばらく進むと――


「いたぞ」


 ダンが低く呟いた。


 前方、およそ百メートル。コボルトの群れがこちらを捉え、牙をむいて突進してくる。


「来るわよ」


 サーシャが一歩下がる。


「私はサポートに徹するから、まずはあなたたちだけでやってみて」


 ――初陣だ。


 俺はすぐに指示を飛ばす。


「了解。まず俺とネオンで先制。火で数を削る。そのあと前衛で一気に詰める。マールは回復準備」


 簡潔に。だがこれで十分だ。


「え? でも詠唱してる間に――」


 サーシャが言いかけたその瞬間、炎が走った。


 ――ドンッ!


 ほぼ同時に放たれた二つの火球が、先頭のコボルトに直撃する。


「えっ!?」


 サーシャの目が見開かれる。続けて――


「よし初弾命中! アゾート、もう一発いくぞ!」


 ネオンの声がやけに楽しそうだ。



  【焼き尽くせ】



 再び、炎。今度は群れの中央を焼き払う。


 四発の火球が炸裂し、二十匹ほどいたコボルトの大半が一瞬で炎に飲まれた。



 森には学園のような防御シールドはない。つまり――魔法は本物の炎になる。


 悲鳴とともにのたうち回るコボルト。


 ……そして。


「……おい」


 カインがぽつりと言った。


 俺たち前衛三人は、途中で足を止めていた。


 走る必要がなくなったからだ。


「……全部倒すなよ! 俺たちの出番がないだろが!」


「悪い。ネオンが調子に乗った」


「アゾートが悪い」


 即座に返してくるネオン。


「いやいや、悪いのは全部お前」


 ――と、軽口を叩いている場合じゃなかった。


「てか、これ……まずくないか?」


 ダンの視線の先には、燃え広がる炎。


 コボルトだけじゃなく、周囲の木々にも火が移り始めていた。


 煙が立ち上る。嫌な予感しかしない。


「……やばいな」


 ダンが慌てて詠唱を始めるが――その頭上を、大量の水が一気に駆け抜けた。


 ――ザァァァッ!!


 広範囲に降り注ぐ水が、燃え広がりかけた炎を一気に叩き消す。


 サーシャだ。


「あなたたちねえ……」


 ため息交じりの声。


「初クエストで森を燃やすのはやめなさい!」


「……すみませんでした」


 もう素直に謝るしかなかった。


 そして土魔法を発動すると、土塊を生み出して燃え広がる炎にかぶせていく。


 消火、消火、消火。


 しばらくして炎は完全に鎮まったが、焦げた匂いが森に残る。


 静寂。そして――


「……初戦なのに派手すぎ。まったくもう」


 サーシャは苦笑するしかなかった。




 なんとか火は消し止められたが、焦げた地面の上で、俺たちは焼けたコボルトから討伐証明となる右耳を回収していく。


 初クエストにしては――いや、初クエストだからこそ、やらかしが大きすぎた。


「加減がわからず、すみませんでした」


 俺とネオンが頭を下げるが、サーシャは怒るどころか目を輝かせていた。


「ところで、さっきの魔法どうやったの? ほぼ無詠唱だったわよね?」


 ……やっぱりそこか。


 俺は苦笑しつつ、昨日ダンたちに話した内容をかいつまんで説明した。


 詠唱の短縮。言葉の核心だけを抜き出して発動する方法。


 サーシャは途中から完全に食い入るように聞いていた。


「ちょっと信じられないけど……これだけ詠唱を短縮できるなら、とんでもないアドバンテージね。私にもできるかしら?」


「ええ。発音が難しいですけど、練習すればたぶん。ただ――」


 俺は少しだけ真面目な顔になる。


「発動が早い分、連射すると一気に魔力を使い切ります。さっきみたいに」


「ああ、なるほど……」


 サーシャが納得したように頷いた。


 実際、もうかなりキツい。




 だが前世の経験で言うと、外国人の話す日本語はどうしてもイントネーションにズレが出る。


 セレーネやネオンは幼い頃から慣れているから問題ないが、サーシャやダンが同じレベルまで再現できるかは未知数だ。


 逆に、もしこの世界に完璧な発音の持ち主がいたら。


 例えば、妙に滑舌のいい語り口の人間とか。そんなやつがこの仕組みに気づいたら、俺なんかよりよほど強力な魔法を使えるはずだ。


(……いや、考えるだけ無駄か)


 そんなことを思いながら、俺は軽く息を吐いた。


 正直、もう魔力は残っていない。


 最初の連射とその後の消火活動で、ほぼ使い切った。


「今日は魔法は温存し、これで前に出る」


 俺が剣を抜くと、


「最初からそれでよかったんじゃないか?」


 カインが肩をすくめて笑った。


「次は俺たちにも活躍させてくれよ」


「了解。今度はちゃんと残しておくよ」


 ダンがニヤリと笑い、マールも小さく頷く。


「じゃあ次、行こうか」


 サーシャの一言で、俺たちは再び森の奥へと歩き出した。


 さっきまでの騒ぎが嘘のように、森は静まり返っている。


 ――だが。


 この静けさが、ずっと続くとは限らない。

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