第21話 モテない同盟
「ねえねえ今日の放課後、みんなで中間テストの勉強会をしない?」
中間テストが迫ったある日のランチタイムに、マールが思い立ったように提案した。
「勉強会か。座学苦手だし俺としては助かる」
カインは賛成のようだ。
「じゃあ決定だな。今日は何をする」
ダンがマールに尋ねると、
「社会かな?」
「俺が教えてやろうか」
「ダンは・・・ちょっと不安だから、アゾートに教えてもらうかな」
「ああそうかよ」
マールはダンに対しては全く遠慮がない。そんな彼女に俺は、
「俺でよければいくらでも教えるぞ」
「ありがとアゾート」
マールがにっこり微笑んだが、すかさずネオンが横やりを入れてきた。
「やめときなよマール。アゾートの説明はすごく細かくて分かりにくいし、マールにはこの僕が教えるよ」
「えっ! ネオンも教えてくれるの。両手に花だね私」
「ネオンはともかく、俺は花ではないと思うが・・・」
そして放課後、俺たちはBクラスの教室に残って勉強会を始めた。
とりあえず俺の席の近くに机を集めてくっつける。
クラスでの席順どおりに俺の右隣がマール、ダンが自分の机の向きをひっくり返して俺の向かいになる。
そしてネオンはというと、
「みんなすまないが、この子たちも勉強会に参加したいそうだ」
女子生徒たちを引き連れてこちらにやって来た。俺は、
「もちろん参加してもらって構わないが・・・ってクラスの女子全員じゃないか!」
入学から1か月以上が過ぎてネオンのまわりには女子生徒たちが徐々に結集し、ついにはネオンのファンクラブが結成されるに至っていた。
今ではマールを除くクラスの女子全員がファンクラブのメンバーだ。
そして勉強会の話を聞きつけた彼女たちは、自分たちも参加したいとネオンにおねだりしたのだ。
その結果として、言い出しっぺのマールを含むクラスの女子全員が勉強会に集まってしまった。
実はこのファンクラブには裏の目的があり、クラスで一番の美少女であるマールと白銀の貴公子ネオンがくっつくのを阻止するための互助組織であり、俺を含めて、メンバー以外は誰もその真実を知らなかった。
そしてさらにもう一つ、クラス内で密かに結成されていたある団体が初めてその姿を現した。
「やってらんねえな。お前らの勉強会にクラスの女子全員独占かよ。うらやましいよダン」
突然クラスの男子からの恨み節が聞こえてきたのだ。
「女子全員ネオン狙いだから、お前らとそう変わらんが・・・」
ダンがそう言い返すと、男子たちも同意してため息をついた。
「そういやそうか。・・・だったらダンとアゾートの二人に提案がある」
「提案だと?」
「ああ。お前ら二人を俺たちモテない同盟に入れてやる。一緒に勉強会やらねーか」
「そんな同盟いやだよ。お前らと一緒にするな」
モテない同盟。
クラスの女子全員がいつもネオンにくっついているため、あぶれた男子生徒たちが結集して、なんとなくできた組織だ。
ちなみに裏の目的は特にないらしい。
そんな彼らは、今日この教室で勉強会が開催されるという話を聞きつけ、放課後になっても教室を出ずにずっと待っていたのだ。
そして勉強会が始まりそうになると、同盟の男子生徒が俺たちの近くにわらわらと集まってきて、勝手に勉強を始めたという次第。
見ると、クラスの生徒のほとんどが教室に残っているような気がする。
こうして始まった勉強会。
ネオンの当初の計画では、俺の隣の席を無理やり奪ってマールを近づけさせない作戦だったようだが、ファンクラブの女子たちに阻止され結局俺たちとは少し離れたところで女子生徒に囲まれている。
そこへ遅れてやってきたカイン。
「このクラスは相変わらずだなぁ。ネオンに女子が群がっていて、残り者の男子が1か所に集まってるのか」
そういってカインはダンの隣、マールの向かいの席に腰をかけた。
「見方を変えれば、マールの周りに男子生徒全員が集まっているようにも見えるな」
カインが言葉を続けると、マールが小さくガッツポーズした。
「そう言われれば確かに! 私モテモテだね」
そう言うとダンがすかさず「何がモテモテだよ」とあきれ顔でツッコむ。
何気にこの二人は仲がいいな。
結局マールには俺が教えることになったが、カインとダンもわからない部分が多いらしく、俺に色々と聞いて来る。
ネオンは俺たちのことが気になるようで、さっきからチラチラこちらを見ている。
「ところでさ、前から聞きたかったんだけど」
突然マールが、俺の耳元で小声で尋ねてきた。
「あの毒虫の沼で使った土魔法って一体何だったの?」
「あれか・・・少し難しくてうまく説明できるかどうか」
「私には言えないことなの?」
マールが不安そうに俺を見るが、そういう顔をされるのがどうも苦手なんだよな。
「わかった。説明してみよう」
それから俺は、土は元素ではなく様々な元素が混じり合った混合物であり、土に含まれる特定の元素だけをイメージして魔法を発動させたことをマールに説明した。
だがマールは、
「何を言っているの? 火水風土雷光闇の7元素が世界の根源で、それが魔法の属性と一致してるのは常識じゃない。じゃあアゾートのいう元素っていくつあるのよ」
「既に100種類以上は見つかっている」
「そんなにたくさんあったら、元素でもなんでもないわよね」
・・・まあ普通はそう思うよな。
「じゃこの前アゾートが生成した元素は何?」
「ナトリウムとカリウム」
「それ元素の名前? 聞いたことないんだけど。「俺が考えた超強い元素」とかそういうやつ?」
アゾートはまだまだ子供ね、みたいな目で俺を見るのはやめてほしい。
仕方がない、ちょっと別の方向から攻めてみるか。
「土を良く調べると、いろんな種類の石や砂、枯葉が細かくなったもの、虫のふんとかも混ざってるだろ。だから土自体は元素じゃないんだよ」
「そんなの枯葉やふんは取り除けばいいじゃない。残ったのが土だよ」
「・・・・・」
「それよりあの時の魔法って、本当はエクスプロージョンだったんじゃないの?」
「そんなの撃ったら洞窟が崩れちゃうし、俺の魔力じゃそんなの撃てないよ」
「あ、わかった! 土の元素に火の元素を加えて沼に落としたんだ。さすが2属性持ち。やるわね」
うん、説明するのは無理だ。
面倒くさくなった俺は、
「まあ、そんなところかな」
「なるほど。じゃあ私の『パルスレーザー』はどうなってるの?」
質問はまだ続くのかよ。
「えーっと、光には波の性質があって、全ての色の光の波をいいタイミングでうまく混ぜると、波の頂点がピッタリ合わさって一瞬凄い光になるんだ」
「光が波なわけないじゃない」
まあ、普通そう言うよな。
「ライトニングってしばらくの間、ずっと光っているよね」
「そうだね」
「それを一瞬にまとめて全部光らせるとどうなる」
「凄く眩しくなる。あっ!」
「そういうことだ」
「分かったけど、光なら何でもああなっちゃうの?」
「ならない。ランタンの光や普通のライトニングは波がブツ切れでバラバラだから」
そう、マールのライトニングは俺が知ってるライトニングとは明らかに異質で、レーザーと同じコヒーレント性を持つ光だったんだが、それをどう説明するか。
「え? 私のライトニングは普通じゃないの?」
「ああ。マールのライトニングは全ての光が長い一本の線になっていて整ってるんだ。例えるなら美しい王女様の長い髪のように」
「王女様の長い髪・・・」
「それほどマールのライトニングは美しく整っていて、特別だってことだよ」
俺がそう言うと、頬を真っ赤に染めたマールが下をうつむいてしまったが、俺は光のコヒーレント性を上手く説明できてとても満足していた。
全てのスペクトルの位相を合わせて発生させるジャイアントパルス。その元となるフーリエ変換はネオンが怒り出すほど大変な計算だけど、それをマールに理解させるのは至難の業。
そう考えるとネオンが数学や物理を理解できたのはすごいことかも。小さいころからつきっきりで勉強を教えた甲斐があったな。
「おい、アゾート」
ダンが小声で俺に話しかけてきた。
「なんだ?」
「そろそろ、マールと小声でイチャつくのはやめた方がいいぞ」
「いや勉強を教えているだけで、別にイチャついてるわけでは」
「そうよ。これがイチャついて見えるのはモテない男子のひがみ?」
「ぐぬぬぬ。マールてめえ」
ダンをからかうように、マールは俺の腕に抱きついてきた。
バキッ!
そしてネオンがいる方から何か物凄い音が聞こえてきたが、なんか恐いので振り向かないようにした。
「そうじゃない。俺の後を見ろ」
「え?」
ダンの後を見ると、なぜかモテない同盟のみなさんが親の敵でも見るような目で俺のことを睨み付けていた。
「・・・アゾートは俺たちモテない同盟の同志だと思っていたのに」
「こいつらフェルーム兄弟は、二人まとめて男の敵だ!」
「いや、マールを盗ったアゾートはネオンよりもはるかに罪は重い」
「いやいや、ちょっと待てお前ら! 何か誤解してないか。俺はマールとは別に何もないのだが」
「何もなくてそれだけイチャイチャするって、どういうことなんだ!」
「いや勉強を教えてただけでイチャついてなんかない! マールからも言ってやれ」
「アゾートの言うとおり、イチャついてないよ」
「な。マールもそう言ってるだろ」
「アゾートが私を選んでくれるまで、ずっと待ってるだけなんだよ」
ガタガタッ!
教室の中央では、もの凄い形相でこちらに向かおうとするネオンが、クラスの女子たちに阻まれて動けなくなっている。
恐い・・・。
思わずネオンから目をそらすと、こちらではモテない同盟のみなさんが悔しいそうにブルブルと打ち震えている。
なんで誤解を招くような余計なことを言うんだよ、マールさん・・・。
おそらく心の中で血涙を流しているであろうモテない同盟さんは、だがぐっと堪えて強引に話題を変えてきた。
「そ、そういえば今度の中間テスト。2年生の魔法実技のトーナメントは萌えるよな」
「燃えるじゃなく、萌える?」
俺が尋ねると、男子生徒が待ってましたとばかりに熱く語り出した。
「なんと、2年生の魔法頂上決戦が学園が誇る2大美少女の対戦という奇跡のカード」
「そう、フリュ様とセレーネ様の直接対決っ!」
フリュ様とは、生徒会副会長のフリュオリーネ・アウレウス伯爵令嬢。アージェント王国きっての名門貴族のご令嬢様の略称らしい。
「お主はどちらを応援する?」
「もちろんセレーネ様でゴザる」
「フリュ様は整い過ぎた完璧な美貌に、完成された大人のプロポーション。氷の魔女との異名もあるほどの最強魔導師」
「しかし身分があまりにも高すぎて、到底手が出せない高嶺の花」
「生徒会長の婚約者だしな・・・」
「その点セレーネ様はフリュ様と同じレベルの超絶美少女なのに、俺らと同じ騎士クラス」
「騎士クラスなのに、上級貴族のフリュ様と実力は互角ときた」
「だから我らモテない同盟は、セレーネ様を全力応援なのだ」
セレーネのことで盛り上がるモテない同盟の男子生徒たちだが、この話題は非常にまずい。
ダンの方を見ると「自分で何とかしろよ」と視線を避けられた。
カインになんとかしてもらおうと目線を向けたが、なんとカインは腹を抱えて爆笑していた。
あかん、誰も助けてくれそうにない。
マールは俺の右腕に抱き着いたままで、ネオン・・・の方には目を向けたくなかった。
だって恐いから。
セレーネが俺の婚約者だと知られれば、この教室に俺の居場所はなくなる。そのことに俺は恐怖しつつ、勉強会が終わるのをひたすら待ち続けるしかなかった。




